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第27話 一件落着……とはいかず

 クーデターの首謀者を始末した。

 残ったデストルケンの部下には、これからの魔界の再建に尽力することを条件に無罪放免とした。

 正規の城兵たちを呼び戻し、再び従来の魔王城を取り戻した。

 リザさんも回復した。

 俺とミャルの絆は最高。

 魔王業に憂いなし。

 これにてハッピーエンド!

 ……そうだったらどれほどよかったか。

 俺は今、猛烈に頭を悩ませている。

 原因は、デストルケンが死の間際に遺したとんでもない置き土産にあった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「待て」


 腹を貫かれ、全身から魔力の粒子が蛍のようにほとばしり、生命の終わりが近いデストルケンが、リザさんを抱きかかえて自室に連れて行こうとしたミャルを呼び止めた。


「なんだ?」

「持っていけ」


 フリスビーの要領で投げられた長方形の黒い物体を人差し指と中指で受け止める。

 ……|ビデオテープ? 絶妙に古っ。


「これは?」

「最強の勇者の映像だ。前に忠告しただろ?」


 人間界に生まれた闇を打ち払う人間の存在。デストルケンが魔王の就任を焦った理由だ。

 ただ、まだ声勇者を探している途中と聞いていたけど。


「お前が無様に囚われている間に、勇者は魔界に侵攻を始めた。単身にもかかわらず前代未聞の快進撃だ。すでに支城のほとんどを突破され、四天王の半分は死んだ」


 ゴタゴタの裏で声勇者を見つけていたのか。


「俺様が最後の砦。負けるわけにはいかない。対策を講じるために戦闘風景を撮影させたのさ」

「真面目だな」

「他人事か? バトンはてめえに渡ったぜ。魔界を守るのは魔王の義務だ」

「それには同意しよう」

「てめえが人間に勝とうが負けようが知ったこっちゃないが、人間如きに魔界を滅ぼされるのは屈辱だ」

「なるほど。ではありがたく受け取るとしよう」

「ただ、映像を見たら後悔するかもな」

「後悔だと?」


 デストルケンはニヤリと口角を上げて、


「人間に負けた魔王として汚名を被るくらいなら、ここで死んでいた方がよかった、とな! ガハハハッ」


 高笑いとともに、光の粒となって離散した。




「それじゃあ再生するよ」


 部屋に戻ってリザさんをベッドに寝かせたあと、『漆黒の大魔王ミャル』からミャルと肥丸英雄に戻った俺たちは、二人並んでテレビの前に座る。

 魔界の技術力は日本より四半世紀古いようだ。ビデオ一体のボックス型テレビ。モニターの下部にあるVHS挿入口にテープを入れる。

 粗いカラー映像は、いきなりクライマックスを写し出していた。

 草木が朽ち果てた荒野で、件の勇者と思われる十八くらいの少年と、一体のドラゴンが対峙している。


「あ、このドラゴンさん」

「知ってるのか?」

「昔から四天王の屋台骨だってリザが言ってた。デストルケンの話だと負けちゃうらしいけど、そう簡単には屈しないんじゃないかな」

「粘ってくれると助かるな。相手の動きを研究できる」


 気がかりなのは、大柄なドラゴンの表情がすでに怖気づいていること。

 まさか、な。

 デストルケンの言葉が頭をよぎる。



「ここで死ななかったこと、後悔するなよ」



 一瞬でケリがつくなんてないよな?

 嫌な予感がした。

 その予感は、何倍にもなって帰ってきた。

 再生と同時に勇者の声が聞こえてきた。


『お前がこの城の主だな! 人間界に闇を落とす悪夢は俺が打ち払う!』


 え?


『ありえない! この私がここまで追い詰められるとは……!』


 四天王の声も聞こえないほど頭が真っ白になった。

 それでも勇者の声ははっきりと聞こえる。


『喰らえ! シャイニングバースト!』


 光を纏った勇者がドラゴンの背後に瞬間移動。

 直後、ドラゴンは頭から真っ二つに切り裂かれ、敗者の咆哮とともに死滅した。


「……一瞬だよ。この人間さん、すごい強い。ね、ヒデオ君……ヒデオ君?」


 呆然とする俺を見る。


「どうしたの?」

「……マジかよ」


 体が震える。


「この声……」


 勇者の声は、間違いなく俺の憧れたキャラクター、ケイの声をしていた。

 つまり、勇者の声勇は肥丸勇人。


「俺の親父だ」





 声勇は人間界の発明。

 勇者のコネクト値を高めるために、日本から勇者の演技ができる声優を召喚しているという。

 だとすれば、どうして勇者の声優をやらせたら日本一の親父に声がかかっていないと思うのか。

 人間界は最強の勇者の誕生に合わせて、最高の声優を呼び出したんだ。

 思えば半引退したはずの親父の部屋が片付いていたのも、異世界に出張する準備だったと考えればつじつまが合う。

 親父は天性の主人公の声と、長年の声優経験で培った演技で勇者のポテンシャルを最大限に引き出すだろう。

 そんな親父と、これから魔界の命運をかけて戦うことになる。

 以前の俺だったら逃げ出していただろうな。大勢の視聴者に勇気を与えてきた親父と、土俵にすら上がれなかった俺。戦う前から勝負はついている、と。

 ……でも。

 それでも負けられない。負けるわけにはいかない。

 ミャルの夢を支えるって決めたんだ。

 こんなところで諦めてたまるか!

 絶対勝つんだ。

 俺一人の力じゃない。ミャルと一緒に。


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