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第四章 セイと魔の森

「いたたた」

 最初に目を覚ましたのはリオだった。

 生い茂った草の中で、しばらく気を失っていたようだ。目を開けてすぐ、ここが森の中だとわかる。太陽の光もろくに届かない、薄暗い空間だった。鳥の声も聞こえない。

 はじめて入った森の中で、すこし心拍数が上がる。まわりに気を配りながら、そっと体を起こす。

 背中にすこし痛みが走った。そして足元に折れた枝があって、上を見てどうやら自分が落下してきたことに気づく。

 「シュン」

 少し小声に呼びかける。ところどころの草が見えないので、そこにほかの仲間が倒れているのだとわかった。

 「セイ」

 かばんのなかを探ってライトを探す。

 ライトを絞って最小光にしたあと、かばんの中からとりだしてあたりを照らす。

 先に光が当たったのはローズマリアだった。

 「ひ、姫…さま」

 ローズマリアがいるとは知らず、驚いてそばによって体をゆする。

 小さくうめき声が聞こえて、うっすらと目を開ける。それを確かめて、リオはほかを照らす。

 少し離れたところで、セイが大の字になって眠っているのを発見した。

 リオは安堵とあきれる思いを両方混ぜてため息をついた。

 「セイ」

 少し体に触れてやると、すぐに目を開けた。

 「ここは」

 体を起こしたローズマリアがゆっくりとあたりを見渡す。枝にひっかかったおかげで随分落下のダメージは減らせたものの、白く長いスカートはスリットが入ったようにきれいに裂けていた。

 「森の中です。どうして姫様が」

 「…老子が、手をはなして…。そのまま引き込まれたようです」

 「じゃあ老子も?」

 少し首を傾げながらも頷いたローズマリアに、リオはため息をついた。

 「リオ。シュンは?」

 「まだみつけてないわ」

 ガサガサと音を立てながらあたりを探すセイにライトを渡す。

 「気がついた?」

 声のするほうを見ると、シュンが樹の陰から出てきた。

 「少し周りを散策していたんだ」

 「気がついたなら起こしてくれたらいいのに」

 「いや、俺は気を失ってなかったから。樹から落ちて、とりあえずはここらへんが安全ってことを確かめないと…起きていきなり魔族と戦闘なんていやだろ?お嬢さんもいるんだしさ」

 そしてさらにシュンの向こうからガサリと草を分け歩く音がした。

 「散策してたらじいさんにも会った」

 親指で彼を指した。老子は姫の姿を見ると、すぐに駆け寄って謝罪をしていた。

 それを横目で見ながら、3人は話し合いを始める。

 「で、ここが安全だということはわかったわけだ」

 「まあ」

 「で、これからどうするの?」

 「魔王にでも会いに行くのか?」

 セイの言葉にシュンはクスリと笑った。

 「それは俺の用事だろ。最初に言ったはずだよ。俺の用事は、俺が片をつける。だから同行はセイの目的地まででいいって」

 シュンがそういうと、リオはセイの顔を見上げた。セイもそういえば、といった顔をする。

 「じゃあ、とりあえず俺の目的を果たすか。変わってなけりゃ、そこも安全だし。帰り道もわかる。じいさんとお嬢さんも外まで連れて行けるしな」

 

