崖っぷち聖女たちは、今日も頑張って生きてます!
聖女ものは四回目です! 一応恋愛ジャンルですが、恋愛を通じて成長する、といった感じで、ロマンス要素はありません。
聖女=神聖な力を持つ、美しく清らかな乙女たち、というのは幻想だ! というのが、最近私が会得した知見である。
私、リアは、絶賛見習い聖女をやっている。一か月前、教会にやってきた。質素ではあるものの、衣食住が保障されたこの生活は、穏やかで平凡。ある一点を除いては。
さて、私がお昼の掃除をしていた、その時のこと。
「リアちゃーん、ちょっと来てくださらない?」
さっそく、ある一点が発生した。
「はーい、今行きます!」
私はそう叫んで、声のする方向に向かう。確かこっちの辺り……。そう思いながら、庭にたどり着くと、庭のど真ん中に謎のアフタヌーンティー空間があった。ぼろいベンチ、ぼろいテーブルに、同じくぼろい日傘が括り付けられて、これ、東屋のつもりなんだろうか……。
さて、その東屋で、優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいる方が一人。修道服に身を包んでいても、溢れ出るお嬢様感がとどまらないこの方は、私の先輩聖女、イザベル先輩である。
「ねえ、リアちゃん。お紅茶に会うお茶菓子が必要だと思わなくって? そうね、ラングドシャかマカロン、季節のフルーツタルトなんて、ありませんでした?」
イザベル先輩は、優雅にカップを傾ける。
だけど、
「そんなもの、うちにあるわけないでしょうが。聖女まんじゅうで我慢してください」
私はため息をついて、教会名物聖女まんじゅう(なお、売れ行きはいまいち)を差し出す。
「い、いやですわ! 聖女まんじゅうだなんて、ださいですわ! 完璧な淑女の私には、高級パティスリーのお菓子が……」
「うちにそんな贅沢できる余裕はありません!」
私は先輩の口にまんじゅうを突っ込んで黙らせた。
「うう……。ぱさぱさしますわあ……」
先輩はもぐもぐしながら、絹のハンカチを目頭に当てる。まったく、困った人だ。
さて、ここで皆さんは疑問に思われるだろう。なぜこんな人が聖女をやっているのか? と。
何を隠そう、イザベル先輩は、元悪役令嬢である。かつての先輩は、王子の婚約者だった。しかし、王子は真実の愛を見つけてしまう。結果、先輩は、あることないことでっちあげられ、公衆の面前で婚約破棄をかまされた。さらに、ヒロインによるざまぁとして、身分を剝奪され、聖女として教会に突っ込まれたんだとか。
と、ここまででも、かなり情報量があったが、これで終わらないのが、聖女界隈である。
イザベル先輩の対処を終えた私は、その足で教会の二階に上がっていった。とある一室の扉を開け、カーテンをばっと開く。
「起きてください! ヘレン先輩!」
薄暗い部屋に光が差し込んだ、その瞬間——
「ぎゃああああ!」
おぞましい悲鳴と共に、黒い物体起き上がった。
「おはようございます、ヘレン先輩。と言っても、もうお昼ですけど」
「な、なんだ、リアちゃんか。カーテンを閉めてくれ。日光が、身体をやいて、死ぬ……」
起き上がったはずの先輩は、しかし寸分も置かず、ばたりと布団に倒れ込む。
「あんたはバンパイアか! こんなんで死なないでください! そろそろ起きて、お昼ご飯食べますよ!」
私は先輩をベッドから引きずり出す。
ヘレン先輩。万年引きこもりの無気力聖女である。しかしこの方、こう見えて、元バリバリのキャリア令嬢……もとい社畜令嬢なのだ。
才女と誉れ高かった先輩は、結婚することなく、官僚になった。男顔負けの働きをしていた先輩は、その手腕を認めてくれたとある上司と恋仲になる。彼への憧れから、先輩は身を削って実績を出し続けた。
しかし上司は、先輩の成果を全て自分のものにした。とんとん拍子に出世を決めた後、彼は用済みになった先輩と縁を切り、別の女と結婚までしてしまう。
