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第三章



「……つまらぬ」

 そうつぶやくと、舞奈は二階の自室へ上がった。うつろな表情の母親は、そのまま一階のリビングに控えている。

「優太は、あやつを始末する気はないようだな」

 よりにもよって、全ての生命の母である大地母神の私の願いを断るとは!

「……これは、私に逆らった報いをうけてもらわなければならなぬの」

 大地母神たる私の命令……これは絶対なのだ。

 その心の奥底には、五十州舞奈の意識が片隅に押しやられながら、必死にあらがっていた。しかし、その声は現在のこの肉体を支配している大地母神には届かない。

「さあ、私の産み出せし眷属よ。我が元へ顕現せよ……!」

 舞奈は宙に球体を描くように手を広げた。その描く球の中心に黒い霧が生まれ、修練し……。

「おお、よしよし、よく産まれたな」

 それは、頭から背中までびっしりトゲの生えたトカゲだった。ただ、どんな生物図鑑にも載っていないそれは、あきらかに現在の生き物ではないーー怪物だった。

 そのトカゲは、奇妙な鳴き声をあげると、舞奈に甘えるように、その脚に頬をすり付け……頭部に生えているトゲで舞奈の白い肌を引っかいてしまった。

「おやおや、おいたはダメじゃ。この身体は借り物なのじゃぞ」

 そう言って、主を傷つけてしまい、とまどうトカゲをたしなめると、傷に滲んだ血を指先ですくって、ぺろりと嘗めた。

「ふふ……生娘の血はひと味違うな」

 可愛いらしい舞奈の顔で嫣然と微笑み、舌なめずりをした。

「さあ、わが眷属よ。麓の集落を襲え。お主の力であらゆるものをたいらげ、更地にしてしまうのだ」

 命じられたトカゲは返事をするように一声鳴くと、床にとけ込むように消えていった。

「ふふ……今はドグーンと名乗っているのか? 数千年前、我に逆らったことを後悔するがいい! ははははっ!」

 舞奈は小学生の見た目に似合わぬ、迫力ある声で哄笑した。




 優太と隆治、元太は、三内丸山遺跡に戻って、ドグーンの脚元で五十州家での状況を話して相談していた。キーになるドグーンがここにいるのだから、露天での会議も仕方がなかった。

『ふむ、それは完全に取り込まれているな』

 舞奈の様子を聞いたドグーンが、うなづいて判断した。優太ががっくりと肩を落とす。

「やっぱり……お祓いとか出来ないのかな?」

『試すのはかまわないが……無駄だと思う。そもそも相手は神だ。その辺にいる動物の霊魂が取りついているのとは、訳が違う』

「霊魂って……そんなこともあったのか?」

 元太が不思議そうに口を挟む。

『あった。もっとも、そういった場合はすぐに祓ったがな』

「ふうん……ドグーン、なんでも出来るんだね」

『わたしはここ……三内の平穏を維持するための力を、いろいろ与えられているからな』

「すごいなあ」

『いやーーまて、何かが……』

 言い掛けて、ドグーンが、ふと三内の方を見た。

『何かが来る……』

「なにか?」

 元太が、ドグーンのつぶやきに聞き返す。

『これは……悪意だ。悪意が形をなして、街に現れた』

「……おいおい、悪意って、大地母神の悪意か? いったい何が起こるんだ?!」

 今まで黙って優太や元太の話を聞いていた隆治が、顔色を変えた。

『うむ。あのあたりに現れるぞ』

 そういって、堀立柱から離れたドグーンが指さしたのは、運動公園だった。

 そこから、土煙が立ち上った。




「な、なんだ?」

 運動公園で、陸上競技のトレーニング中の選手達が、地面の揺れに驚いてさけんだ。

 と、そこに土煙をあげて地面が盛り上がり、地面の下から何かが立ち上がった。

「GUWAAAAA!」

 現れたそれを見た選手達は、呆然としたまま固まって……ついで叫んだ。

「……怪獣だっ!」




 30年ほど前、宇宙人が、巨大円盤で地球を攻めてくると言う映画が公開され大ヒットした時、人類と敵対するその巨大円盤を、日本が撃墜したという劇中のシチュエーションがあった。しかし、軍事的に強いというイメージがない日本が、なぜそんなことが出来たという状況が描かれたのか。

