かんざしの中には
ここは日本橋の旅籠。
そこには一匹の美しい狐がいた。
その名はおさき。
おさきは幸せを感じることなどほとんどなかった。
そんなおさきが少しの幸せを感じた、その時、新たな絶望がおさきを襲う。
おさきのかんざしの中には葛の葉が入っていた。といっても、普通の葛ではなかった。白い葉をした葛だ。白い葉のつく葛は森の奥底に隠れていた。森の奥底ならどこにでもあるわけではない。稲荷神社の中だ。
森の奥底にその神社はあった。だが、その神社には本殿がなかった。あるのはお稲荷さんと、寂れた鳥居だけだった。つまり、その神社は自然と、稲荷だけを祀っていた。その鳥居をくぐると、白い葛が見えるのである。白い葛だらけのそこは、まるで天国のように幻想的な場所だった。
「ふーん、、これは綺麗だな。まるで天国にいっちまったみたいだよ。」
重悟朗はかんざしを見つめながらそう言った。
「でも、あの娘はこれとは違ったのをつけてたぞ。」
おさきの心の臓が大きく脈打った。不思議な恐怖が襲う。だが、平静を装うために安心したような顔を見せて、
「やっぱり、違いましたね。相手が私の特注のかんざしを持っているのは気味が悪いので、良かったです。ちなみに、色はどんなでしたか?」
と言った。
「色は黒。墨を垂らしたみたいな。」
重悟郎は平然と言った。おさきは息を呑んだ。息を呑む音が重悟郎に聞こえるくらいに。
(まさか、あいつらがここにいるなんて、、!!)
おさきは自分の顔が強張るのを感じた。重悟郎の姿が見える。
「そ、その、私の知り合いに私のかんざしの色違いを持っている人がいて、もしかして、その人なんじゃないかと。思って、、、。驚いただけです。。。」
おさきはたどたどしく言った。重悟郎は不思議な顔をした。
「やっぱり、いつものお前じゃあないな。そんなにそいつが気になるのか?親友だったりしたのか?」
「そうです!!親友だったんです、!」
おさきは、重悟郎にうまく誤魔化せたと思うのと同時に、またもやあの恐怖感が襲った。
それに構わず重悟郎は話し続けている。
「お前に親友がいるとはな。」
重悟郎はわざと驚いたような顔をした。おさきはいじけた顔を見せて、
「いますよ。」
と言った。だが、心臓の音は大きく鳴り響いていた。
「それで、どうだったんですか?私のと色違いだったんですか?」
おさきは心の中で祈った。どうか、色違いではありませんようにと。おさきはわずかな可能性を信じていた。
「だけど、私のと全く柄が一緒だったわけじゃあないでしょう?」
おさきは手汗を前掛けで拭いた。おさきがこんなに緊張したのはいつだっただろうか。
「色以外は全く一緒だったぞ。中に黒い葉のようなものがあったけどな。」
重悟郎はさらっと言った。
そのあとのことは、おさきははっきりと覚えていない。