一方の先輩は、過酷な労働と浮気のダブルパンチにより、ぶっ倒れた。そして、壊れた先輩はそのまま解雇、なんやかんや教会に突っ込まれたわけだ。
先輩を台所の椅子に座らせた後、私は残る一人のところに向かうことにした。午前中姿が見えないことから判断して、きっとあそこに行ったんだろう。
「アンナ先輩、またここにいたんですか」
教会裏の森に行くと、そこにはほんわかした雰囲気の聖女が一人いた。彼女はアンナ先輩。先輩聖女の最後の一人だ。
「わあ、リアちゃん。お疲れさまぁ」
森の動物さんに囲まれている様子は、いかにも純粋無垢な女の子。だが、この美少女、こう見えて、バツイチである。
アンナ先輩は、夫に「君を愛することはない」と言われた後、別の女と不倫&略奪されてしまう。そして、先輩は、不品行をでっちあげられ、嫁ぎ先から厄介払いされ、矯正として教会にぶち込まれるに至ったのだ。
「あのね、リアちゃん。動物さんたちに、餌をあげたくて……。できないかなぁ?」
アンナ先輩は、いつもののんびりした口調で言う。
「先輩、毎度ながら、こんなに動物を集めないでください。お金だってないんですから、餌やってる余裕はありません」
そう言った瞬間、アンナ先輩の顔に一気に影が入る。まずい。この展開は……。
「そっか、そうだよね。私、ずっとリアちゃんに迷惑かけてたんだね。ごめんなさい。謝るわ。そうよね。誰にも愛されない存在は、この世界に存在することすら許されない。それが、この世界の残酷なルールなんだもの。動物たちも、私も同じ……」
うわあ、ヒス構文出たぁ……!
「うふ。うふふふふ。ごめんなさい。もう、死ぬね。死ねばいいのね……」
「ああ、もういいですよ、アンナ先輩! 餌ですね! 台所にあるもの、お好きに使ってください!」
メンヘラ病みムーブに耐えられなくなった私は、やけくそになってそう叫ぶ。
「嬉しい! ありがとう、リアちゃん」
ほんわかムードに戻った先輩を見て、私は胸をなでおろした。
さて、何が問題なのか、もうお分かりだろう。これ全員が、私の先輩聖女たち。濃ゆい。濃すぎるよ、このメンツ。多分、各々でその人生を書籍化できる。
だけど、これは驚くことじゃない。この世界で聖女になるのは、往々にしてこういう人たちなのである。聖女界隈。それは、崖っぷちの女たちが集まる魔窟。聖女=鬱屈した過去を抱えた、訳ありちゃんたち、だ。
その時、
「聖女様! 穢れが発生しました!」
と、報告が飛び込んできた。
穢れは人々から発生した負の感情が流出してできた化け物。それを聖なる力で浄化するのが聖女の仕事なのだ。
そして私たちは、居住区付近に出現した穢れのところに到着した。どす黒い汚泥が、どろどろとうごめいているのは、かなりグロテスクだ。
だけど、先輩たちは慣れた手つきで、汚泥に拳を叩き込む。
「あの馬鹿王太子があああ! 簡単にころっと騙されて! 周囲もみんな阿呆なんですの!? ヒロインよりそっちが許せないのですわ!」
「君の成長のため!? 頑張ってる君が好き!? 仕事押し付けるいいわけじゃねえか! そして、本命はきゃぴきゃぴしてる若い女か!」
「不倫! 滅! 滅! 滅!」
それも、台詞付きで。
先輩たちの拳から発せられた暗黒のオーラが、穢れと衝突。瞬間、美しく輝いて、双方が消滅する。これが聖女による、穢れの浄化である。
どういう仕組みなのか。これには、負のものに負のものをぶつけると、正の力に変わる、という法則が働いている。分かりやすく説明すると、-×-=+、ということらしい。
これで、なぜ聖女が訳ありちゃんであるのか、納得していただけただろう。鬱屈度が聖女の力の強さと比例するからだ。どうやら、この三人は歴代でも屈指の実力者らしい。
さて、私も聖女の端くれとして、穢れを浄化しなければ! ということで、私も自分のうちのどす黒い感情を増幅させる。
「私より、なんだか弟の方がご飯の量多かった気がする!」
拳から、ぽすっと弱々しいオーラが出た。
