表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/32

第17話 リザの裏切り

 リザさんが提案したミャル乗っ取り計画。

 台本を無視して冷徹な魔王を独断で演じるというもの。

 正直ミャルに悪いなあとは思っているんだけど、一度受け入れてしまった以上、もうあとにはひけない。というかリザさんが露骨に俺を避けるので――おそらく計画をミャルに悟られないためだと思われる――「やっぱりやめる」と告げるチャンスもない。

 悶々とした気持ちのまま、翌日の謁見の時間がやってきてしまった。

 もうやるしかない。


『今日も頑張ろうね』


 何も知らないミャルが能天気にポップな文字を台本に浮かび上がらせる。


(……ああ)


 玉座に腰を下ろしたところで、さっそく相談者が通される。

 城兵の格好をした骸骨の魔物と、ロープで両手を縛られたリザード。


「魔王様。このリザードが魔王城破壊工作を企んでおりました。いかがなさいますか」


 魔界に三権分立なんて存在しない。罪人の罪状を決めるのも魔王の仕事。


「はっ! おめぇみたいなへっぴり腰魔王が居座る城なんて取り壊した方が景観がよくなるってもんよ!」


 反逆者は反省ゼロ。


「どうした? 死刑にしてみろよ。まあ、もっとも、腰抜け二世魔王にはそんな度胸ないだろうがな」


 こんな救いようのない奴はさっさと始末したほうが魔界のためだと思うのだが、


『今回は許すから次からはしないようにって言って』


 これだ。

 ミャルはいつも通りの大甘裁定を下す。

 兵士も「どうせまた許すんだろ」といううんざりした顔をしている。

 そうだよな。城を守る兵士だって命かけて働いているんだ。せっかく頑張って危険な毒蛇を捕らえたのに、何もせずに外に逃がすだけなんて納得できないよな。

 だが今回は違う。



「地下牢に入れよ。無期限監禁だ」



 魔王の間に反響する魔王ボイスが立ち消えるほどの間が開いてから、


「え?」

「え?」

『え?』


 兵士も反逆者も台本も驚きの声を発した。


「な、なんで? 新魔王は馬鹿みてえに甘いって聞いたのに! どうして俺だけ?」

「いいんですか魔王様? 本当にちゃんと処罰してくださるのですか?」

「何度も言わせるな。早く連れていけ」

「は、はっ! すぐに!」


 おら、行くぞ!

 やめてくれ! 助けて!

 リザードは引きずられながら魔王の間をあとにした。

 扉が閉まったのをモニターで確認してから、台本に目を向けると、驚きと怒りが入り混じったような尖った文字が殴り書きされていた。


『ちょっとヒデオ君!? なにしてるの!?』

(…………)

『ねえ! 聞こえてるよね! 無罪って言ったよね!』

(……次が来るぞ)


 無垢なミャルを突き放すのは心が痛い。でもライオンが子供を崖から落とすように、ミャルにも険しい道を経験させる必要があるんだ。それがミャルが魔王としてやっていくために必要な訓練になるから。

 その後も、俺はミャルの意思に反して厳しい宣告を続けた。


「我が故郷で洪水が。工事のための人員を用意していただきたい」

『もちろん!』

「ダメだ。周りに頼る前に自分たちで何とかしろ」

「第一支城に攻め込んできた人間を捉えました。どのように処分しましょう」

『人間界に帰してあげて!』

「二度と魔界に足を踏み入れられなくなるように痛めつけろ」


 自分の意見が無視されていることを悟ったミャル。業務の後半になると、台本は白紙が続いた。

 地獄のような時間だった。

 ミャルが怒ることは想定していたけども「もーやめてよ!」みたいに可愛らしく怒ると思ってた。

 こんなに凍えるような空気になるとは……。

 とはいえもう止まるわけにはいかない。「リザさんのお願いだから」と他責思考で耐える。

 そしてようやく業務終了。

 一息つこうとボイスルームの椅子に腰かけようとしたとき、


『出てって!』

「うわ!」


 ボイスルームが解除され、強制的に魔王の間に放出。


「どうなさいました?」


 駆け寄ってくるリザさんを無視して、ミャルは声を荒らげる。


「なんでこんな意地悪をするの!? ねえ、なんで?」


 目じりに涙を浮かべて俺を睨む。


「私はパパの理想を引き継いだの! 昔の冷たい魔界に戻したくないの! なんでわかってくれないの!?」

「……ご、ごめん」


 相当怒っている。罪悪感が強まりすぎて、さすがに直視できない。

 本当は午後の巡回の時間でも同じ要領でミャルに教育する予定だったんだけど、無理だな。良心が耐えられない。

 もうネタ晴らしして楽になろう。


「いやー、実はリザさんが……」


 そう言いながらそばにいるリザさんの顔を見た時だった。

 違和感。

 リザさんの不愛想な顔が、わずかに笑っているように見えた。まるで、悪魔の駆け引きに勝ったような、そんな不敵な笑み。


「リザさん?」

「どうされました?」


 わざとらしく小首をかしげる仕草。


「ねえリザ聞いて。ヒデオ君が私の言葉を無視するの」

「それはいけませんね」


 は?


「声勇者は主の台本に忠実に従うことが大前提。それが崩れたとなると、もう声勇者に頼るわけにはいきません」


 このメイドはなにを言っているんだ……?


「これはリザさんの指示で……」

「私の指示? 冗談も休み休みにしてください。私がミャル様を裏切るなどありえません」


 吐き捨てるように言った瞬間、すべてを理解した。繋がっていたはずのロープをバッサリと切られた。

 こいつ! 嵌めやがったな!

 怒りで高まった体温は、両足の指の隙間に刺さった八本のアイスピックによって瞬間冷凍。トドメに「逆らうな」というメッセージを乗せた怜悧な視線を向けられては、蛇に睨まれた蛙。殴りかかることも釈明することもできない。


「つきましてはミャル様。この不埒な人間をいかがなさいましょう? 命令を無視するようであれば、もはや声勇者としての利用価値は皆無ですが」


 ミャル! 待ってくれ! 本当に違うんだって!


「…………」


 ミャルは俯いたまま少し間を置いて、ため息交じりに言った。


「返してあげて。元の世界に」


 嘘、だろ……?

 こんな終わり方ってねえよ。

 やっと俺の声が誰かの役に立てる。そう思っていたのに。


「承知しました」


 リザさんはミャルに一礼すると、今度は俺に向き合い、かつて俺をこの世界に転移させたときと同じ魔法陣を展開する。


「転送魔法発動。座標、ワールド一〇九、地球、日本……」

「待ってくれミャル!」


 動かないと! 説明しないと!

 最後に見る優しい魔王の顔が涙に濡れているなんて御免だ!

 青髪の少女に駆け寄ろうとした。

 しかし、靴に刺さったアイスピックがつま先を床に固定している。つんのめるようにして頭から地面に落ちる。額から血が滴り落ちる。

 それでも俺は手を伸ばした。

 こんな別れはイヤだ!


「ミャル! 話を聞いて――」「――転送完了」


 見慣れた、慣れ親しんだ自室にいた。

 俺の異世界生活は一か月で幕を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