20、資料⑦
「ふむ、ヒトラーは人種差別を政策化した。しかし、それはヒトラー固有のものだろうか。
ふむ、例えばアメリカだ。アメリカは、先住民インディアンの土地を騙し取ることによって成立した。インディアンを蔑視し、野蛮人とし、悪と決めつけ、恥知らずな正義を振りかざしてインディアンの土地を強奪したのだ。そして、アフリカから黒人を奴隷として連れてきた。
黒人の扱いは、家畜よりも酷い。まだ、家畜の方がよほどかわいがられたし、奴隷よりマシな扱いをされている。
ふむ、そっちの方も資料があるから、興味があったら見てみるといい。
ふむ、アメリカは人種差別の国だ。ただ、ナチスドイツと違うのは、時間と量の関係だけなんだ。ふむ、人類に対する冒涜は、ナリスドイツやアメリカに限るわけじゃない。人類の歴史は、戦争そのものだ。戦争の数だけ理不尽があったろうし、不条理な強権や抑圧や災禍があったはずだ」
「いや、しかし……もしヒトラーがいなかったら。ああいう形の戦争はなかったんじゃ……。現に、イギリス、フランス、どこの国にも嫌戦気分があった。
ヒトラーが侵略戦争を始めなかったら、当分はそのままの状態が続いたんではないだろうか。将来は別にして」
「ふむ、だが、しかし、ドイツにヒトラーが、ナチスが無かったなら……おそらく、その後のドイツの繁栄は無かったのではないかな。
ふむ、それはね、国家においても経験則があるということだ。良し悪しは別として、ドイツは国家一丸となって不況を脱し、ヨーロッパじゅうを席巻し、大ドイツ帝国を築いた。その経験則が有るのと無いのでは、その後の国家建設、運営、戦略に大変な違いがあるのだ。
ふむ、ドイツ、イタリア、日本これ等枢軸国、つまり敗戦国は、戦後揃いも揃って目ざましい発展をした。低迷するイギリス、フランスなど戦勝国をしりめにだ。
それは、何を意味するのか。ふむ、国とか組織、個人においても、成長する過程においてこそ最大の効能を発揮する。つまり、国敗れてそれまでの既成概念が全て無くなった事こそ、0からの出発こそ最大の発展の要素なのだ。
古い概念があっては、新たな発展は望めない。目ざましい発展は、何の規制もない所から始まる。ほ乳類だって、恐竜がいなくなってから始めて大発展を遂げた。
ふむ、悪いものが全て悪いものを残すとは限らない。
例えば、ユダヤ人が聞いたら気を悪くするかもしれんが、もしヒトラーがいなかったら、もしホロコーストが無かったなら、イスラエルという国は出来なかったろう。
世界中から嫌われていたユダヤ人が、六百万人にも及ぶ凄まじい数の虐殺という犠牲なくして、国連のイスラエル国承認を得るのは難しかったろう。
つまり、イギリスの二枚舌外交を根拠にパレスチナを占拠したとしても、それだけでは建国は難しかった。
ふむ、イギリスの二枚舌外交とは……。
一九一七年のフサインーマクマイン協定で、アラブの独立を約束したのに、一九一七年時の外相アーサー・ジェームス・バルフォアがユダヤ民族のパレスチナ復帰の支持を宣言した。(バルフォア宣言)
普通だったら無視されてしまうような条件、たったそらだけがイスラエル建国の根拠といわれるものだ。
ふむ、ヒトラーはユダヤ人絶滅を謀ったが、結果としてイスラエル建国を後押ししてしまった事になる。……ふむ、歴史とは皮肉なものだ」
「へ~、そんなものか」
ご先祖さまは、木師の話しに歴史の不思議な因果を感じた。
「ふむ、それから、あんまり根をつめない方がいい。人類の歴史を知ることは必要だが、ことを性急に知ろうとしてはダメだ。人類の歴史は理不尽そのもの、不条理そのものだ。精神衛生上、良くない。神経を苛む。
だから、それは、ゆっくりと時間をかけて見た方がいい」
ご先祖様は、木師の言うことがある程度理解できた。ご先祖様自身、歴史資料映像を観て、言葉では表現しにくいがある種の危惧を感じていた。しかも、それは回が進むほど大きくなるような気がしていた。
ご先祖様は、木師の忠告どうり今日は、もう映像を観ることを止めることにした。




