アダイト大公の最後
アダイト大公は多数の軍勢を率いてエスト王国の王都を目指して進軍していた。大公の領地から王都の前にはエイルダックと呼ばれる城塞都市が立ち塞がりまたその城塞都市を落として占領すれば王都への進軍の足掛かりとして有益なことからアダイト大公はアルバ侯爵とサヴィーニ伯爵以外のほぼ全ての兵力を諸侯達と共に城塞都市を落としにかかろうとしていた。エイルダックの城塞都市付近まできたアダイト大公軍は第一陣と第二陣に分かれてまずは第一陣をエイルダック城に進軍させた。
エイルダックは堅牢な城塞都市でありアダイト大公の軍の第一陣は門を打ち破ろうと進軍するがエイルダックからは矢すら飛んでこなかった。門を破り中に入っていく先頭の兵士達は街に住む民達を見て拍子抜けをした。
「敵兵がいない??」
「逃げ出したのか?」
あたりを彷徨う民を見て兵士が聞いた。
「そこのお前達!城の兵士達は何処か?!」
兵士の声を聞いた民達はゆっくりと無言のまま兵士達に近づいてくる。
「隊長!こいつら様子がおかしいです!!」
「それ以上近づくなら切って捨てるぞ!!」
民達は虚ろな表情のままアダイト大公軍の指揮官の一人の声を無視してそこら中から兵士達に近づいてくる。
「隊長!!」
「構わん!!ヤレっ!!」
指揮官の命令を聞いた兵士達は近づいて来る者達を槍で突き刺し、剣で切りつけるが次々を寄って来ると兵士達の肉を求めて喰らいついて来る。
「ギャーーーッ!!」
「く,来るなーー!!」
「怯むな!!動きは鈍い足を狙って動きを止めろ!!」
アダイト大公軍の第一陣は多大な被害を出しながらも民だった生きた死体たちを何とか駆逐した。第一陣の指揮官は城へと繋がる門を前にアダイト大公がいる第二陣の兵士達に増援してもらうように伝令を出した。
伝令の内容がアダイト大公の耳にも届くと大公は傍にいた長髪の男に慌てて聞いた
「どいういことだ?!ケネルよ。ラファールの動きを知っているのでは無かったのか!!歩く死体なぞ聞いた事もないぞ!」
「私にも分かりません。しかしそれらを駆逐できたなら被害は大きいですがエイルダックは落とせるでしょう。」
「以下が致しましょう大公殿下?」
「第二陣を進軍させろ!私も行く!ケネルよ!この戦いが終わったら貴様やアシューリスは用済みだ!タダで済むと思うなよ!」
「御随意のままに、大公殿下。」
エイルダック城へと自ら赴くアダイト大公を見てケネルは笑みを浮かべた。
「ケネル様、我々は以下が致しましょう?」
「城にはキマイラや下級のデーモン達が大勢いる、生きては帰れんだろう。邪魔する者は殺してラファールの元へ向かうぞ。」
ケネルが監視している兵士達を消してその場から去った後アダイト大公軍は城へと続く門を打ち破りなだれ込んだ、その先に待ち構えていたのは獅子の頭とヤギの下半身そして蛇の尻尾を持つ魔獣と山羊頭のデーモン達だった、そしてアダイト大公の兵士達に訪れたのは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
ある者は生きたまま食われ、ある者はデーモンの魔法で塵になり、またある者達はその場から逃げようとした。逃げようとした者の中にはアダイト大公も含まれていた。最後の護衛が倒れるとアダイト大公の前にキマイラがゆっくりと近づいてきた。
「こ、こんな、馬鹿な!!」
恐れに振るえるアダイト大公にキマイラはさらに近づいて口を開いた。その後、城にはアダイト大公の断末魔の叫びが響き渡った。