 そう決めて、歩き始めてから一時間近くたったころ、セイを先頭にローズマリアと老子、最後尾にリオとシュンがいた。

 しばらく会話をしていたリオも今ではずいぶんと黙っている。シュンは彼女が口にしたいことをずっと言わないでいるのに気づいた。

 「聞きたそうだね。俺のこと」

 そういわれて、ずっと俯いていたリオの顔が上がる。

 「そりゃ…、気になるわよ」

 少し唇を尖らしてすねたふりをする。でも、言わないんでしょ、と暗に言っているのだ。

 「答えられる質問になら、答えてあげるよ」

 「ほんと?」

 一気にリオの顔が綻ぶ。

 「じゃあ、魔王に会うってほんと?」

 「さあ?だいたい魔王なんてほんとにいるかどうかわからないし」

 「じゃあ、ここにきた目的は?」

 「それは言えないなぁ」

 笑ってシュンはごまかした。リオはなによ~といった感じでまた下を向く。

 「リオ、シュンは自分のことあんまりしゃべらねぇぞ」

 先頭を歩いていたセイが草を足で掻き分けながら言った。

 「俺がどんなに聞いてもなかなかしゃべらねぇからな。それでお前にしゃべったらシュンはただの女好きだ」

 その言葉にローズマリアがクスリと笑いをこぼす。

 「気をつけとけよ、お嬢さん」

 こっそり耳打ちするようにセイが囁く。

 「お前に言われたくないよ」

 しっかりと聞こえていたシュンは後ろから小さな石を投げて非難した。

 「なによ、じゃあお互いに何も知らないで行動してるわけ?」

 「まあ、目的は一緒だし」

 「でも、もう果たしたのでしょう?ここにくるっていう時点で」

 ローズマリアの言葉に、シュンはそうだよ、と頷いた。

 「魔の森はセイの庭だしね。今は戦いを避けれる道を選んでもらっているから、同行したほうが便利なんだよ」

 「そういうこと。ギブアンドテイク、それが俺らの約束だからな」

 ますますわからない、といった様子でリオは首をかしげた。

 「それでおぬしは魔族でない、と申したな」

 やっと老子が口を開いた。

 「では…」

 続けようとする言葉を、セイが自ら遮った。

 「その辺のことは俺たちの出会いも含めて、じっくり話してやるさ。目的地に着いたらな」


 さらに一時間近く何度も左右に分かれた道を右に左にと歩いた。

 最初は何の迷いもなく、こっちだ、あっちだと言っていたセイの口も疲労で閉ざされてしまっている。しかももうすでに5匹も鳥族が襲ってきている。

 「ほんとにあってるの?この道」

 何度も足を休めて、リオは腰を曲げた。背負っている荷物がさらに重く感じる。

 「どうやら、迷ったようだね」

 シュンは額から流れる汗をぬぐって、あたりを見渡した。

 「さっきの分かれ道に古い木があっただろ。あれを右にくれば家につくはずなんだけどな」

 セイは頭を抱えて、頭の中で地図を見直す。

 「じゃあ左に行ってみては?父が、魔の森は一定周期で変動すると、言ってましたから」

 「それは人間側の言い分だろ。実際かわんねぇよ、この森の中は」

 「引き返したほうがよくない?」

 「俺を信じねぇのかよ」

 「信じる、信じない、の問題じゃないでしょ。現にその家がないんだから!」

 また2人の言い合いが始まった、と、シュンはため息をつく。

 「木を間違えた、とか?少し歩いて、木があればその道を行けばいいし、だめならまたここからやり直そう」

 シュンは何とかその場をまとめて、歩き出す。

 セイはそこの分かれ道の木に剣で傷をつけてまた先頭に立った。


 「…、魔族がふえました!!」

 リオが昆虫型の魔族を短剣で切り落として、言い放った。

 「道を外れたな」

 獣族を切り捨てたセイはあきれたように言った。

 「引き返すか、これ以上の戦闘はお嬢さんに酷だ」

 シュンの背に守られていたローズマリアは血の臭いにまいっているらしい。

 それを見かねたセイは剣を収めてシュンのいる場所に戻ってきて言った。

 「さっきのところに印をつけてきた。そこを左に行ってみるか」

 「確信はないんでしょ?」

 リオの言葉に、セイははっきりと「ない」と言い切った。

 「セイの言い方からして、どうやら俺たちは迷子らしい。先、長いからがんばって」

 こういうとき、シュンは他人への配慮は忘れない。それにリオは感心する、が、そのせいで彼の真意は読めない。正直なところ戦闘に不向きなローズマリアと、剣を持たない老人はこれ以上にない二人の枷になっているのではないか、という考えがリオの頭をよぎる。

