表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

崖っぷち聖女たちは、今日も頑張って生きてます!

作者: 特になし

聖女ものは四回目です! 一応恋愛ジャンルですが、恋愛を通じて成長する、といった感じで、ロマンス要素はありません。

 聖女=神聖な力を持つ、美しく清らかな乙女たち、というのは幻想だ! というのが、最近私が会得した知見である。


 私、リアは、絶賛見習い聖女をやっている。一か月前、教会にやってきた。質素ではあるものの、衣食住が保障されたこの生活は、穏やかで平凡。ある一点を除いては。


 さて、私がお昼の掃除をしていた、その時のこと。


「リアちゃーん、ちょっと来てくださらない?」


 さっそく、ある一点が発生した。


「はーい、今行きます!」


 私はそう叫んで、声のする方向に向かう。確かこっちの辺り……。そう思いながら、庭にたどり着くと、庭のど真ん中に謎のアフタヌーンティー空間があった。ぼろいベンチ、ぼろいテーブルに、同じくぼろい日傘が括り付けられて、これ、東屋のつもりなんだろうか……。


 さて、その東屋で、優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいる方が一人。修道服に身を包んでいても、溢れ出るお嬢様感がとどまらないこの方は、私の先輩聖女、イザベル先輩である。


「ねえ、リアちゃん。お紅茶に会うお茶菓子が必要だと思わなくって? そうね、ラングドシャかマカロン、季節のフルーツタルトなんて、ありませんでした?」

 

 イザベル先輩は、優雅にカップを傾ける。


 だけど、

「そんなもの、うちにあるわけないでしょうが。聖女まんじゅうで我慢してください」

 私はため息をついて、教会名物聖女まんじゅう(なお、売れ行きはいまいち)を差し出す。


「い、いやですわ! 聖女まんじゅうだなんて、ださいですわ! 完璧な淑女の私には、高級パティスリーのお菓子が……」


「うちにそんな贅沢できる余裕はありません!」


 私は先輩の口にまんじゅうを突っ込んで黙らせた。


「うう……。ぱさぱさしますわあ……」


 先輩はもぐもぐしながら、絹のハンカチを目頭に当てる。まったく、困った人だ。


 さて、ここで皆さんは疑問に思われるだろう。なぜこんな人が聖女をやっているのか? と。


 何を隠そう、イザベル先輩は、元悪役令嬢である。かつての先輩は、王子の婚約者だった。しかし、王子は真実の愛を見つけてしまう。結果、先輩は、あることないことでっちあげられ、公衆の面前で婚約破棄をかまされた。さらに、ヒロインによるざまぁとして、身分を剝奪され、聖女として教会に突っ込まれたんだとか。


 と、ここまででも、かなり情報量があったが、これで終わらないのが、聖女界隈である。


 イザベル先輩の対処を終えた私は、その足で教会の二階に上がっていった。とある一室の扉を開け、カーテンをばっと開く。


「起きてください! ヘレン先輩!」


 薄暗い部屋に光が差し込んだ、その瞬間——


「ぎゃああああ!」


 おぞましい悲鳴と共に、黒い物体起き上がった。


「おはようございます、ヘレン先輩。と言っても、もうお昼ですけど」


「な、なんだ、リアちゃんか。カーテンを閉めてくれ。日光が、身体をやいて、死ぬ……」


 起き上がったはずの先輩は、しかし寸分も置かず、ばたりと布団に倒れ込む。


「あんたはバンパイアか! こんなんで死なないでください! そろそろ起きて、お昼ご飯食べますよ!」


 私は先輩をベッドから引きずり出す。


 ヘレン先輩。万年引きこもりの無気力聖女である。しかしこの方、こう見えて、元バリバリのキャリア令嬢……もとい社畜令嬢なのだ。


 才女と誉れ高かった先輩は、結婚することなく、官僚になった。男顔負けの働きをしていた先輩は、その手腕を認めてくれたとある上司と恋仲になる。彼への憧れから、先輩は身を削って実績を出し続けた。