 その理由を監督にインタビュアーが質問したら、監督は答えた。

「日本人はそういうシチュエーションに馴れているからね」

 異星人が攻めてくることに、日本人が馴れているかどうかはともかく、劇中の巨大円盤がビーム砲の発射準備をするシチュエーションで、登場人物達は収束する光に「きれい……」というだけだったが、日本のアニメファンは「あれはビーム砲の砲撃準備だから、絶対逃げるシチュエーションだよな」と苦笑した。

 映画やテレビで、子供のころから怪獣というものをさんざん見てきただけあって、実際に運動公園に怪獣が出現した時、それが未曾有の事態であっても、目の当たりにした人々の反応は早かった。

 呆然自失したり、混乱したりするより先に、まず逃げ出したのだ。

 ようするに、イメージトレーニングが出来ているという事だ。

 運動公園に出現した怪獣は、四つん這いで全長20メートルを越え、実在するどんな生き物よりも大きく、しかもありえないことに全身に長く鋭いトゲが生えていた。

 そのトゲでぶつかった周囲のものを穴だらけにしながら、運動公園の中を市街地へ通じる国道に向かって前進し始めた。





「なんだ、地震か?」

 執務室で書類仕事をしていた、青森の陸上自衛隊第九師団司令部の藤岡陸将は、建物の振動に、誰に言うともなくつぶやいた」

 しばらくすると、どたどたという足音とともに、ドアをノックするのももどかしく、隊員が一人、飛び込んできた。

「失礼します! 運動公園に巨大な生物が出現! こちらに向かって前進しています!」

 息を切らしながら、隊員が報告する。

 報告を受けた藤岡陸将は、最初は戸惑った。何よりも「巨大生物が出現」などという状況は想定していない。そもそも理解出来ない。

「巨大生物?」

 そう聞き返したのに対して、スマートフォンで状況を撮影した動画を、報告した隊員の一人が見せる。

「なんだ、これは……」

 慌てて撮ったのか、動画には、トゲだらけの怪獣が、陸上競技場を闊歩している様子が映っていた。

 その巨大な生物は、競技場のポールやスコアボードを壊している。それでその非常識な大きさや、危険度の高さがわかる。

「こんなものが、そこの運動公園に現れたというのか?」

「は、はい……」

 他に返事のしようがない、とばかりに隊員がうなずく。

 窓の外を見ると、確かに現場とおぼしき場所に、砂埃が舞い上がっている。

 あり得ない状況。しかし、見せられた動画には、細工をした様子もない。

 理由、原因の解明はあとでもいい。少なくとも、今、災害といえる状況がとなりの運動公園で起きている。手をこまねいていては、一般市民に被害が及ぶ。それだけは避けなければならない。

 藤岡陸将は、すぐに決断した。

「ここでくい止める! 遅滞戦闘だ。火力を集中する。16式機動戦闘車の可動全車を出動させろ」

「はいっ!」

 隊員の一人がすぐに出て行く。

「運動公園の出口に防衛線を構築。巨大不明生物が外に出ることを防ぐんだ」

 敬礼とともに隊員が飛び出す。

「それと、普通科を出して付近住民の避難を急がせろ! 近くには学校もある。隊服の格好でもためらうな」

 それとともに、窓の外を見る。

「あと救護隊を運動公園へ向かわせろ。逃げ遅れた市民を救出するんだ」

「はっ!」

 隊員達が指令官公室を出たあと、第9師団司令部の隣の区画にある運動公園に舞い上がる土煙をにらみつけた。

 もはや疑いようもない。直線距離で数百メートルもない第9師団司令部にも怪獣の暴れる振動が伝わっている。少なくとも、災害と考えたほうがいい異変が起きていることは確実だ。

 道路から信号をはさんですぐ第9師団司令部だ。煉瓦作りの塀もあるが、あんな化け物には役に立たないだろう。

 しかし、ここを破壊されようとも、一般市民を守らなければならない。

 陸将がひとりごちた。

「一般市民に仇なす化け物め。ここに現れたことを後悔させてやる」




 巨大トカゲは、運動公園の外……まさに第9師団司令部に通じる国道に出ようとしていた。

 その時には、出口の前に16式機動戦闘車が複数台、砲列を敷いていた。

「トカゲを街に向かわせるな! 近くには学校もある。市民の避難が完了するまで、怪獣の自由にさせるな。ここに足止めするんだ」

 指揮車の指示に、乗員たちがごくり、と唾を呑む。

 全長20メートルを越える生き物が、のっしのっしと歩みを進めてくる様は、想像を遙かに越えて迫力がある。すでに地面はトカゲが歩を進める度に地震のように揺れる。16式のサスペンション越しに、その振動も伝わる。

「まだだ、まだだ……撃てっ!」

 どんっ!

