表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/37

19、資料⑥


「あの~ご先祖様」


思いがけなく、後ろに兎がいた。


「お昼です」


「いや、もう、こんな時間に……」


ご先祖様は、後ろ髪を引かれる思いで図書室を後にした。

ご先祖様は、気もそぞろらしい。ご飯つぶをボロボロこぼし、お茶をグッと飲んでは「あっちっち!」とこぼしてしまう。

兎を呆れさせた。

ご先祖様が、そそくさと昼食を終わして図書室に戻ると、いつの間にか木師がいてお茶を飲んでいた。


「ふむ、ご先祖様も飲むかね」


「いや、はい、いただきます」


「お~い、ご先祖様にもお茶~」


「は~い」


おくの方で、微かな応答があった。

やがて、おくの方からスルスルと盆を手にした女の人があらわれた。

挙措(きょそ)動作がなめらかで、一分のムダもない。まるで『能』か『狂言』を観ているような……。

そして、その肌の色が異様に白かった。


「どうぞ」


「あっ、はい」


ご先祖様は、妙にドギマギしてしまった。

よく見ると、少女らしい。しかし、ここの新人たちの見かけと実年齢は、(まぎ)らわしくてよく分からない。

少女は、穏やかに微笑んでしずしずと去って行ってしまった。


「あの人は」


「あっ、あの子は、ここの係りの者でオコジョというんだ。ふむ」


「はあ、オコジョね」


「ふむ、ところで映像資料は見たかんね。ん」


「はい、ヒトラーのところまで」


「ふむ、……で、感想は」


「いや、それが、あの~正直いって、俺にはヒトラーがとても魅力的に見える。

強く()かれるのを、感じた。ヒトラーとは、後世いわれるような極悪人だったのだろうか」


ご先祖様はヒトラーを英雄視することへの、ある種の後ろめたさがあるようだった。


「ふむ、ご先祖様は(あま)邪鬼(じゃく)なのさ。ヒトラーは、悪の権化(ごんげ)ともいうべき人物なんだ。全人類の、憎しみの対象なんだよ。それに憧れるとは、やっぱりご先祖様はヘソ曲がりなんだろう。

ふむ、ご先祖さまはそんな人だからこそ、二十世紀からワープしてここの時代に蘇生したのかもしれないな。

ふむ、ヒトラーが悪人か善人かは、ヒトラーに勝った者が決めることなんだ。それは『勝者の正義』といわれるもので、歴史の論理はだいたいそういうもので出来ている。ふむ、例えばヒトラーの悪人である根拠は、何だろうか?」


「それは、何といってもホロコーストだろう。アウシュビッツ……ユダヤ人絶滅計画を実行したこと。そして計画どうりなら。スラブ民族もこの世から根絶しようとしていたこと。

これは、誰が考えるまでもなく悪事だろう」


言うまでもない、とご先祖様は考えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