 「どうした?疲れたか」

 多少、こういうことは二人とも予想していたのか、息を切らした様子はない。と、言うより疲れ知らずの体力馬鹿だ、とリオは思う。特に目の前にいる、小憎たらしい男は。

 「そんなの、一時間も前のことで忘れたわ」

 リオは少し不機嫌になって、元の道を戻りだした。


「ここだな」

セイは木の傷を確かめて、周りを見渡す。

「ここを左に?」

少し血の臭いから離れたせいか、ローズマリアの顔色は随分よくなった。

「しかねぇな、いまさら入り口に戻れといっても無理だしな」

「木の上からは見えんのか」

ずっとシュン達との会話を避けていた老子が口を開いた。

「…あぁ、そうか」

セイはしばらくキョトンとした顔をしたが、うなずくと同時に、傷をつけた幹を軽い跳躍で駆け上がった。

「ちょっ、木、垂直じゃん!?あんた人間?」

リオはあごを外さん勢いで口を広げた。ローズマリアも声にならない驚きを見せている。

「妖族、か」

やはりな、といった感じで老子は言った。

「そうだよ。あいつは妖族の筆頭、妖精族生き残りだ」

「妖精族…、まだ生き残りが」

ローズマリアは食い入るようにシュンを見た。

50年前、妖族間で争いがあった。世界の均衡を保つ三族のなかで一番劣勢となっていた妖族が、人間側につくか魔族側につくか、それともこのまま第三勢力で生き延びていくかという原因でだ。劣勢となった原因は妖精族の減少だった。妖精族はなんとか第三勢力としていくよう努めてきた。が、妖精族に代わる筆頭になろうとするほかの妖族によって、妖精族は絶滅にまで追いやられた。そのなかで唯一生き延びて生きたのが、純潔を誇る、妖精族の長、つまりセイの祖先になる。

「妖精族に代わる長は、霊族になったと書物で読んだわ」

リオが言う。

「らしいね。セイはそのへん、くわしくないからね」

「あなたは、知っているのね」

ローズマリアの言葉に、シュンはやさしく笑って唇に指を当てた。これ以上は、言えない、と。

シュンはふと、木の上に上ったセイを見上げた。そしてすぐさま叫ぶ。

「セイ!!降りろ!!」

リオとローズマリアは、背にしていた木を振り返るまもなく、シュンに腕を引っ張られた。

セイもまた、シュンの声を聞いて、下を見たときは遅かった。

「それは木じゃない!!魔族だ!!」

そういわれた瞬間、セイは木の枝に足を取られ、宙吊りになる。その拍子に、腰から下げていた剣が落ちる。

「うわぁっ」

「セイ!!」

落ちてきた剣を拾おうと木に近づいた瞬間、木の根が地中から伸びてきて、シュンの足元を狙った。

「くそっ」

シュンは舌打ち交じりでそれを横に避ける。剣を取るどころか、木にさえ近づけない。

「きゃっ」

草むらを転がるように避けたシュンはすぐ後ろで悲鳴が上がるのを背中で聞いた。

「リオっ」

振り返ると、リオがなんとか短剣で伸びてきた根を切り落とした。だがその切り落とした根もまだ余力が残っているせいか、陸に上がった魚のようにビチビチと跳ねている。

「気持ち悪い~っ」

リオは全身が粟立つのを感じた。

シュンは枝を踏み台にして、セイを捕らえていた枝を切り落とす。落下と同時に、くるくると宙を舞って着地する。すぐにちかくに落ちていた剣を取る。シュンはそれを確認して、高く飛び上がった。セイのそばに立って、剣を木に向ける。