 しかし上司は、先輩の成果を全て自分のものにした。とんとん拍子に出世を決めた後、彼は用済みになった先輩と縁を切り、別の女と結婚までしてしまう。


 一方の先輩は、過酷な労働と浮気のダブルパンチにより、ぶっ倒れた。そして、壊れた先輩はそのまま解雇、なんやかんや教会に突っ込まれたわけだ。


 先輩を台所の椅子に座らせた後、私は残る一人のところに向かうことにした。午前中姿が見えないことから判断して、きっとあそこに行ったんだろう。


「アンナ先輩、またここにいたんですか」


 教会裏の森に行くと、そこにはほんわかした雰囲気の聖女が一人いた。彼女はアンナ先輩。先輩聖女の最後の一人だ。


「わあ、リアちゃん。お疲れさまぁ」


 森の動物さんに囲まれている様子は、いかにも純粋無垢な女の子。だが、この美少女、こう見えて、バツイチである。


 アンナ先輩は、夫に「君を愛することはない」と言われた後、別の女と不倫&略奪されてしまう。そして、先輩は、不品行をでっちあげられ、嫁ぎ先から厄介払いされ、矯正として教会にぶち込まれるに至ったのだ。


「あのね、リアちゃん。動物さんたちに、餌をあげたくて……。できないかなぁ?」


 アンナ先輩は、いつもののんびりした口調で言う。


「先輩、毎度ながら、こんなに動物を集めないでください。お金だってないんですから、餌やってる余裕はありません」


 そう言った瞬間、アンナ先輩の顔に一気に影が入る。まずい。この展開は……。


「そっか、そうだよね。私、ずっとリアちゃんに迷惑かけてたんだね。ごめんなさい。謝るわ。そうよね。誰にも愛されない存在は、この世界に存在することすら許されない。それが、この世界の残酷なルールなんだもの。動物たちも、私も同じ……」


 うわあ、ヒス構文出たぁ……!


「うふ。うふふふふ。ごめんなさい。もう、死ぬね。死ねばいいのね……」


「ああ、もういいですよ、アンナ先輩! 餌ですね! 台所にあるもの、お好きに使ってください!」


 メンヘラ病みムーブに耐えられなくなった私は、やけくそになってそう叫ぶ。


「嬉しい! ありがとう、リアちゃん」


 ほんわかムードに戻った先輩を見て、私は胸をなでおろした。


 さて、何が問題なのか、もうお分かりだろう。これ全員が、私の先輩聖女たち。濃ゆい。濃すぎるよ、このメンツ。多分、各々でその人生を書籍化できる。


 だけど、これは驚くことじゃない。この世界で聖女になるのは、往々にしてこういう人たちなのである。聖女界隈。それは、崖っぷちの女たちが集まる魔窟。聖女=鬱屈した過去を抱えた、訳ありちゃんたち、だ。


 その時、

「聖女様! 穢れが発生しました!」

と、報告が飛び込んできた。


 穢れは人々から発生した負の感情が流出してできた化け物。それを聖なる力で浄化するのが聖女の仕事なのだ。


 そして私たちは、居住区付近に出現した穢れのところに到着した。どす黒い汚泥が、どろどろとうごめいているのは、かなりグロテスクだ。


 だけど、先輩たちは慣れた手つきで、汚泥に拳を叩き込む。


「あの馬鹿王太子があああ! 簡単にころっと騙されて! 周囲もみんな阿呆なんですの!? ヒロインよりそっちが許せないのですわ!」


「君の成長のため!? 頑張ってる君が好き!? 仕事押し付けるいいわけじゃねえか! そして、本命はきゃぴきゃぴしてる若い女か!」


「不倫! 滅! 滅! 滅!」


 それも、台詞付きで。


 先輩たちの拳から発せられた暗黒のオーラが、穢れと衝突。瞬間、美しく輝いて、双方が消滅する。これが聖女による、穢れの浄化である。


 どういう仕組みなのか。これには、負のものに負のものをぶつけると、正の力に変わる、という法則が働いている。分かりやすく説明すると、-×-=+、ということらしい。


 これで、なぜ聖女が訳ありちゃんであるのか、納得していただけただろう。鬱屈度が聖女の力の強さと比例するからだ。どうやら、この三人は歴代でも屈指の実力者らしい。


 さて、私も聖女の端くれとして、穢れを浄化しなければ! ということで、私も自分のうちのどす黒い感情を増幅させる。


「私より、なんだか弟の方がご飯の量多かった気がする!」


 拳から、ぽすっと弱々しいオーラが出た。


 聖女として、私は弱い。理由は一つ。私は無個性令嬢だから。しがない男爵家の五女として生まれた私は、持参金も用意できないし、家で養うこともできないとされた。結果、聖女として家を出されるけど、別に悲劇かと言われればそうじゃない。大して鬱屈してない私は、大した力も使えないというわけだ。


