EPISODE21 探偵はいない
忘れることは簡単だ。
でも、本当に忘れるということは意外と難しい。
教室のざわめきも、誰かの笑い声も、今は穏やかに流れている。
でも──本当にこの結末で合っていたのだろうか。
望んでいない結末だったらどうしよう、絵本のような結末にはうまくいかないよな…
私「ねぇ、ちょっと!まさ!」
伊藤「あ?んだよ。何の用だよ」
私「家にお邪魔していい?」
伊藤「突然だな、おいお前もしかして…」
私「何?」
伊藤「いや、なんでもねぇ…」
もしかしたら成浅たちの差し金、と疑われてもしてしまったらかなり危うかった。
幼馴染だから疑われない、とでも思っていたけど変なところで勘が働いてるかもだからどうもやりづらい。
私「なによ気になるじゃない、教えなさいよ」
伊藤「うるせぇ、関係ねぇよ」
私「釣れないやつね」
ポケットから振動とその振動音が聞こえた。
画面は光ってポップが映し出されていた。
タッチをするとアプリに遷移される、宛先は成浅海人だった。
【成浅海人】
15:28 海『どう?入れた?』
私『まだよ、今から』
海『追々教えてね』
携帯を閉じて家に向かう。
伊藤「なぁ、なんで急に俺の家に来たいって行ったんだ?」
私「定期的に来たくなるから?」
伊藤「お前、なんだそれ変だぞ」
私「そうかもね。そういえばさ、同学年の子がいじめられたって話し聞いたんだけどさ、なんか心当たりと言うか…ない?」
伊藤「は?俺がしたって根拠はあんのか?」
私「違うわよ、確認よ。あんたがやってたら最悪だからね、不利益が被るわ。」
ひらひらとそんなのごめんだわと言わんばかりの手を動かす。
相変わらず口調が悪い、本当に悪いさすがの幼馴染でもちょっと口調は苦手。
やっぱりいつもと変わらない家、正直いじめっ子+幼馴染の家というのがどうも気に食わない。
15:36 私『着いたよ』
15:37 海『分かった』
私「あのさ、あんたの両親の話なんだけだ」
伊藤「おい!お前!さっきから変だぞ本当に」
思い切りの怒号を私に浴びせて深くため息をついて、もう一回胡座をし直した。
伊藤「その話はもうしないって言っただろ?」
私「ごめん、でもどうしてもスッキリさせておきたくてさ、つい出過ぎちゃった。悪かったね」
伊藤「これで終わりだからなこの話」
何回も聞いてはいるけどやはり気まずく、緊張する。
喉の渇きを覚えたのか唾を飲み込んだ。
17:06 私『つまり私が言った通りの事実なのよ』
海『なるほど、だからってしてしまうのは違ったね』
17:07 私『そうね』
私「ありがとうね、まさ。」
伊藤「うるせぇ、気分悪くなってきたわ胸糞わりぃ」
いかにも大袈裟に頭を掻き乱した。
本当はこんな事言わせたくないし思い出させたくはないけどやむを得ない事態なので実行したのは背に腹は代えられない。
グシャグシャの髪をみて笑うとふてぶてしい態度をとりそっぽを向いた。
◇◇◇
僕「なるほど、確かにほぼ一致していた。やはり幼馴染は一味違うね。」
遥「一味も二味もないわよ」
桃「複雑な家庭環境が起こした今回の事件…」
卓「なんとも数奇な物語」
5人で今までの情報がまとめられた用紙を見つめた。
そこには筆箱の件もよく書かれている。
やはり伊藤が取ったのには違いなかった。
ただ場所までは推理のしようがない、不本意な聞き込みをしないと割り出せない場所に隠されていた。
僕「ふっ、まさか…ね」
筆箱は、使用されていない4階の隅の空き教室の高所、と書いてあった。
さっき取りに行った時に青い筆箱、金色のチャック、とすべての特徴に当てはまっていた。
桃「後はすみちゃんに渡しに行くだけね」
遥「そうね、全く酷いやつだわ!あんなのずっと謹慎処分でいいわよ」
卓「それはやりすぎなんじゃ…」
時「幼馴染やから少しはお慈悲を持ってあげな」
遥「うるさいわね一回アイツのこと殴っといたほうがいいわよ、スッキリするわ!」
桃「まぁまぁ」
その後に薄暗い空き教室を出て自分たちの教室に戻った。
◇◇◇
あれからどのくらい経ったろうか。三寒四温を思い出したあの頃は実に2,3ヶ月は経っているということに気づいた。
時の流れは早いもんですなぁとでも思いふけっているなり、ある場所へ行くために準備をするのだ。
僕「おまたせ」
桃「流石探偵、時間よりも早めだね」
僕「5分前行動は基本でしょう、それに探偵じゃないし」
卓「どうして?」
僕「なにも守れてないし、なにも解決できていない。実際、八雲君と伊藤たちの仲を取り持つことも出来なかった。」
卓「そんな気落ちするなよ」
桃「そうよすみちゃんも八雲君もあなたに感謝してたわ」
僕「だといいけどね…」
少し登った太陽の光を受けながら揺れるバスの窓の外を見ながら呟く。
大体、探偵というのは子供騙しな名称であって決して僕が探偵として、探偵のように頭がキレて優れているわけではないのだ。
桃「まぁ、1人で抱え込まずに相談することね。あなたそういうの苦手だからね」
卓「ほんとだぞ、ちったぁ俺らの事頼んな?いつでも味方だからさ、」
2人の前向きで温かい言葉は心を優しく包み込むように取り巻いた。思わず涙がポロッと溢れ落ちてしまった。
バスは終点まで続く旅を続けているが降りるのはその手前すぎる場所なのかもしれない。
エピローグ─作者の語り─
ここまで読んでくださってありがとうございました!
「筆箱失踪事件」、書き始めたときはこんなに長くなるとは思っていませんでした。笑
最初はただのちょっとしたクラスの事件だったはずが、成浅海人くんをはじめ、いろんなキャラが勝手に動き出してくれて、気づけばここまで来ました。
あ、あと最終回に椎名さん視点のお話を作らせていただきました、出番は少ないですが伊藤くんの心情を描くためには必要かなと思いました。
この作品で描きたかったのは、“正解のない教室の空気”とか“何かを隠す人の気持ち”みたいなものだったのかもしれません。
もしほんの少しでも、そんな部分が伝わっていたら嬉しいです。
実は成浅海人くんの物語は、もうちょっとだけ続く予定です。
今度はもうちょっと広い場所で、もうちょっと変な事件に巻き込まれるかも…?
最後まで読んでくださったあなたに、心からのありがとうを。
また次の事件簿でお会いできたら、とても嬉しいです!




