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17、資料④


「これは……」


ご先祖さまは、ようやく思い当たった。これは、ラヴェルの『ボレロ』だ……と。

ボレロとは、ラヴェル作曲のちょっと変わった交響曲で、同じ旋律を次々と楽器を加えながら、繰り返し繰り返し演奏する曲だ。始めはフルートが控えめに主旋律を、ティンパニーが静かにリズムを。リズムはちょうど、人間の心臓の鼓動とシンクロする。

やがてクラリネットが加わり、オーボエが加わり、フレンチホルンが加わり、バイオリンが、チェロが、コントラバスが、いろんな楽器が加わる。

楽器が加わるたびに、曲は少しづつ少しづつ大きくなる。ティンパニーのリズムも、少しづつ少しづつ力強くなって行く。聴く者は、いつの間にかティンパニーのリズムと自分の心臓の鼓動が、一体化して行くのに気付かない。

これは音楽というより、催眠術に近い。


この曲が初演された時、大絶賛をはくした。しかし不思議なことに、ただ一人の婦人だけが口汚く(ののし)り始めた。


「これは、音楽なんかじゃない。エゲツないしろものだ。不潔で、低俗で、ゲスで、卑猥(ひわい)で、品のないワイセツそのものだ」


と。


「この曲は極めて不道徳であり、音楽を冒涜するものだ」


とも言った。

彼女は感じたのだ。これは、セックスそのものだと。それも、男の性向をそのまま表現したものだと。

最初は静かに始まり、次第次第に快感を募らせて行き、最後に絶頂とともに果てる。

しかも、この曲はご丁寧にもズ~と同じ調子で続けてきたのに、最後の最後で変調して終わる。これが、何を意味しているかは明らかだ。

ラヴェル自身も言っている


「あのご婦人が、この曲の一番の理解者だ」と。



ご先祖さまは、戦慄を禁じえなかった。悪魔が救世主の顔をして現れたのを目撃したのだ。

それにしても、ヒトラーの演説は実に見事なものだ。


それに比べたら、前世の自分の知っている政治家たちの、演説の下手クソなことといったら、お話しにならない。だいいち国会での所信表明など、実にみっともない。ただ役人の書いた作文を、棒読みするだけときてる。ただただ間違えずに読むことを考え、アゲアシをとられまいと、汲々(きゅうきゅう)とした感じだ。

学校の先生のツマラナイ講義を聞くよりも、なお数十倍ツマラナイ。

演説とは、まっすぐ聴衆を見て話すものだ。下を向いて話すなど、どうにもならない繰り言とか、泣き言とか、愚痴をこぼす時とか相場が決まっている。

対する野党の代表質問も、これ又ひどい。さらに、輪をかけて情けない。こういうものを、演説といって欲しくない。


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