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第15話 新たな動き

 この日は珍しく魔王業休日。

 ミャルは「リフレッシュしてくるね!」と朝から鎧を身に着けずに部屋を出た。ミャルの部屋には隠し出口があって、こっそり抜け出すことができるらしい。どこにあるのかは知らんが。


「ヒデオ君も一緒に来る? たぶん他の魔物には出会わないから大丈夫だと思うけど」


 俺も誘われたけど断った。

 声勇として一か月。魔物にも見慣れてきたけど、さすがに生身で魔界を歩く度胸はまだない。

 こうして俺はミャルの部屋でお留守番となった。

 ぐへへ。女子の部屋かぁ。机の引き出しの奥でも漁っちゃおうかなぁ。ニチャア――なんてことはしないぞ。最低限のモラルくらい持ち合わせている。


「本でも読むか」


 ミャルは読書家らしく、魔界の本が本棚にずらりと並んでいる。この世界は日本と同じ言語なので俺でも読むことができる。

 ファンタジー風(異世界にとってのファンタジーってなんだ?)の題材を何冊か手に取り、すっかりマイスペースと化した床に敷いた布団の上に置く。

 キッチンから飲み物とお菓子をもってきて、布団に籠れば完全ニートモード。久しぶりに一人の時間を堪能するとしよう。


「ヒデオ様。失礼します」

「うわ!」


 いきなり扉が開いたので布団を蹴っ飛ばして飛び上がる。


「化け物でも現れたようなオーバーリアクションですね。扉が開いただけでこれなら、背後から肩を叩かれたらショック死するんですか? してみますか?」


 扉から顔をのぞかせる不愛想なメイドが俺を見下す。


「いや、ついにこの隠し部屋が魔王軍に見つかったのかと」


 ミャルの父親が娘を隠すために作った隠し部屋。入り口は魔王の間の壁にカモフラージュされていて一見すると分からない。鍵もミャルとリザさんしか持っていない。さらに探知魔法や侵入魔法など、あらゆる対策が施されている。難攻不落の子供部屋ってわけだ。

 絶対に見つからないと安堵していたからこそ、本気で心臓が飛び出るかと思った。


「リザさんはミャルに同行しているものだと思ってた」

「オフにまでお供しては気が休まらないでしょう。それに、ミャル様の外見で鎧の魔王の中身だと気づく者はいません。警護は不要というわけです」


 リザさんは部屋に入ると、扉の鍵を閉めてから、机の反対側に正座する。なにやら神妙な雰囲気を感じ取り、俺も対座する。


「それで、どうしてここに?」

「ヒデオ様に用がありまして参上した次第です」

「俺に?」


 日ごろからゴミを見る目を向けてくるリザさんが?


「あ、分かりました。俺がミャルの部屋でよからぬことを企んでいると疑って、見回りに来たんですね」

「それもあります。いかにも下衆なことを考えていそうな変態顔ですからね」

「冗談で言ったんだけどなあ」

「ですが、今回はもっと大事な要件です。ヒデオ様にお願いしたいことがあるのです」


 はて? リザさんが俺にお願いとは珍しいこともあるものだな。明日はアイスピックの雨が降るな。


「聞きましょう」


 すると、リザさんはキュッと覚悟を固めるように唇の両端を引き締めて、正座のまま少し後ろに下がり、両手を地面について頭を下げた。


「どうかミャル様を指導してください」

「ちょちょちょ! 急にどうしたんだ! リザさんらしくない」


 いきなりの土下座に動揺を隠せず、机に手を突いて半立ちになる。


「あなたの世界において最上位の懇願の姿勢。それほどまでに私は本気だということです。どうでしょう? 受けていただけますか?」

「受ける! 受けるから顔を上げて」


 こんな弱気なリザさんは見たくないという思いが先行し、とりあえず同意した。

 顔を上げたリザさんは「ありがとうございます」と、もう一度小さく頭を下げた。

 なんなんだいきなり。

 とりあえず話を聞いてみないことには事情がさっぱりだ。


「それで、指導って一体どういうことです?」


 リザさんはいつもの氷の表情に戻り、


「ミャル様の魔王の資質についてです」

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