11、木師の棚場②
しばらくして、兎がやって来た。
「兎よ、ひどいじゃないか」ご先祖さまは、一言文句を言いたい。
「あら~、ごめんなさい」
兎は口ではそんなことを言いながら、ご先祖さまを見ようとしない。たいして、汚れていないテーブルを拭いている。肩が、クックックッと揺れていた。
どうも、笑いを堪えているらしい。まったく、しょうがない奴だ。かといって、もうこれ以上クソの話しなどしたくない。
「馬親方、来た?」
「あ、馬というオッサンね、来た。トイレとテーブルとイスを、もう少し大きくしてもらうことにした。馬さんは、大工なんだね」
「そう、馬さんは建築の専門家なの、技術もしっかりしてるわ。通称、親方」
「親方か。ところで、親方はヘンな訛りがあるな。何でだ?」
ご先祖さまは、ここは新人しか住んでいないのに、何で馬親方に関西訛りがあるのか不思議だった。
「あっ、それはね、それは親方は大工でしょう。大工になるためには、大工マニュアル本とか大工マニュアルビデオとか使うのよ。そのマニュアルの先生が、たぶん関西人だったのよ。へっ、本人は、特別何も意識してないようで、話し方のクセくらいにしか思ってないみたい」
「へ~、そんなことが」
あるのかと、ご先祖さまはまだ納得しかねるようだ。
「だってね、物心ついてすぐ二、三年、長い人で五、六年もビデオの先生と首っ引きなのよ。大工の技術と一緒に、話し方まで憶えてしまうのよ」
「ふ~ん、そんなものか」
ご先祖さまは、ようやく納得したようだ。
午後になって、ブラリと木師がやって来た。
「ふむ、天気もいいし少し散歩でもしないか。案内するぞ」
「はあ、どうも」
さっそく木師は、アチコチ説明しながら歩き出した。歩き方が年寄りのくせに、セカセカと速い。ご先祖さまが追い付こうと足速にしたとたん、立ち止まって説明などする。ご先祖さまはせっかく回復しかけた機能が、また、ギクシャクしてしまう気がした。
『来なかった方が良かったのかなあ~』と、ご先祖さまはやや悔やんだ。
木師の家を出たところで、ヘンにシャチホコばった幼稚園児に出会った。
「ふむ、ごくろう」
「はっ」
と、幼稚園児は生意気にも威儀を正し、敬礼などしてる。腰に、細長い皮状の物をぶら下げていた。
少し歩いてから、ご先祖さまは聞いてみた。
「あの子は誰あれ?」
「ふむ、おまわりの犬だよ」
「オマワリのイヌ?」
「そっ、犬のおまわりさん」
「……」
『こ奴らは、いったい、物事をマジメに考えているのだろうか。犬のおまわりさんだとか、ここはここだとか……。別に、文句をいう筋合いではないが』
ご先祖さまは、ここの住民らの名前の付け方は安直すぎると思った。
そうこうしているうちに、いつの間にかご先祖さまは、自分がちょっと変わった場所に立っていることに気が付いた。
「ここは」
「ふむ、ワシの棚場じゃよ」
いきなり、別世界に迷い込んだ感じがした。
木師の棚場は、不思議な一種独特な雰囲気が醸し出されていた。極めて洗練された意趣が、さりげない自然さに装われてそこにある。
「いや……」
ご先祖さまは、言葉を失った。ご先祖さまとて、盆栽を知らないわけじゃない。多少の庭園とか、公園、自然林など、歩いた記憶がある。しかし、二十五世紀もの未来で、こんな時代がかった趣向にお目にかかるとは思ってもみなかった。
それにこの庭園には、ひどく懐かしい郷愁を誘う何かがあった。




