重悟郎の話
今は江戸時代、日本橋の旅籠。
ここには美しい狐がいた。
その名はおさき。
おさきは人間に好かれることなどなかった。
そんなおさきに転機がー。
その後、手早く掃除を済ませた二人は朝食を食事処まで持っていく仕事をしていた。二人はせわしなくはたらいた。
「おさき!」
この旅籠の常連の旅人が呼んだ。その旅人はおさきに目を合わせ、手をこまねいた。
「はぁ、どうかしましたか?」
おさきは少し困った顔をして旅人に向かってゆっくりと歩いた。この旅人は重悟郎という、東海道をよく旅する者だった。おさきは重悟郎によく呼びだされて、たわいもない話をされた。
「中居は大変なんですよ?」
おさきは肩を落としてそう言った。
「いいや、次は重要な話だぜ?聞かなくていいのかい?」
重悟郎はいたずらな笑みを見せた。おさきは口をへの字に曲げたまま、
「へえ、そんなら聞かせてもらいます。」
と言った。
すると、重悟郎はまるで落語家のように語り始めた。
「あれはたしか丁度日本橋を渡っている時だったかね。お前のような別嬪さんとすれ違ったんだよ。そりゃあもう、吉原の花魁にも負けないくらいの美人でねぇ。最初にお前を見た時と同じぐらいびっくりだったさ。」
重悟郎は得意げに話し始めた。おさきは、正直「なんだそんだけか」と思ったが、重悟郎がまだ話したそうだったので、静かに聞いていた。
「それでな、もっとおどろいたことがあってな。」
重悟郎は前のめりになってそう言った。 おさきは、どうせどうでもいいことだろうと思いつつも、しっかり聞いた。
「なんと、その娘が付けてたかんざしが、君のと一緒だったんだよ。」
重悟郎はおさきのかんざしを顎でしゃくりながら、そう言った。