 16式機動戦闘車が一斉に砲撃を開始した。まるで一回の射撃のように、同時の砲撃音だ。

 目標まで数百メートル。的の大きさも併せて、現代のFCSでははずしようのない距離だ。

 発射したのは榴弾。攻撃対象が装甲されていない生物だからという想定だ。

 激しい爆発に、視界が一時ふさがれる。

 そして煙が晴れると……。

「敵に目視による損傷をみとめず!」

 煙の中から現れたトカゲは、損傷らしい損傷がなかった。それどころか、犬のように身震いをして砂埃を払い、再度前進を始めようとしている。

「弾種を鉄鋼に変更。撃て!」

 車長はトカゲのトゲが硬いと見て取り、砲弾の種類の変更を指示。次弾の発射を命じた。

 戦闘車の車体が揺らぎ、うなりをあげて砲弾がトカゲを襲う。

 キィン!

 金属音が響き、トゲに当たった砲弾が弾かれる……が、105ミリ戦車砲弾の衝撃に、トカゲが押し戻される。

 GUWAAAAA!

 歩みを止められたのが不愉快だったのか、トカゲが吠える。

「つづけて撃て!」

 街の盾としての戦いが、始まった。




「ドグーン! そんなに急いだら危ない!」

『大丈夫だ!』

 ドグーンが市街地に向かって駆け下りる。優太達は隆治の運転する軽自動車でそれを追いかけていた。

 三内丸山から運動公園は、数百メートル。すぐそばといっていい。

 近づくにしたがって、自衛隊の砲撃音が大きくなる。

「でも、ドグーン、武器がないよ! 相手は怪獣だよ!」

『問題ない』

 通りに出ると視界が開け、トゲだらけのトカゲ……しかし既存のトカゲとは全く似ていない……に対して自衛隊の戦車が激しい砲撃を続けているのが見えた。

「なんだありゃ? 本当に怪獣か!」

「まあ、なんだ。そういうことだろう」

 元太の驚きに、驚く気はないとばかりに隆治が応じる。

『いくぞっ!』

 叫ぶと、ドグーンは跳躍した。




「くそっ。足止めも限界か」

 トカゲ相手に16式機動戦闘車でひたすら砲撃を続けていたが、相手が砲撃に馴れて、前進しつつある。

 他の誘導弾にしても、加農咆にしても、敵との距離が近すぎて使えない。

「そろそろ撤退する頃合いか……」

 現場指揮の車長は、順次後退する指示を出そうとした、その時。

「……おおっ、あれは、何だっ!」

 援軍がきたのだ。




『うおおおっ!』

 ドグーンが、跳躍からの蹴りをたたき込んだ。

 GUWAAAAA!

 後頭部に蹴りを食らったトカゲが、前のめりに地面に鼻を突っ込んだ。

 振り返りざまに怒りの叫び声をあげる怪獣。

 着地して相対するドグーン。吠えるトカゲに気負うでもなく向き直る。

『おい、トカゲ。おとなしく去れ。ならば、見逃そう』

 ドグーンの、言ってみれば降伏勧告。しかしトカゲは身震い一つすると、ドグーンに向かって来た。

『去るつもりはないか……ならば、仕方ない』

 ドグーンは地面に手を突き刺すと、何かをつかんで引き出した。

「え、え、ええええ!」

 ドグーンが地面から引き出したのは、青銅製の刀剣だった。青銅とはいえ、真新しいその表面は金色に輝いている。

 形状は両刃の直刀。刀身は10メートル以上はある。

『ここは人の住まう集落。おまえ達が好き勝手に暴れていいところではない。もう一度言う』

 ドグーンは刀を構えた。

『ここを去れ!』

 しかしトカゲは一声吠えると、ドグーンに突進してきた。

『ふんっ』

 ドグーンが跳躍してトカゲをかわす。

 その瞬間、トカゲが全身の針をドグーンに向かって発射した。

『!』

 刀を振るってそのトゲを全てたたき落とすドグーン。

 GUWAAAAA!