「何やってるんですの、リアちゃん!」

「後は私たちに任せて、リアちゃんはもう下がってな」

「滅しておくからねぇ」


 わー、すごいー。今日も先輩たち、キレッキレだなー。私が感動して眺めているうち、穢れは浄化しつくされた。


 そして、私たちは帰路に就いた。


「いい仕事をしましたわ」

「なんだか気持ちいいだるさだよ」

「世界をお掃除できて良かったぁ」


 先輩たちが晴れやかな表情で微笑む。怨念を解放すると、彼女たちの心も幾分か浄化されるらしい。


 その時、前方から人影が二つ接近してきた。しかも、これは——

 

「なーたん、おいでー」

「ん! みーくん、しゅきーーー!」


 いちゃいちゃカップルだ! いちゃいちゃカップルが襲来したぞおおお! 私の中で警報が鳴り響く。


 カップルは、かなり道の横幅を占領してる。このまま行くと、ぶつかる。だけど、こういう場合、絶対に先輩たちは遠慮してよけたりしない。結果、カップルと先輩たちがぶつかった。もちろん、カップルは謝らない。先輩たちも謝らない。


「あの人たち、怖いいい……」

「怖いねえ。なーたん、泣いちゃう?」


 すれ違いざま、背後からそんな会話が聞こえてくる。


「うん、泣いちゃううー」

「よしよし、なーたん、いい子いい子。俺が守るからねえ」


 まったく熱々だ。でも、さっきから、隣に極寒のオーラを感じるんだよなあ……。


「ちっ」

「ちっ」

「ちっ」


 お三方から舌打ちが聞こえてくる。こういう日は絶対に——


「この狂った世界の崩壊を祈って、乾杯ですわ!」

「乾杯!」

「乾杯ぃ!」


 私たちは夕方から酒場にINすることになる。そして、聖女たちによる、聖なる宴(大噓)がスタートした。


「なーたん? みーくん? 笑止、ですわ!」

「なにが、なーたん、おいでー、いい子いい子、だよ! おめえのペットか!」

「いるわよねぇ。ああいう、バカップル」


「他人に見せつけるなんて、獣以下ですわ! 下品ですわ!」

「一生守るって、何から、どうやって守るのかなあ? 教えてほしいなあ?」

「ああいう人に限って、すぐ浮気とかするのよ。私には分かるの」


 ひとしきり文句のターンが終わった後は——


「婚約破棄って……。私、十九年間、あなたと結婚するつもりでしたのに」

「私、一生懸命働いたのにさあ。ちょっと上手くできなくなったら、すぐぽいって……」

「君を愛することはないだなんて……。私に魅力がなかったの? 問題があったの?」


 今度はしんみりのターン。そして次は——


「でも、私たちだって幸せだわ。今がなんだかんだ、楽しいもの。そうじゃない? ヘレンさん、イザベルさん」

「ア、アンナ……!」

「そ、そうですわ。ヘレン様、アンナ様、私たちの美しき友情は不滅! フレンドシップフォーエヴァー、ですわ!」


「そ、そうだよね! 誓うよ。フォーエヴァー!」

「フォーエヴァー!」


 出た! スーパーフォーエヴァータイム! これに入ると、先輩たちは、フォーエヴァー以外の言語を口にできなくなってしまう。


 そんな先輩たちから、私はこっそり遠ざかる。悪いけど、私はフレンドシップフォーエヴァーするつもりはない。何を隠そう、私の目標は、聖女界隈の脱出なのだから!


 先輩たちのように、恋愛への呪詛を唱える人生なんて送るもんか。目指すのは、普通の恋をして、普通の幸せを手に入れること。温かい一軒家、素敵な夫、かわいい二人の子供、そして犬! ああ、美しい家庭の様子が浮かんできた……。


 さあ、この機会を利用して、出会いを探して見せる。どこかにいないかな、運命の人。


 その時、

「あはは、なんだろう、あの人たち。君もそう思わない?」

と、話しかけてくる男性がいた。


 男性の視線の先には——フォーエヴァーな先輩たちがいた……!


「うちの先輩たちがご迷惑をおかけしてすみません!」


 私は物凄い勢いで頭を下げた。


「先輩って……もしかして君も聖女なの!? 全然見えないよ。ほら、聖女ってみんな、ちょっとあれだけど、君は本物の天使みたいにかわいいから」


「そ、そんなことないですよ……!」


 これが、カミルさんとの出会いだった。それから、先輩たちに付き合って酒場にやってくる度、カミルさんは毎回話しかけてくれるようになった。


 聞くところによると、カミルさんはやり手の貿易商らしい。一代で巨万の富を築くなんて、凄く優秀な人なんだろう。顔もかっこいいし、優しいし、何よりスマート。この人となら、きっと幸せに……。そう思うと、頬が熱くなる。



