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第1話 地声が魔王のフリーター

 おかしい。

 何度考えてもおかしい。

 俺、肥丸英雄(こえまるひでお)は一人暮らし。彼女いない歴=年齢で、十年後には魔法使いにジョブチェンジすることが確実視されている弱者男性。

 だからバイト帰りの俺を待ってくれている彼女(ひと)なんて存在しない。

 ましてやメイド服を着た銀髪の女性が出迎えてくれるなんて、妄想の域にも届かない夢物語。

 そのはずだった。


「おかえりなさいませ。英雄様」


 アパートの玄関扉を開けると、見慣れた廊下を背景に、幻想的なメイドが佇んでいた。

 しかも、え? めっちゃ美人なんですけど。ここって日本だよね? 日本人とも外国人とも違う、けれどもこの世の男が全員一目惚れしてしまいそうな、とんでもない美人さんだ。一体どこから来たのだろう? もしかしたら銀髪の横から突き出た尖った耳がヒントなのかもしれないけど、その答えを脳内に書き出したときが精神病棟行きのサインになる気がするのでやめておく。


「あの、何の用ですか? そもそもどうやって家の中に? 鍵かけてたと思うんですけど」

「私は魔王の使者、エルフ族のリザと申します」


 あ、無視ね。そしてあっさりエルフ名乗ったわね。

 異世界からの使者であることが確定したわけだ。常人なら慌てふためくところだが、普段からアニメやラノベを嗜んでいる俺は冷静に対処することにした。


「わかりました。魔王の使者のエルフさんですね」

「リザです」

「ではリザさん。俺に何の用でしょう?」

「魔王様があなたを必要としています。私と一緒に魔界に来てください」


 無表情で、淡々とした声で言う。

 ……異世界転生ってエージェントが直接スカウトしてくるの? 異世界の就活サイトに登録した覚えはないんだけど。

 というかそれ以前の話、なんで俺なんだ?

 自分で言うのもなんだけど、俺はスカウトされるほどの人材じゃない。

 中肉中背。写真を撮ったら背景と同化してしまいそうな平凡な顔立ち。勉強は苦手で、高校卒業後は声優を目指して声優専門学校に入校するも、一年で退学。大学への入り直しを検討するもやる気が出ず、ラーメン屋のアルバイトをダラダラと続けている。気づけば二十歳になった。

 こんな俺が異世界に行ったところで役に立つわけがない。戦況をひっくり返す画期的な戦術も思いつかないし、異世界に蔓延する疫病を治す薬も生み出せないし、おいしい料理も振舞えない。


「まだそこら辺を歩いている学生やリーマンを誘った方がましだと思うけど」

「いえ。私は数多いる人間からあなたを選んだのです」


 翡翠の瞳は俺の目を捉えている。


「でも俺、なんの特徴もないですけど」

「それです」

「え?」


 それ、とは?

 疑問を表情に出す俺に、リザさんは俺の口を指さし、


「その声です」

「ああ……」


 ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ腑に落ちた。

 近所に評判の良いラーメン屋がある。といってもチェーン店だし、特別安いわけでもない。いたって平凡なお店。しかしここ三、四年前からSNSで密かに話題になっていた。

 その理由はレビューを見ればわかる。


『すげえ魔王っぽい声の店員がいるんだけど笑』『厨房から聞こえる声、完全に魔王でわろた!』『魔王様にいらっしゃいませと出迎えてもらえるラーメン屋はここだけ!』『このお店では静かに食べましょう。そして注文が入ったら厨房に耳を傾けましょう。魔王がオーダー読み上げますので。※平日しかいないので注意』『週五でシフトに入るバイト君(魔王)w』


 このお店、実は俺のバイト先なんだよ。

 四年前にキッチン担当で採用されて以降、シフトは平日の週五出勤。挨拶からオーダー読み上げまでバッチリこなしている。

 なぜか声を出すたびにクスクス笑われるけどな。

 ……。

 ええはい。

 そうなんです。

 ラーメン屋の魔王。

 それ、俺です。

 なぜ魔王と呼ばれているか。

 答えは簡単。



 地声がとんでもなく魔王だから。



 魔王城の玉座に腰掛ける厳つい鎧に身を包んだ魔王をイメージしてほしい。そいつの声を想像してくれ。きっと低くて渋い声なんだろうな。次にそいつの鎧を脱がそう。すると平均的日本人男性が出てきたとする。その男の手を引いてラーメン屋の厨房に立たせて、こう喋らせるんだ。「醤油ラーメンネギ増し一丁」と。

 それが俺だ。

 中学生の変声期が終わったとき、俺の声は低くて重いくぐもった声になっていた。まるでファンジーアニメに出てくるラスボスのような声。

 おかげで人生は苦労の連続だ。初対面の相手には「こわっ」と恐れられ、仲の良い友人には「一人称『吾輩』にしろよ」とからかわれ、店長からは「テレビ局に取材に来るようお願いしておいたから!」名物店員としてPRされた。


 ……それに、この声のせいで声優の夢が儚く散ったしな。


 悲しき魔王なのだよ。俺は。

 この声は役に立たない。

 そう思っていた。


「魔王様は英雄様の声を求めています。ぜひ魔王様のために働いてください」

「俺の……声……」


 嫌いだった自分の声が初めて人の……じゃなくて魔王の役に立つ。


「どうでしょう? 魔界に来ていただけますか?」


 直感が訴える。乗るしかないと。


「よろしくお願いします」


すでに書き終えているため、毎日更新、必ず完結します。

よろしくお願いします。

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