聖女として、私は弱い。理由は一つ。私は無個性令嬢だから。しがない男爵家の五女として生まれた私は、持参金も用意できないし、家で養うこともできないとされた。結果、聖女として家を出されるけど、別に悲劇かと言われればそうじゃない。大して鬱屈してない私は、大した力も使えないというわけだ。
「何やってるんですの、リアちゃん!」
「後は私たちに任せて、リアちゃんはもう下がってな」
「滅しておくからねぇ」
わー、すごいー。今日も先輩たち、キレッキレだなー。私が感動して眺めているうち、穢れは浄化しつくされた。
そして、私たちは帰路に就いた。
「いい仕事をしましたわ」
「なんだか気持ちいいだるさだよ」
「世界をお掃除できて良かったぁ」
先輩たちが晴れやかな表情で微笑む。怨念を解放すると、彼女たちの心も幾分か浄化されるらしい。
その時、前方から人影が二つ接近してきた。しかも、これは——
「なーたん、おいでー」
「ん! みーくん、しゅきーーー!」
いちゃいちゃカップルだ! いちゃいちゃカップルが襲来したぞおおお! 私の中で警報が鳴り響く。
カップルは、かなり道の横幅を占領してる。このまま行くと、ぶつかる。だけど、こういう場合、絶対に先輩たちは遠慮してよけたりしない。結果、カップルと先輩たちがぶつかった。もちろん、カップルは謝らない。先輩たちも謝らない。
「あの人たち、怖いいい……」
「怖いねえ。なーたん、泣いちゃう?」
すれ違いざま、背後からそんな会話が聞こえてくる。
「うん、泣いちゃううー」
「よしよし、なーたん、いい子いい子。俺が守るからねえ」
まったく熱々だ。でも、さっきから、隣に極寒のオーラを感じるんだよなあ……。
「ちっ」
「ちっ」
「ちっ」
お三方から舌打ちが聞こえてくる。こういう日は絶対に——
「この狂った世界の崩壊を祈って、乾杯ですわ!」
「乾杯!」
「乾杯ぃ!」
私たちは夕方から酒場にINすることになる。そして、聖女たちによる、聖なる宴(大噓)がスタートした。
「なーたん? みーくん? 笑止、ですわ!」
「なにが、なーたん、おいでー、いい子いい子、だよ! おめえのペットか!」
「いるわよねぇ。ああいう、バカップル」
「他人に見せつけるなんて、獣以下ですわ! 下品ですわ!」
「一生守るって、何から、どうやって守るのかなあ? 教えてほしいなあ?」
「ああいう人に限って、すぐ浮気とかするのよ。私には分かるの」
ひとしきり文句のターンが終わった後は——
「婚約破棄って……。私、十九年間、あなたと結婚するつもりでしたのに」
「私、一生懸命働いたのにさあ。ちょっと上手くできなくなったら、すぐぽいって……」
「君を愛することはないだなんて……。私に魅力がなかったの? 問題があったの?」
今度はしんみりのターン。そして次は——
「でも、私たちだって幸せだわ。今がなんだかんだ、楽しいもの。そうじゃない? ヘレンさん、イザベルさん」
「ア、アンナ……!」
「そ、そうですわ。ヘレン様、アンナ様、私たちの美しき友情は不滅! フレンドシップフォーエヴァー、ですわ!」
「そ、そうだよね! 誓うよ。フォーエヴァー!」
「フォーエヴァー!」
出た! スーパーフォーエヴァータイム! これに入ると、先輩たちは、フォーエヴァー以外の言語を口にできなくなってしまう。
そんな先輩たちから、私はこっそり遠ざかる。悪いけど、私はフレンドシップフォーエヴァーするつもりはない。何を隠そう、私の目標は、聖女界隈の脱出なのだから!
先輩たちのように、恋愛への呪詛を唱える人生なんて送るもんか。目指すのは、普通の恋をして、普通の幸せを手に入れること。温かい一軒家、素敵な夫、かわいい二人の子供、そして犬! ああ、美しい家庭の様子が浮かんできた……。
さあ、この機会を利用して、出会いを探して見せる。どこかにいないかな、運命の人。
その時、
「あはは、なんだろう、あの人たち。君もそう思わない?」
と、話しかけてくる男性がいた。
男性の視線の先には——フォーエヴァーな先輩たちがいた……!