「さて、どうするか」

木は根を伸ばし、枝を左右に振っている。

「え…」

木の動きが一瞬止まる。次の瞬間、木の皮が音を立てて、ばらばらと落ちていく。

「…変態?」

そこから現れたのは、陸には、森にはふさわしくないタコだ。

「タコ?」

「タコだねぇ」

「でかくねぇ?」

「てか、気持ち悪い!!」

前で会話をしていたシュンとセイのあいだにリオが割って入ってきた。

「どうしてタコが」

ローズマリアは老子の背に隠れながらその肩から様子を伺う。

「姫様、これより前には出てはなりません。危険です」

老子は攻撃の届かない場所まで下がって、片手でローズマリアがその前に出るのを防ぐ。

シュンは二人が安全であることを確認して、目の前の敵を見据えた。

「…核移動だ。タコの核が木に移ったんだ」

核とはあらゆる生命の源となる、人間でいえば心臓だ。それがいわば霊魂のような形でほかのものに乗り移る。

「やっかいだな。核を探さないと」

 セイは舌打ち交じりで言うと、剣を構えなおす。

 「断ち切るしかないでしょ!!」

 リオは短剣を両手に持って、まっすぐにタコに突っ込んだ。

 「核探しはお前に任す」

 シュンはそういうと、リオのあとに続いた。

 「シュン、タコの吸盤切らないでね!!」

 リオはどうやらタコの足の切る場所を選んでいるらしく、攻撃にわずかな間がある。

 「どうして」

 シュンとリオは背をあわせて言葉をかわす。

 「改造に使うのよ!!改名、タコタコくんよ」

 どうやらリオは壁をよじ登る際に利用する機械にこのタコの吸盤を取り付けるようだ。

 シュンはわずかにため息を漏らす。こんな状況で、研究することを考えるリオの思考回路に感服したのだ。

 「自分で、がんばれよ!!」

 言い切って、かまわず剣を振りぬいた。吸盤が真っ二つに裂ける。

 「もぉ!!シュンのばかぁ」

 リオはそれとは対照的に慎重に切り分けていく。おかげでリオの足元には吸盤が綺麗に残ったタコの足の細切れが落ちている。

 いくら切っても再生してくる足に、二人とも疲労の色が見え始める。吸盤の数が30近くになってきたころリオもどうやら切り分けていくことに嫌気が差してきたようだ。

 「セイ、まだか!?」

 ずっと後方から目を閉じて意識を集中させているセイはその声に目を開けた。

 「結構奥だ!外からじゃ届かない」

 叫んで前線に参加する。

 「木にタコの核…ってことは火に弱い?」

 ふと、思いついたようにリオが呟く。

 「さあ、どうだろうな。核融合で変化してなければその方法もありだな」

 核融合とは、別々の固体の核が合体することで各々の劣勢部分を補い、新たに強力な生命核を生み出すこと。木もタコもそれぞれ水には強いが火には弱い。その特性が活かせればこの勝負の結果は見えた。

 「一か八かね」

 リオはかばんの中から手のひらサイズのカプセルをいくつか取り出した。筒状のそれは一方の端が赤や黄色になっている。

 「燃やしてみますか」

 魔法が使えない3人にとって、リオの発明はかなり役に立っている。成功するかどうかは別として。

 リオは赤く色付いたところを思い切り指で押した。するとすぐにカプセル全体が赤く光りだす。狙いを定めてリオは思い切りそれを投げた。

 「いけっ!!」

 コンッとそれがタコの一部にあたった瞬間、カプセルは業火の火種となってタコを包み込んだ。セイはそれを見て、剣を思い切り真横に振り抜いた。真空波が周りの木々と一緒にタコを真横に切り裂いていく。その一瞬、タコの内部がキラリと光ったのをシュンは見逃さなかった。再生する前に、シュンが燃えるタコに飛び込んだ。

 「シュン!!」

 突然の行動にリオは慌てた。炎は尋常でない程の火薬を詰め込んだものから発生しているものだ。この程度の炎ですむわけもなく、更なる爆発もありうる。下手をすれば火傷程度で済むわけがない。

 シュンが手を伸ばして、剣を内部に突き立てた。声ならぬ叫びが森中に響いた。耳のいい魔族は誰もが耳を伏せただろう。だが、それでもタコの再生は止まらなかった。火達磨になった状態で、シュンの腕もろとも再生する体の中に埋めていく。

