第14話 ご褒美は洗体サービス
こうして始まった声勇者生活。
基本的な一日の流れは初日と何ら変わらない。
午前は魔王の間で謁見、午後は魔界の各地に繰り出して民と交流。地味だけど、これが魔王の業務。
休憩はない。いつ会話が始まってもいいように、常にマイクの前でスタンバイしておかないといけないからな。おかげで足がパンパンになる。
業務が終わるとミャルの部屋に戻って、ようやくボイスルームから解放される。ミャル、リザさんと食卓を囲んで異世界飯に舌鼓を打ち、風呂に入ってから就寝。翌朝、またボイスルームに入って……という流れ。これを休みなく毎日繰り返す。
結構ハード。しかも気晴らしにどこかに行くこともできない。ミャルに中の人がいることを知られてはいけないし、そもそも人間の俺が魔界を出歩いていたらすぐに殺されてしまうからな。誰にも知られていないミャルの部屋に引きこもっておくことが最も安全なんだ。
窮屈な毎日。
だけど不満はない。
専属の声優のようにミャルに声をあてる日々は、声優の夢が散り、空虚だった人生に充実感を与えてくれた。
試行錯誤しながら日に日に演技が上達するのを実感すると、楽しくてしょうがないんだ。大嫌いだった自分の声が少しだけ誇らしく思えた。やりがいってやつ。
……それに、とっておきのご褒美タイムがあるしな。
それは夕食が終わり、食器を片付けたリザさんが「では本日もお疲れさまでした。おやすみなさい」と部屋を出たあと、ミャルと二人きりになったところで訪れる。
「明日も早いし、お風呂入ろっか。お先にどうぞ」
ミャルはいつも屈託のない笑顔を俺に向けて、一番風呂を譲ってくれる。
俺は新婚夫婦のような気分で一人洗面所に向かい、服を脱いでから、現代日本と見紛う綺麗な浴室に入る。
椅子に座り、鏡を正面に髪を洗う。
平静を装いつつも、内心はソワソワ。ずっと洗面所に意識を向ける。シャワーの音の向こうから微かに聞こえる衣擦れの音を聞き逃さない。
そして髪を洗い流したタイミングで、扉が開き、可愛い声が浴室に反響する。
「おまたせー」
これだよ。これがあるから毎日頑張れる。
顔を上げた視線の先、鏡越しに写るのは、バスタオルを体に巻いたミャルの姿だった。
後ろで束ねた水色の髪の毛、隠し切れないたわわな胸、チラリズムを煽る太ももと臀部の境界線、純白のタオルに包まれた純白の肌。
布一枚の裏側に魅惑のボディを携えた美少女のご登場である。
「頑張って働いてくれているヒデオ君のために、私が体を洗ってあげる」
無給で働く俺が忍びないと思ったらしい。ある日、優しい魔王様がそんな提案をしてくれた。
俺は体裁を気にする日本人らしく「いいっていいって」と口では断りつつも、内心では「イヤッフー!」と某配管工オジサン並みに叫んだものだ。
本番まで行くのか? 童貞卒業式ですか? 最初は下衆な期待を抱いていたが、さすがにピュアなミャルがそこまでするはずもなく。普通に身体を洗い終えるとさっさと出ていってしまった。R15指定の洗体サービス止まり。
初日は期待しただけにちょっとだけ落ち込んだけど、これが毎日続くものだから「これはこれでアリだな」と微エロだからこそ掻き立てられる妄想をエネルギーに、毎日を頑張ることができた。
可愛い顔、甘い声、大きな胸。最高の美少女に体を洗ってもらう。こんなサービス、日本じゃあ何億払ったって受けられない。それが日給で支払われるのだから、俺は億万長者よりも幸せ者だと思う。
それからしばらく平穏な日々が続いた。
謁見、巡回業務を無難にこなし、夜にはご褒美タイム。
たまに武闘派の襲撃にあうものの、難なく退ける。
唯一の懸念は四天王デストルケンのクーデターだけど、不穏な動きを見せることもなく。
順風満帆な声勇生活。
諦めたはずの声優の夢を疑似的に叶えているような気がして、毎日が充実していた。
事件は、異世界に来てから一か月後に起きた。