「今度、一緒に出かけてよ」


 カミルさんのある日の言葉に、心臓が一回転した。


 これは、デートのお誘い……! うきうきと緊張の入り混じる感情に突き動かされながら、私は気合を入れて支度を整え、教会を出ようとした。


「あら、リアちゃん、どこへ?」

と、イザベル先輩。


「ちょっと街にお出かけに」


「なんで修道服じゃないんだ?」

と、ヘレン先輩。


「まあ、所用があって」


「所用ってデートでしょ」

と、アンナ先輩。


「そうです……って、ばれてる!?」


 私は凍り付いた。こ、殺される……。聖女界隈のフォーエヴァーを乱し、一人抜け駆けることなんて、許されるはずがない。ああ、私、拳で滅されてしまうんだ。


 だけど——


「おめでとうございますわ」

「おめでとう」

「おめでとうねぇ」


 あれ? 祝福されてる?


「でも、それなら、その化粧はちょっと直しましょう」

「その服も」

「ついでに靴もかしら」


 そう言うや、先輩たちは自分たちの服や髪飾りを持ち寄って、ああでもないこうでもないと言い合いを始める。そのまま髪の毛を巻かれ、化粧をされ、衣装を取り替えること数回。


「魔法ですか!?」


 先輩たちの手によって変身した私は、鏡を見て目を見開いた。


「リアちゃん、かわいいですわ」

「私たちの後輩だからね。当然だよ」

「妖精さんみたいねぇ」


「せ、せんぱああああい!」


 なんて馬鹿だったんだろう。先輩たちは、こんなに優しい人たちなのに。それなのに、勝手に被害妄想に浸って、自分の失礼さに腹が立つ。


「泣かないでくださいませ、化粧が落ちますわ」


 目をうるうるさせていると、イザベル先輩に怒られた。


「これ、聖女まんじゅう。お土産に持ってく?」

と、アンナ先輩。


「いいよ、これは。今日のリアちゃんは、聖女じゃないんだから」


 ヘレン先輩は苦笑する。


「じゃあ、いってきます!」


 いってらっしゃい、と先輩たちは微笑んで見送ってくれた。


 そして私は、カミルさんと素敵なデートを楽しんだ。だけど——


「もう、会えないかもしれないんだ」


 日も暮れた帰り際、カミルさんが真剣な表情で口火を切る。


「え……?」


「実は、事業が失敗して……。この街を出て、知り合いのところに身を寄せるつもりなんだ。最後、どうしてもリアに会いたくて、今日は一緒に出掛けた」


「この町を出て、生活していく目途はあるんですか?」


「新しく事業を起こせば、きっと上手くいく自信はある。でも、資金がなくて」


 いつも堂々としてるカミルさんが、迷子の子供みたいで、胸がぎゅっと締め付けられる。


「これ、足しにしてください。かなり価値が高いものなので、売ればお金になります」


 気付けば私は、肌身離さず持っていた母の形見のペンダントを渡していた。


「そんな、受け取れないよ……」


「いいえ、受け取ってください。私、カミルさんのこと、応援してますから」


「ありがとう。絶対に迎えに来るから」


 私は耐えて見せる。幸せを掴む、その日まで。



 それから一週間が経過した。カミルさんは、もう新しい街に着いただろうか。元気にしてるといいな。そう思いながら、私は街で買い出しをしていた。その時——


「どうして……」


 そこにはカミルさんがいた。たくさんの友人と、そして女性を侍らせて。


「だって、別の街に行くって……」


「ああ、あれ全部噓だから。そもそも俺、貿易商じゃないし。お前が聖女って分かって、教会から金を持ってきてもらうつもりで近づいたんだ。でも、もっといいものゲットできて良かったわあー」


 ペンダントを指に引っ掛けながら、カミルさんは笑う。


「騙したんですか!?」


「騙すもなにも、お前みたいな芋女、本気で相手にするわけないだろ。それなのに、この前会った時、あんなに張り切っちゃってさ。痛々しくて、笑いこらえるのに必死だったよ」


「ひどい……です」


「そもそもお前、聖女だろ? 聖女なんて、みんなどん底もどん底、終わってる女たちなんだ。少しでも夢を見させてもらえただけ、感謝してほしいくらいだね。じゃ、ばいばい。負け組の聖女ちゃん」


