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12、木師の棚場③


岩が、土が、石作り盆栽棚が、木製のサルワタリが、小さな池が、(かん)(ぼく)が、シブくて素朴な茅葺(かやぶき)東屋(あずまや)が、枯れた感じの柴垣が、丸くシブい木製のテーブルが、下草が、不思議な安らぎと親しみを感じさせる木々が、背の高い燈明に絡むフジや松、カシや小さな築山(つきやま)が、ビロードのような(こけ)が……。

それらが見事に調和して、芸術的ともいえる景観を現出していた。素朴とも神秘的ともいえる不思議な雰囲気を醸し出していた。

暗い木陰から、木の妖精が出てきそうな気もする。

ご先祖さまは、木々の一本々々に貯えられた慈愛と丹精の日々を感じた。おそらく、子から孫、孫からひ孫、ひ孫からと代々気の遠くなるような年月、肥培と管理が続けられたのであろうと思った。

その労苦がしのばれた。ご先祖さまは、その崇高な誠意に畏敬の念を感じた。

見事な庭だった。これ程見事な庭は、見たことがない。どんな庭だって、庭師の意図は見えるものだ。

それが、ここでは庭師の意図を推し量ることさえ、極めて無粋と感じてしまう。

棚上の盆栽からして、『種から芽生えて、ズ~とここにいますぅ』と、言っているようだ。


「見事な……」


ご先祖さまは、ようやく感想を口にした。

木師にご先祖さまの感動が、ダイレクトに伝わって来た。木師は、(しび)れるような感動を味わった。木師にとって、初めて自分を正当に評価してくれる人を見出した思いだった。とにかく、ここの新人たちは芸術の方面にとんと(うと)い。まるっきりワケの分からないワケじゃないが、どこか上っ面なのだ。

いくら良く出来たと思っても、誰かに評価してもらわなければ、ただの自己満足で終わってしまう。しかし、評価できうるのは同業の者か同病の者なのだろう。ここでは、自分を分ってくれる者はいないのかも知れないと諦めていた。

しかし、評価する者、理解者、鑑賞者のいない創作とは空しい。自分は、何のためにこんなことをしてるのかな~と、思った時もあった。

しかし、ご先祖さまは分かってくれた。理屈抜きで、ただただ感動してくれた。

木師は、それが嬉しい。その一事だけで、今までやってきた事が報われた気がした。


「これは……いろいろと」


ご先祖さまは、植物の種類が意外と多いのに気づいた。むしろ雑多といえる。

ただ生えているというか、植えられている状態が自然なので違和感がない。

棚上にある盆栽には、それぞれさりげなく小さな名札が付いていた。

赤松の盆栽や黒松の盆栽、五葉松、カラ松、皐月(さつき)(しん)(ぱく)、ケヤキ、アケビ、ムベ、藤、クチナシ、美男カズラ、ツタ、ナナカマドなどと、いろいろある。

草ものも、いろいろあるようだ。

形態もさまざまで、大きなヘビがトグロを巻いているような(ばん)(こん)や、タケノコ型の奇っ怪とも思える巨木の直幹、もっと奇っ怪な根上がり、ねじくれて斜上する模様(もよう)木、かと思うとヒョロヒョロとヘロヘロと伸びる細幹の文人木、それから、半懸崖(けんがい)、懸崖に、大懸崖、双幹樹、多幹樹、寄せ植え、根連なり、吹き流しなど、さまざまに広がりを見せている。


「ふむ、まんざらでもないだろ。ここは出入り自由だから、いつでも気が向いたら来るといい。季節ごとにさまざまな表情があって、なかなかに風情がある」


「それは、ぜひ、……ありがとうございます」


ご先祖さまは、やっぱり来て良かったと思った。


「そうだ!」


「何だね」


「いや、何か物忘れしてるというか、物足りない感じがあったんだけど……。分かった。思い出した。タバコだ。タバコが吸いたかったんだ。タバコ、有るかな~」


ご先祖さまは、このような素晴らしい景観、見事な盆栽の数々を鑑賞しながらの一服は格別であろうと思った。


「ふむ……」


木師は怪訝(けげん)そうな、困ったふうな、戸惑うような複雑な顔をした。


「有ったと思った。探しとくから、後でワシの部屋に来てくれ」


「はぁ」


探すとは……?ここでは、新人たちはタバコを吸ってないらしい。ご先祖さまは、タバコが吸える嬉しさと、その先タバコに不自由するかもしれないという不安に、木師と似たような複雑な表情をした。



言われた通り、しばらくしてからご先祖さまは木師を訪ねてみた。木師はL字型のソファーに片足を投げ出した半胡座(あぐら)状態で座り、身体を半分(ひね)って背もたれにもたれて、何やら重々しい音楽を聴きながらダラシナイ恰好(かっこう)で本を読んでいた。


「ふむ、有ったぞ」


「いや、それはありがたい」


ご先祖さまの少し緊張した表情が、いっぺんで笑み崩れた。

テーブルにはタバコにマッチ、それとただの皿が置かれてあった。


「それにしても、この部屋は広いですね」


「ふむ、この部屋は、二部屋分のスペースがあるんだ」


そう言われれば、二つの境の壁を取っ払って一部屋にしたような、やけに細長い部屋だ。手前が応接室らしく、奥が執務室らしい。それらしい立派な重役机があり、壁一面が本棚になっている。

ただ、重役机がハスに置かれてあって、机の上がかなり乱雑だった。

山羊先生の所もそうだった。片づけるのが下手なのは、ここの新人たちの性癖なのかもしれない。


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