「うちの先輩たちがご迷惑をおかけしてすみません!」
私は物凄い勢いで頭を下げた。
「先輩って……もしかして君も聖女なの!? 全然見えないよ。ほら、聖女ってみんな、ちょっとあれだけど、君は本物の天使みたいにかわいいから」
「そ、そんなことないですよ……!」
これが、カミルさんとの出会いだった。それから、先輩たちに付き合って酒場にやってくる度、カミルさんは毎回話しかけてくれるようになった。
聞くところによると、カミルさんはやり手の貿易商らしい。一代で巨万の富を築くなんて、凄く優秀な人なんだろう。顔もかっこいいし、優しいし、何よりスマート。この人となら、きっと幸せに……。そう思うと、頬が熱くなる。
*
「今度、一緒に出かけてよ」
カミルさんのある日の言葉に、心臓が一回転した。
これは、デートのお誘い……! うきうきと緊張の入り混じる感情に突き動かされながら、私は気合を入れて支度を整え、教会を出ようとした。
「あら、リアちゃん、どこへ?」
と、イザベル先輩。
「ちょっと街にお出かけに」
「なんで修道服じゃないんだ?」
と、ヘレン先輩。
「まあ、所用があって」
「所用ってデートでしょ」
と、アンナ先輩。
「そうです……って、ばれてる!?」
私は凍り付いた。こ、殺される……。聖女界隈のフォーエヴァーを乱し、一人抜け駆けることなんて、許されるはずがない。ああ、私、拳で滅されてしまうんだ。
だけど——
「おめでとうございますわ」
「おめでとう」
「おめでとうねぇ」
あれ? 祝福されてる?
「でも、それなら、その化粧はちょっと直しましょう」
「その服も」
「ついでに靴もかしら」
そう言うや、先輩たちは自分たちの服や髪飾りを持ち寄って、ああでもないこうでもないと言い合いを始める。そのまま髪の毛を巻かれ、化粧をされ、衣装を取り替えること数回。
「魔法ですか!?」
先輩たちの手によって変身した私は、鏡を見て目を見開いた。
「リアちゃん、かわいいですわ」
「私たちの後輩だからね。当然だよ」
「妖精さんみたいねぇ」
「せ、せんぱああああい!」
なんて馬鹿だったんだろう。先輩たちは、こんなに優しい人たちなのに。それなのに、勝手に被害妄想に浸って、自分の失礼さに腹が立つ。
「泣かないでくださいませ、化粧が落ちますわ」
目をうるうるさせていると、イザベル先輩に怒られた。
「これ、聖女まんじゅう。お土産に持ってく?」
と、アンナ先輩。
「いいよ、これは。今日のリアちゃんは、聖女じゃないんだから」
ヘレン先輩は苦笑する。
「じゃあ、いってきます!」
いってらっしゃい、と先輩たちは微笑んで見送ってくれた。
そして私は、カミルさんと素敵なデートを楽しんだ。だけど——
「もう、会えないかもしれないんだ」
日も暮れた帰り際、カミルさんが真剣な表情で口火を切る。
「え……?」
「実は、事業が失敗して……。この街を出て、知り合いのところに身を寄せるつもりなんだ。最後、どうしてもリアに会いたくて、今日は一緒に出掛けた」
「この町を出て、生活していく目途はあるんですか?」
「新しく事業を起こせば、きっと上手くいく自信はある。でも、資金がなくて」
いつも堂々としてるカミルさんが、迷子の子供みたいで、胸がぎゅっと締め付けられる。
「これ、足しにしてください。かなり価値が高いものなので、売ればお金になります」
気付けば私は、肌身離さず持っていた母の形見のペンダントを渡していた。
「そんな、受け取れないよ……」
「いいえ、受け取ってください。私、カミルさんのこと、応援してますから」
「ありがとう。絶対に迎えに来るから」
私は耐えて見せる。幸せを掴む、その日まで。
*
それから一週間が経過した。カミルさんは、もう新しい街に着いただろうか。元気にしてるといいな。そう思いながら、私は街で買い出しをしていた。その時——
「どうして……」
そこにはカミルさんがいた。たくさんの友人と、そして女性を侍らせて。
「だって、別の街に行くって……」
「ああ、あれ全部噓だから。そもそも俺、貿易商じゃないし。お前が聖女って分かって、教会から金を持ってきてもらうつもりで近づいたんだ。でも、もっといいものゲットできて良かったわあー」
ペンダントを指に引っ掛けながら、カミルさんは笑う。
「騙したんですか!?」
「騙すもなにも、お前みたいな芋女、本気で相手にするわけないだろ。それなのに、この前会った時、あんなに張り切っちゃってさ。痛々しくて、笑いこらえるのに必死だったよ」