 悔しい。そう思うのに、柄の悪い人たちに足がすくんで、何もできない。私は笑いながら去っていく集団を、黙って見送るしかなかった。


 私は教会に戻る。普通に、何事もなかったみたいにしなきゃ。そう思うのに、先輩たちの顔を見ると、ぼろぼろ涙がこぼれてしまう。


「リアちゃん、どうしたの?」


 結局、私は全部白状した。色恋に浮かれて、まんまと騙されたこと。ペンダントを渡してしまったこと。散々に聖女であることを馬鹿にされたこと。


「もう終わりです、私の人生。もう、死にます……」


「あなた、馬鹿ですの?」


 イザベル先輩の言葉に顔を上げると、残りの二人も、うんうん、と頷いている。


「そんなんで人は死なないよ。現に私たちだって、しぶとく生きてるんだ」

「そうだよぉ。それに、そんなクズのために死んでやるなんて、悔しいじゃない」


「でも、私、どうしたらいいのか……」


「まったく、リアちゃんには最強の先輩がついていますのに」

「そうそう。人生の先輩が」

「失敗の先輩かもしれないけどねぇ」


「集団でいたのでしょう? きっと半グレグループですわ」

「裏町にたむろしてるらしいし、まあ、場所は大体分かるよ」

「ということで、先輩たち、ちょっとお仕事してくるからねぇ。リアちゃん、待ってるのよ」


 先輩たちは暗黒微笑をして、教会を出て行った。まさか、カミルたちのところに行くつもりなんだろうか。私はこっそり後をついていく。


「こんばんは。聖女ですわ。ちょっと世界の浄化のために力を貸していただけませんこと?」


 空き地でたむろしていた集団に、イザベル先輩が話しかける。そこにはもちろん、カミルの姿もあった。


「はあ? 浄化って何だよ?」


「あなたたちを浄化するのよ。この社会の汚れが」


 アンナ先輩がかわいらしく微笑んで言う。


「あんまなめたこと言うと、ぶっ潰すぞ」


 焚きつけられた男たちが、先輩たちに向かってくる。


「もちろん私たちは抵抗しますわ」

「拳で」

「ということで、さっそく、滅!」


 そこからは、あっという間だった。仕事人にかなうはずもなく、郎党はばったばったとなぎ倒されていく。観念した人々は、どんどん逃走していった。


「あ、お前! あの化け物たちを止めてくれよ!」


 逃走したカミルは、私を見つけるや、助けを求めてすがりついてきた。


「馬鹿にしないで!」


 私はそれを突き飛ばし、思い切り睨み付ける。


「何するんだ、この!」


 私に殴りかかったカミルは、

「うちの後輩に触るんじゃない!」

と、先輩三人同時に殴られて、あえなく気絶した。


「せ、せんぱああああい……!」


 私は先輩たちに飛びついた。どうやら、仕事は終わったらしい。辺りはひどく静かだった。


「はい、ペンダント」


 カミルの懐から回収したそれを、ヘレン先輩が渡してくれた。


「本当にありがとうございます。全部、先輩方のおかげです」


 私は頭を下げる。

 

「私、今まで、聖女界隈は人生の墓場とか思ってました」


「うわあ、めちゃくちゃ口悪い」


 先輩たちは目を丸くする。


「でも、気付きました。聖女は、先輩たちは、凄く強くてかっこいい人たちだって」


 崖っぷちにまで追い詰められ、それでも足を踏ん張って生きていく。それはきっと、何より強いことだろう。


「私、いつか先輩たちみたいな立派な聖女になってみせます」


 それに先輩たちは、なんだか変に慈しみ深い表情で押し黙った。


「とりあえず、聖女まんじゅう食べる?」


 沈黙を破るように、アンナ先輩が聖女まんじゅうを取り出す。私たち四人は、それを食べながら帰路に就いた。


「イザベル、いっつもださいださい言うくせに、今は大人しく食べるんだね」

「そういえば、ヘレンさん、喉につっかえかけて、二度と食べないって言ってなかった?」

「アンナ様こそ、この前犬にあげてましたわよね?」


 先輩たちは、相も変わらずぎゃいぎゃい言い合ってる。でも、私はこんな先輩たちが、聖女界隈が好きなんだ。今なら、そう分かる。


「でもこれ、ほんとに美味しいですね……」


 聖女まんじゅうはしょっぱかった。多分私は、この味を一生忘れない。


 さて、聖女界隈に興味を持ったそこのあなた。ぜひこの界隈に入ってみませんか? 聖女一同、教会で待ってます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
え、ダークヒーローみあってめっちゃ好き
屑じゃない国民もちゃんと存在してるって知りたい!!笑
こんな屑しかいない界隈守る必要あるの?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