 自分の攻撃が通用しなかったのを見て、トカゲが再度突進してくる。体当たりの勢いだ。

 刀を構えたドグーンが、それを待ちかまえ、突進するトカゲと交差する。

 ……GUWAAAAA

 一声鳴いたトカゲが、その場に崩れ落ちる。

 そして、全身が土塊となって地面と同化していった。




 つぎの日の、青森の地方紙は、ドグーンの話題で持ちきりだった。

 いわく

「縄文の戦士 青森を守る」

「縄文の巨人 怪獣を成敗」

 また、ヒーロー史上、初めての巨大ヒーローのデザイナーが青森出身な上、その収蔵品が運動公園に隣接した、青森県立美術館に多数収蔵してあることを知っている人にとっては、巨大ヒーローが始めて現れたのが青森であることの因縁を感じてもいた。

 ちなみに、怪獣出現という未曾有の大事件が発生したにも関わらず、事件そのものによる死者は、奇跡的にゼロだった。

 最初に、運動公園に怪獣が現れた際に巻き上げた土砂に巻き込まれ、重軽傷を負った人が数人いたが、命に別状はなく、それ以外に被害者はいなかった。

 これは特に第9師団司令部のすぐそばという、怪獣にとっては不幸な、人間側にとっては奇跡的にラッキーなところに出現した事実も大きかった。自衛隊が足止めできたのだ。

 近くには学校や、大野という商店街や住宅地もある。そういった繁華街に、怪獣が移動するのを防いだのだ。第9師団が、怪獣そのものの撃滅に力を入れるより、遅滞戦闘ーー怪獣の運動公園内に封じ込めることに徹したことが、好を奏したのだ。

 ネット上の論客が、のんきにヒーローのデザイナーとの因縁に、思いを馳せることが出来るのも、死者が出なかった状況も大きい。

「しかしまあ、本当に街を守ったな、ドグーン」

『当然のことをしたまでだ』

 ドグーンは事もなげに応えた。

「本当にすごいよ、ドグーン!」

『ありがとう、優太』

 優太が、友の街を守った行動を誇らしげに誉め称えると、さすがにドグーンも口調を和らげて応えた。 

 今もドグーンは堀立柱の櫓にそばに立っている。事情を知らない人たちにしてみれば、「あんな足場のそばじゃなく、ちゃんと屋根付きの建屋の中に入れれば」という好意的な話も出ているが、堀立柱自体が力の源なのだから、仕方がない。

 ちなみに、もちろん警備がついていたのだが、ドグーンが異変に気づいて敷地を飛び出し、止めるすべがなかった。

 なにより、身長15メートル超の巨人を人が止める方法がないと、偉い人も分かっているらしく、処罰されることはなかったようだ。いつもの警備の警官達が、ドグーンの警備についている。

「新聞も絶賛だぜ。『今後このような巨大不明生物が現れた場合、自衛隊とともに、今回の土偶型巨人の出動を願うことが出来るか、青森県の対応が……』だってさ」

『新聞? 青森県?』

 ドグーンが、聞いたことのない単語に、聞き返す。

「ああ、そうか。ドグーンにしてみれば初めて聞く言葉だな。新聞ってのは、この……紙だ。いろいろニュース……情報が書かれている。そして、この三内を含む地域一帯を今は「青森県」と呼んでいるんだ。ちなみに、その青森県を治めているのが青森県庁で、この」

