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23、資料⑧


ご先祖様は翌日も図書室に居た。木師に「急ぐことはない」と言われていたが、ご先祖様はどうにも気になって仕方がなかった。どうあっても、人類がたどった経過を見定める必要があると思っていた。ただ、漫然と日々を過ごす気にはどうしてもなれなかった。



第五回、第二次世界大戦


一九三九年九月一日、ドイツ軍はポーランド侵攻を開始する。

イギリス、フランスは直ちにドイツに宣戦布告。それが、第二次世界大戦の始まりとなった。

ドイツは、胸のすくような快進撃を続ける。広場を埋め尽くす大群衆は、熱狂し、戦場では砲火が炸裂し、戦車は地響きを立てて突き進む。飛行機は、爆撃を開始した。

ご先祖さまは、不謹慎とは思うが血沸き肉躍り、気分が高揚するのを禁じ得ない。

巨大な大砲の轟音は、人の魂をも震撼させる。炸裂する爆弾は白熱し、兵士は血の雨を流す。バタバタと人が死ぬところは、作り物でないだけにリアリティーがあり、すごい強烈なインパクトがある。

軍隊の整然とした隊列や行進など統率のとれた行動は、幾何学的な美学を感じさせる。その整然とした態度は、誇り高き崇高な魂だ。



しかし、そんな気分はいっぺんで雨散霧消してしまった。

映像が、民衆の惨状をも映し出していた。家を焼かれた人々の泣き叫ぶ声、肉親を殺された人の悲痛な慟哭、故郷を失いボロを纏った難民の果てしなく続く行列。

なかでも、ナチスのユダヤ人に対する迫害は、たまらなく酷い。

女、子供を平気でこん棒で打ち据えている。人間はこうの人間に対して、酷薄になれるものかと寒気を覚える。

この大戦の特徴は、無差別爆撃に象徴される。つまり、軍隊対軍隊の争いではなく、無抵抗の一般市民をも巻き込んだ戦争だったことだ。

うむをいわせぬ攻撃が、軍隊、民間人の別なく繰り広げられる。

なかでも、ナチスの政策は異常だ。狂気を感じる。ナチスのユダヤ人の扱いは、家畜よりも酷い。家畜の方が、よっぽど良い生活をしている。家畜は人の愛され、大事にされている。ユダヤ人はスケープゴートにされ、いわれのき憎悪の対象になっている。

彼らが何をしたのか。何でそうまで憎むのか。いたいけな子供を殴って、良心が痛まぬのか。母と子の引き裂かれる悲痛な叫びを耳にして、何も感じないのか。

とにかく、ナチスのやり方は惨い。アウシュビッツの惨状は、とても人間の仕業とは思えない。


一方、極東の地でも戦火が拡大しつつあった。

その時代の日本は、ご先祖様にとってまるっきり無縁ではない。戦争の体験者から直接話しを聞いた事もあるし、父か叔父かの軍隊経験も聞いた事がある。

いろんな著作を、目にする機会も多かった。ご先祖様はそれらに接する度に、ある種の『(さわ)り』を感じていた。たまらない嫌悪を感じる。イヤなのだ。

神経がささくれだってくるようで、出来るなら触れたくない。

しかし、ご先祖様の思惑をよそに、次々と映像は溢れ出てくる。

その記録映像は、当然といえば当然だが、表面的な事象しか出てこない。二等兵がホンの些細な、極くつまらない理由でビンタをみまわれたり、リンチに近い制裁を科されたりする陰惨な場面なぞ、当然出て来ない。

ここに出てくる映像は、ピックアップされたホンの一部分のはずだ。それでも時代の狂奔(きょうほん)する空気は、否応なく伝わって来る。



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