3、蘇生③
「ご先祖さまは、島の法則というものをご存知か」
「ん……ちょっと待て、ご先祖さまとは俺のことか」
「ふむ、他に誰がいる」当然だ、と、でも木師は言いたげだ。
「いや、ご先祖さまとは、ちょっと……まるで死んだ人みたいだ」
「ふむ、あなたは死んでいた人だ」
木師はニベもない。
「……」
男は絶句した。納得したわけではなかったが、しかし自分の名が思い出せない以上、異はとなえられないと思った。
『まあいい、いずれ自分の名前が思い出せれば、こんなヘンな名前で呼ばれることはない』男は、一時的な呼び名だと解釈した。
「ふむ、島の法則じゃったな。知ってるか」
「いや、知らない」
「ふむ、島の法則とは、生物が生きるのに何の制約も受けなければ、生物は現在のサイズでいる必要はないということなんだ。
例えば、無人島にエサが十分に有る状態でネズミを放すと、ネズミはドンドン大きくなる。もちろん、天敵とか干渉者がいない状態でだ。そして、ゾウを放すとゾウはドンドン小さくなる。
ふむ、つまりネズミが小さいのもゾウが大きいのも、それなりの必然があったればこそだ。つまり、激烈な生存競争を生き延びる必要なサイズが、それぞれの生物の大きさなんだ。
ふむ、ワシらの現在のサイズは、生き延びる必要の大きさだったんだ。このサイズだったればこそ、曲がりなりにも生き延びて来られたのかも知れない」
木師は、チラリと山羊先生を見た。山羊先生が、マズイというような顔をしていた。
案の定、ご先祖さまに疑惑が浮かんだようだ。
「……そうすると、普通のサイズは」
「ワシらは、自分たちのことを新人類と呼んでいる。ご先祖さまのような人類は、旧人類というわけだ。……旧人類は絶滅した」
木師は山羊先生の懸念をよそに、平然と言い放った。山羊先生は、何か言いたげだ。
一方、ご先祖さまは黙ってしまった。
「ふむ、しょうがないだろ。いずれ分ることだ。こういう大事なことは、最初に言っておかないと、後で隠してたとか騙したとか思われる」
「木師、私が言いたいのは、タイミングです。ご先祖さまは、目覚めたばかりなんですよ。心も身体も、非常に不安定な状態です。せっかく目覚めたのに、ショックでまた寝込んでしまったらどうするんですか」
「ふむ、そんなこと言ったって、聞かれたら答えなきゃしょうがないじゃないか」
「だから、そこを何とか話を外すとか、もっと違った表現にするとかすべきだったのでは……」
木師と山羊先生は、口論を始めてしまった。
「本当か……」
ご先祖さまの呟きが、その口論を中断させた。
「ふむ、ご先祖さま、別に驚くことはないだろ。人類が滅びていようと大いに繁栄していようと、それはご先祖さまが予測していた範囲内ではないのか。
ご先祖さまには、懸念があったはずだ。例えば、地球温暖化、食糧危機、オゾン層破壊、エネルギー危機、民族紛争、宗教紛争、人口爆発、貧困問題、飢餓、核廃棄物処理問題、核兵器拡散、ゴミ処理問題、環境ホルモン問題、その他様々な難問が山積みされていた。
ふむ、それらは、有効な解決策が見つかっただろうか。例え、たった一つでも良い、キチンと問題が解決されたものがあったのか。
……ふむ、それら諸問題の行きつく先は、……人類の破滅でしかないじゃないか」
木師は、窺うようにご先祖さまを見た。言い過ぎたかなと、思っているようだ。
ご先祖さまは、目を伏せたままだ。
「ご先祖さま、よろしかったら、これを」
ご先祖さまは、ハッとして声に主を見た。まだ、年端も行かない女の子がいた。低学年の小学生のようだ。小さな盆に、水を満たしたコップと錠剤らしき物があった。
「睡眠剤です」
山羊先生が補足した。促されるまま、ご先祖さまは薬を飲み、水を飲んだ。
未だに悪夢の中を、彷徨っている気がしてならない。
「ご先祖さま、おお、横になってください。いまは、何も考えずに眠ることです」
ご先祖さまは、山羊先生に言われるまま目を閉じた。やがて、意識が遠のき平穏が訪れた。
新人たちは、ご先祖さまが寝入るのを見届けると、音を立てないように静かに部屋を出て行った。
今、司馬遼太郎さんの『播磨灘物語』を読み返してます。
面白いですね~。
紙の本です。パソコンなどの書籍は、目がチカチカして、どうも読みづらくて短時間で閉じてしまいます。
自分でweb投稿してるくせに、イケナイですね。(^^)