 隆治は背を向けていた時遊館を親指で指さした。

「建物もこの三内丸山遺跡そのものも、青森県庁の持ち物だ」

『ふうむ……』

「現代は青森県も含めて、この国は日本と呼ばれていて……」

 隆治は現在の日本の政治体制をひとくさり説明した。

『……その情報はそこにある紙というものでつくられた新聞、とやらに文字というもので記されているのか?』

「これにも書いてあるが、一日分だ。体系的には書いていないぞ」

『一日分ーーそれでよい。とりあえず文字というものを教えてほしい。その後、新聞を数日分、読ませてくれ。疑問なところや必要なところは、こちらから聞く』

「ああ、分かった。あとで準備する」

 隆治がうなずく。

「ねえねえ、それで、あのトカゲの怪獣は何だったの? ドグーンは知ってる?」

『うむ。あれは大地母神の使い魔だ。地母神が敵対する獣を排除する時とかに、使っている』

「大地母神? 前にも言っていたが、大地母神とドグーンは戦ったんだよな?」

『うむ。あのトカゲとは、戦ったこともある。大地母神の意を汲んで行動する怪物だ。それだけにやっかいでもある』

「ということはだ、我々現代の人間は大地母神の怒りを買ったということか?」

『怒りかどうかはともかく、現在の状況が大地母神の意にそまぬということではある』

「大地母神って、いろんな神話に出てくるけど、母なる神、だよね? 神話に出てくるものたちを生み出した」

 優太はそういうと、周囲の再現住居を見回した。

「ここ、三内だと、三内にいた生きとし生けるものすべてを生み出した、その神と戦ったという事になるの?」

『……うむ』

「どうしてそんな。神様に逆らうって……すごいことだよね?」

「まあ、まて、優太」

 隆治がドグーンの言葉に疑問を差し挟む優太を押しとどめた。

「大地母神相手かどうかはともかく、そもそも神話の世界じゃ、神殺しは珍しいことじゃない。言葉にすると確かに刺激的だがな」

「……そうなの?」

「ああ、そもそも北欧神話なんて、神話に登場する神々は全て滅びている」

「え? 神様、滅びちゃったの?」

「ああ。北欧神話では、現世は神々が滅びた後に生まれた新しい世界が、現在の世界になるらしい」

「へえ、神様のいない世界かあ」

 元太が感心したような、あきれたような顔でつぶやく。

「その他にも、神殺しのある神話はいくらである。しかも、この日本は、特にそういった神々の争いが発生しやすいんだ」

「え?」

 隆治は、ドグーンの顔を見上げた。

「ドグーン。ドグーンは日本にどれくらい「神」がいるか分かるか?」

『……いたるところに』

「いたるところって、そんなバカな」

「いや、元太、それが正解なんだ」

「え?」

 弟にうなづいた隆治が、ドグーンの足下に歩み寄る。

「西洋の宗教……一神教が知識として耳に入りやすいから、そういうイメージが固定化しているが、元々、日本の神というのはそういうものじゃない」

 隆治が座り直す。

「ここ、三内がどういう神話を語り継いでいたのかは、専門家じゃない俺には分からない。でも、のちの日本神話の祖先のようなものだろう。ということは、精霊信仰ということになる。精霊のいるところには神がいる。だから日本には、八百万柱……やおよろずの神がいることになる」

「うわー……八百万の神様かあ」

 その数の大きさに、目を白黒させる優太。

「それだけの数の神がいるんだから、内部に意見を異にするものや対立する者がいても、おかしくはないだろう?」

「それはそうだけど……」

 優太は不承不承うなずいた。

 たしかに対立や意見の食い違いはあるだろうが……本当に攻撃するのはどうだろう?

 隆治も、優太のその不服そうな表情に苦笑いした。

「まあ、確かにそうだ。意見の食い違いはあるだろう。それを神様同士がどう治めているかは、俺は知らないし」

 もう一度、ドグーンの顔を見上げる。

「ましてや、実際に攻撃を仕掛けるなんて実力行使は論外だ」

 隆治の目がマジになる。

「ドグーン、数千年前、お前は大地母神と戦ったと言ったな。いったい大地母神の何と戦って、どうやって勝ったんだ?」

『……』

「今回、大地母神の手下ーー神話風に言ったら「使い魔」か。それが現実のものとなって現れた。もう躊躇している暇はないぞ」

『……』

「……ドグーン、ボクも知りたい。ボク達だって手伝えるかも知れない。よかったら教えて」

 優太も必死に呼びかける。

『……言えない』

「ドグーン!」

『……疫災の神と化したとはいえ、神は神だ。それを謗ることは、あまりにも不敬だ。私の口からは言えない』

 隆治は目を覆って空を仰いだ。

「……不敬か。言霊ってやつだな」

「ことだまって?」

 聞き慣れない言葉に、元太が聞き返す。

「言霊。あんまり聞き慣れないだろうが、日本には言葉にした状況が現実化するという発想がある」

 苦笑いしながら、隆治はドグーンを見上げた。

「ドグーンは、大地母神の悪口を言うと、それが現実化すると警戒しているんだ。何より、もともと神だしな」

『……すまない』

「ううん、いいよ。ボクこそ、言いにくいことを聞いて悪かったよ」

『優太……』


はじめて投稿させていただきます。

香月 優といいます。

投稿ははじめてで、いろいろと不具合があってもうしわけありません。


作品は、地元、青森を舞台とした小学生の冒険活劇となっています。

いろいろと問題もあるかと思いますが、よろしければ感想、ポイント、ブックマーク等いただければありがたいです。

よろしくお願いします。

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