16、資料③
第4回 アドルフ・ヒトラー
『何ということだ』ご先祖さまは、ヒトラーに強く惹かれる自分を知って、愕然とした。
強固な信念、その毅然とした態度、ゲルマン民族の高い誇り、何よりもその演説は意外に、異常に共感させられた。
ヒトラーだけが唯一人、民衆に情熱をもって説いていた。全身、全霊をもって、演説していたのだ。
一九三三年、八月三十日、ヒトラーは首相に就任する。その直後の演説が素晴らしい。
ヒトラーは、騒つく大群衆の前に立っていた。なかなか、話そうとしない。時に手を組み、時に腕組みし、さらには神経質そうに原稿のメモを確認したりしている。
ヒトラーは、待っていたのだ。聴衆が、進んで自分の話しを聞こうとするのを。
聴衆が自然と静まり、積極的にヒトラーの話しを聞こうとするのを。ヒトラーは辛抱強く待っていた。
やがて、ようやく、ゆっくりとヒトラーは話しを始めた。
現在、ドイツはどういう状態か。ヒトラーは、敗戦後のワイマール政治十四年を厳しく批判する。何億とあった金を全て使い果たし、インフレーションという愚行も犯した。ベルサイユ条約は、巨額な賠償金を要求する。その額は、あまりに法外だ。
激しすぎるインフレは、荷車いっぱいの札束で、ようやくパン一斤が買えるだけだ。
失業者は激増を続け、六百万人を超え七百万人になろうとしている。三人に一人は失業者だ。街には失業者が溢れ、毎日がケンカ沙汰だ。自殺者は後を絶たない。子供は腹を空かして泣く。
ヒトラーは訴える。『ドイツ民族の誇り』を、取り戻せと。
演説は、次第に白熱してきた。
『似ている』とご先祖さまは思った。何かに、似ていると……。
ヒトラーは激しくコブシを振り上げ、振り下ろし、手を振り払い、全身全霊をもって訴える。
ドイツ民族の誇りを取り戻すのは、ドイツ人自身だと。幸福は、ある日突然空から降ってくるものではない。ドイツ人自身が、自らの血と汗であがなうものだ。
一人一人のたゆまぬ、勇敢な、何者にも屈しない努力が、ドイツの輝く未来を創るのだと。
……演説は、二時間に及んだ。
最後は、激しく叫ぶがごとく訴えかけた。聴衆の興奮は、頂点に達した。爆発したかのような拍手。歓呼の声は、集団発狂したかのようだ。総立ちとなって熱狂する聴衆の歓呼が『ハイル・ヒトラー』に変わった。『ハイル・ヒトラー』の嵐の中に、党歌が流された。人々が渦となって流れて行く。




