偽りの笑顔
ここは日本橋。江戸時代の旅籠。
そこには美しい狐がいた。
その名はおさき。
おさきは人間に好かれたことなどなかった。
そんなおさきに転機が…。
おさきは先ほど重悟郎が言っていたことを頭の中で繰り返した。
ーその娘のつけてたかんざしが君のと一緒だったんだよー
それが何を表すのか、おさきはもう分かっていた。
「おさき!重悟郎さんが呼んでらっしゃるよ。」
おくめが厨房から顔を出して言った。
「重悟郎さん!今、参ります。」
おさきは皿がいっぱい乗っている、お盆を抱えながら、そう言った。そしてそれをおくめに手渡しし、階段から降りてくる重悟郎の方へ急ぎ足で向かっていった。
「すいません。お待たせしました。」
おさきは前で手を組み、重悟郎に一礼した。すると、重悟郎は
「なに、そんなに興味もったか。」
と部屋に向かって歩きながら言った。その声は淡々としていた。
おさきは黙ったまま、重悟郎の背中をじっと見つめていた。
「おい、どうしたんだ?」
重悟郎は、立ち止まり、不思議な顔でおさきを見つめた。
「い、いや、別に、、、考え事してただけです!!!!」
おさきは強い口調でそう言った。が、すぐに自分の口を押さえて、
「すいません…。」
と言った。
おさきは大変なことをしたと思った。変な様子を見せたら、自分が狐であることがばれるかもしれない、と思ったのだ。だから、誤魔化すように、
「このかんざし、実は特注なんです。だから、なんでその方が私と同じかんざしつけてたのかなって。」
と言った。
「そういうことか。いつものお前と違うから、驚いたよ。」
重悟郎は自分の泊まっている部屋の中に入りながらそう言った。おさきも一礼して、部屋に入った。
「まあ、そんなに興味あるなら、聞かせてやるよ。お前が詳しく聞かせてくれって言うのは珍しいからな。」
重悟郎は座りながら、そう言った。おさきも重悟郎の向かいに座った。
おさきは、重悟郎の、日本橋ですれ違った美人の話のあと、詳しく聞かせて欲しいと頼んだのだ。そのかんざしをつけていた娘が何者なのかを探るために。
「とりあえず、お前のかんざしを見せてくれ。別物かもしれないじゃあないか。」
重悟郎はおさきのかんざしを見て、そう言った。
「えっ!かんざしの模様、覚えてるんですか?」
「そりゃそうさ。お前のと似てたから、じっと見てしまったよ。」
重悟郎はフッと笑った。
「こんなときに美人を見てしまう癖が役立つとはね。。」
重悟郎はにやけてそう言った。おさきは偽りの笑顔を見せて、
「別物でも、話、聞かせてくださいね。気になるので。」
と言い、かんざしを渡した。
おさきは同じものであってくれと思った。この流れだと別物であった方がおさきは喜ぶはずだが。