 「くそっ」

 核は壊したが、タコの体は無意味な再生を続けようとしていた。腕を引き抜くどころか、身体全てが飲み込まれていく。

 「シュン!!」

 2人の叫び声が聞こえた。じりじりと皮膚が焼けていくのが分かった。熱いと、感じることは無かった。再度、柄を握り締め、剣をさらに突き立てた。

 ふっ、とシュンを包んでいたものが泡になっていった。急に圧迫感が無くなり、身体が軽くなるのを感じた。タコが再生をやめた。核に残されていた力が尽きたのだ。

 「うわ」

 タコの個体に全体重を預けていたので、急に消えたそれのせいでシュンはそのまま前のめりに倒れこんだ。

 「シュン!!」

 姿を現したシュンに、セイ、リオが駆け寄ってきた。

 「大丈夫?・・・ひどい火傷して」

 「たいしたことないよ」

 「耐熱性でよかったな」

 セイは顔を覗き込んで、顔にできた火傷をみた。服のほうは火に強い服を着ていたため、火傷を負ったのは主に頬と指先だけだ。

 「髪、燃えなくてよかったなぁ」

ぐしゃぐしゃとシュンの髪をかき混ぜた。

 「あ、ほんとだ。…でもどうして」

 リオは塗り薬を少しずつシュンの顔に塗りながら、髪に目をやった。

 「化学反応でもおこしたんだろ?お前、いろんな火薬をカプセルの中にいれてたからな」

 作った張本人が、セイの言葉に驚いていた。

 「おまえなぁ、だからいつも」

 「試せって言いたいんでしょ。わかったわよ、今度からちゃんと試すわよ」

 薬をしまって、思い切りセイをにらんだ。そして口の端をあげて告げる。

 「体力馬鹿で丈夫な妖精族の生き残りさんを使ってね」

 「なっ」

 セイは真っ青な顔をして口をパクパクさせた。

 「以後、精進するように」

 シュンは笑ってリオに向かって言った。

 「リョーカイ!」

 「シュン、てめぇ!!」

 今にも飛び掛ろうとするセイの動きを止めたのは、ローズマリアの悲鳴だった。

 老子は慌てて後ろを振り返る。

 「姫様!!」

 ローズマリアは魔族に腕をつかまれ、首に鏃が当てられていた。

 「何者だ」

 「この森に人間が入ってくるとはなにごとか」

 「悪いなぁ、その2人はちょっとした手違いなんだよ」

 セイがすこしめんどくさそうに頭をかきながら答えた。ぞんざいな態度で魔族のほうに向き直る。

 「ちょうどよかったよ。まぁこれだけ暴れりゃ気付くとは思ってたけど。連れが怪我してるんだ。それにその2人も歩き通しで疲れてる。少し休ましてくれたらその2人は外まで送るつもりなんだ。…だから家まで案内してくれよ、オウカ」

 笑って、堂々とした態度でその魔族に歩み寄る。そして頭に巻いていたバンダナを取った。そこから現れたのは妖族の証であるスッとのびてとがった耳。

 「…セイか?」

 「あぁ」

 その頷きに、オウカは手の力を緩めた。そしてローズマリアを解放して自らもセイに近付いた。

 「大きくなったな」

 「まぁな。もう20年近くになるしな」

 5人の中でも長身のセイを見下ろすほどのオウカは大きな手で子供をあやすようにセイの頭を撫でた。

 「お前は相変わらずだな」

 「そうか?これでも魔族の間じゃいい男だぞ」

 オウカは少し長い牙をむき出しにして笑った。褐色の肌に白い歯が映える。

 「そりゃ、残念なことをしたなぁ。俺が帰ったらお前のいい男っぷりが下がるな」

 セイは意地悪く笑ってオウカの肩を叩いた。

 「感動の再開のところ、悪いんだけどね」

 セイの後ろから、2人が近付いた。

 「あぁ、そうだな。オウカ、この2人は俺の連れ。こっちがシュンであれがリオ」

 「あれとはなによ!!」

 「んでそっちがローズマリアで、じいさん。その2人は巻き添えだから、でもまぁ信用できるよ。だから悪いけど家に案内してくれるか?」

 「あぁ、これ以上ここで暴れられて他の魔族を怒らせては困るからな」

 荒れた森を見て半ば呆れたようにオウカは歩き出した。

 「あいつはオウカ。俺のダチ。っつってもずっとあいつのほうが年上だけどな。まあ兄弟みたいなもんだ」

 「人型の魔族ってはじめて見たわ。大きいのね」

 「そうだな。でも暮らしは人間とは変わらないって聞いたよ。…まぁその辺が他の魔族と揉めてる原因らしいけど」

 「くわしいな、シュン…といったか」

 「あぁ、まぁ魔族とかには興味あるんで」

 「そちらの令嬢には失礼をした。見慣れぬ人ゆえ、警戒した」

 オウカは顔だけ向けて軽く頭を下げた。

 「い、いえ。私たちのほうこそ…勝手に禁忌を破って…」

 ローズマリアは自分で言って肩を落とした。自分がどれだけ小さな世界にいたかを思い知らされる。いままで信じてきた父の言葉が足元から崩れていく。

 「姫様、あまり気を抜かれませぬよう。いつ何時、何が起こるかわかりません」

 老子の耳打ちに、ローズマリアは口を引き締めた。確かに目の前にいる魔族が彼の友人だったとしても、ここは魔の森。いままで何度も魔物に襲われた。そのことに間違いはない。

 「分かっているわ。大丈夫よ」

 固くこぶしを握って、ローズマリアは足を踏み出した。


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