「ひどい……です」
「そもそもお前、聖女だろ? 聖女なんて、みんなどん底もどん底、終わってる女たちなんだ。少しでも夢を見させてもらえただけ、感謝してほしいくらいだね。じゃ、ばいばい。負け組の聖女ちゃん」
悔しい。そう思うのに、柄の悪い人たちに足がすくんで、何もできない。私は笑いながら去っていく集団を、黙って見送るしかなかった。
私は教会に戻る。普通に、何事もなかったみたいにしなきゃ。そう思うのに、先輩たちの顔を見ると、ぼろぼろ涙がこぼれてしまう。
「リアちゃん、どうしたの?」
結局、私は全部白状した。色恋に浮かれて、まんまと騙されたこと。ペンダントを渡してしまったこと。散々に聖女であることを馬鹿にされたこと。
「もう終わりです、私の人生。もう、死にます……」
「あなた、馬鹿ですの?」
イザベル先輩の言葉に顔を上げると、残りの二人も、うんうん、と頷いている。
「そんなんで人は死なないよ。現に私たちだって、しぶとく生きてるんだ」
「そうだよぉ。それに、そんなクズのために死んでやるなんて、悔しいじゃない」
「でも、私、どうしたらいいのか……」
「まったく、リアちゃんには最強の先輩がついていますのに」
「そうそう。人生の先輩が」
「失敗の先輩かもしれないけどねぇ」
「集団でいたのでしょう? きっと半グレグループですわ」
「裏町にたむろしてるらしいし、まあ、場所は大体分かるよ」
「ということで、先輩たち、ちょっとお仕事してくるからねぇ。リアちゃん、待ってるのよ」
先輩たちは暗黒微笑をして、教会を出て行った。まさか、カミルたちのところに行くつもりなんだろうか。私はこっそり後をついていく。
「こんばんは。聖女ですわ。ちょっと世界の浄化のために力を貸していただけませんこと?」
空き地でたむろしていた集団に、イザベル先輩が話しかける。そこにはもちろん、カミルの姿もあった。
「はあ? 浄化って何だよ?」
「あなたたちを浄化するのよ。この社会の汚れが」
アンナ先輩がかわいらしく微笑んで言う。
「あんまなめたこと言うと、ぶっ潰すぞ」
焚きつけられた男たちが、先輩たちに向かってくる。
「もちろん私たちは抵抗しますわ」
「拳で」
「ということで、さっそく、滅!」
そこからは、あっという間だった。仕事人にかなうはずもなく、郎党はばったばったとなぎ倒されていく。観念した人々は、どんどん逃走していった。
「あ、お前! あの化け物たちを止めてくれよ!」
逃走したカミルは、私を見つけるや、助けを求めてすがりついてきた。
「馬鹿にしないで!」
私はそれを突き飛ばし、思い切り睨み付ける。
「何するんだ、この!」
私に殴りかかったカミルは、
「うちの後輩に触るんじゃない!」
と、先輩三人同時に殴られて、あえなく気絶した。
「せ、せんぱああああい……!」
私は先輩たちに飛びついた。どうやら、仕事は終わったらしい。辺りはひどく静かだった。
「はい、ペンダント」
カミルの懐から回収したそれを、ヘレン先輩が渡してくれた。
「本当にありがとうございます。全部、先輩方のおかげです」
私は頭を下げる。
「私、今まで、聖女界隈は人生の墓場とか思ってました」
「うわあ、めちゃくちゃ口悪い」
先輩たちは目を丸くする。
「でも、気付きました。聖女は、先輩たちは、凄く強くてかっこいい人たちだって」
崖っぷちにまで追い詰められ、それでも足を踏ん張って生きていく。それはきっと、何より強いことだろう。
「私、いつか先輩たちみたいな立派な聖女になってみせます」
それに先輩たちは、なんだか変に慈しみ深い表情で押し黙った。
「とりあえず、聖女まんじゅう食べる?」
沈黙を破るように、アンナ先輩が聖女まんじゅうを取り出す。私たち四人は、それを食べながら帰路に就いた。
「イザベル、いっつもださいださい言うくせに、今は大人しく食べるんだね」
「そういえば、ヘレンさん、喉につっかえかけて、二度と食べないって言ってなかった?」
「アンナ様こそ、この前犬にあげてましたわよね?」
先輩たちは、相も変わらずぎゃいぎゃい言い合ってる。でも、私はこんな先輩たちが、聖女界隈が好きなんだ。今なら、そう分かる。
「でもこれ、ほんとに美味しいですね……」
聖女まんじゅうはしょっぱかった。多分私は、この味を一生忘れない。
さて、聖女界隈に興味を持ったそこのあなた。ぜひこの界隈に入ってみませんか? 聖女一同、教会で待ってます。