EPISODE19 未消化の謎解き
―――謎解きは授業の後で―――
案は練ってきた。
じゃあつぶあん、こしあんの餡を作るときは?
餡を練る、じゃない?
たっくんにそう言われた僕は戸惑いつつもスライ戸以来のギャグを賜った。ギャグなのかな?
メールでもやり取りはできるが一番は生であって肉声を聞いて話し合ったほうが自分にも良いと思ったからだ。
どうも通話をするときの声が肉声に近しくない声だな、まさに少しだが微加工された声といったほうが良いのか。
コーヒーを眠気覚ましで飲んでみるけど無糖の紅茶より苦い。少しの砂糖が入ればちびちび飲むだけだけど
飲めないこともない。ただ量が少ないと苦みに負けてしまうな。
卓「それでさ、僕はコロッケよりもメンチカツ派って言ったのよ。」
桃「いーや、コロッケだわ。揚げ物界TOPの唐揚げの次に右に出るものは?って聞かれたこう答えるね。”コロッケ”ってね。」
卓「わかってないね〜ももちゃんは、コロッケってただ蒸したお芋詰めただけじゃん!美味しいっちゃ美味しいけどなんか足んないっていうか。」
桃「そっちこそ!わかってないわね。これだからお肉大好きなお子ちゃまは...。それに、ちゃっかり美味しいって認めちゃってるじゃない!あのね、メンチカツって玉ねぎ以外野菜ないじゃない、はっきりいうと不健康よ。
しかもね、コロッケにも”肉入りコロッケ”っていうものがあってね...」
卓「あいあい!メンチカツの肉に対する野菜の量が足りないっていいたいのかい?不健康っていうのはわかんのかい?」
桃「"肉入りコロッケ"があるならメンチカツなんて要らないじゃない。炭水化物、ビタミンが取れるわ。」
卓「そうなりゃ2つとも結論は一緒じゃないか!」
何を論争しているのか。コロッケとメンチカツらしい。
ちなみに僕は唐揚げ。子どもなら誰でも選ぶ王道中の王道の食べ物。
僕はこの会話に入らない。なぜなら唐揚げの右を決める論争なのだから。入ったら空気が読めないだとかで罵倒されそうだから。あと単純に入らないほうがいいから。
取り敢えずおはようだけして席に着席しておく。
桃「だーかーら!結論じゃなくて好きになった原因が欲しいのよ!結論なんて二の次よ。」
卓「僕は、メンチカツが好きだ!肉が入っててジューシーで栄養満点なとこが好きなんだ。」
桃「コロッケ派としてはメンチカツのひき肉はコロッケの派生の"肉入りコロッケ"として完結できるのよ。
コロッケがメンチカツを自己補完できる揚げ物よ。
果たしてメンチカツにできるかしら?
ああいえばこういうの理論で行くとお互いがお互いのマネをするとどっちかわからないじゃない。」
卓「ん…確かに。芋入りメンチカツでも完結する...」
桃「でしょ?この勝負、貰ったわよ」
卓「そうでもない、それぞれの料理はそれぞれの良さがある。」
桃「どうぞ」
卓「ゴホン、では言わせてもらうよ。前述の通り、メンチカツは肉々してジューシーだ、野菜は玉ねぎくらいしかないだろうね。
でもどうだろう、コロッケは肉を入れない限り、ジャガイモという野菜しか入っていない揚物になる。どう?」
桃「さっきの繰り返しよ。認めたくないけど、結論は確かに似たようなものね。」
卓「わかってくれたか...」
遂にコロッケ、メンチカツ論争は終止符を打たれることになる。メンチカツってイカメンチもあるよね。
イカメンチって美味しいよね〜。
そんなことはどうでも良くて、失くなった筆箱がどこに隠されたのか今のうちに心当たりのある人を募って聞いてみる。
僕「やぁ、八雲くん。怪我は治ってきたかい?」
時「おかげさまやで。だんだん良ぉなったで」
僕「そう、よかった。それで聞きたいことがあるんだけど...」
時「あれやろ、筆箱の件やろ」
僕「そう。前に図書館で話を聞いたときに、アイツらに指示されて自分で隠した、と言ったね」
時「せやな」
僕「その時に隠した場所って...」
時「言うてへんね」
僕「教えてもらいたいけど...」
時「ウチも協力さしてや、情報は出せるで。」
僕「情報源は必要だね。うん、協力お願いします。」
前までは疑いの雲がかかっていた八雲時。
黒寄りのグレーで、自分たちに何をしてくるのかわからないかった。
しかし、協力的であるが故に情報提供を余儀なくされるのを承知の上での協力。
少し間を開けて口を開いた。
時「教えたいところなんやけど、なんぞ忘れとる気ぃするんや」
僕「うん?自分で隠したんじゃないの?」
時「そうなんやけど、隠したあとに誰かが来た気ぃするんや」
僕「それって、筆箱を隠したあとに誰かが来て筆箱を見つけたってこと…になるね」
時「そうや、でもめっちゃ複雑な場所に隠したはずやのに…尾行されとったと考えれる」
僕「じゃないと複雑な場所なのにバレるってなるとその先が一番濃厚だね。ところで、どこに隠したの?」
時「音楽準備室に隠したんや」
僕「音楽準備室って...4階の音楽室隣の部屋じゃないか。どうやってあそこに入るんだ?吹奏楽部の人と音楽の授業以外大抵あそこに入るのは難しいよ。」
時「それを利用すんねん」
僕「と言いますと?」
時「入れるんは吹奏楽部と授業って言うたやろ、それを利用して準備室に隠してん」
確かに授業で準備室から備品を出すことを考慮するとみんなが運搬に夢中になっている間にコソコソと物陰に隠れて隠しているということになる。
だが一つ感じるのは、八雲くんとは同じクラスであることだ。
同じクラスなのに何故、コソコソ隠していたのに気づけなかったのだろう。
多分他のクラスメートが見かけたかもしれないが傍から見たら楽器を探していると見えるだろう。
それも利用し、クラスメートの目を欺いたということになる。なかなかに策士だな。
僕「なるほど、そして隠し場所の準備室の一角に今もあるかどうかは分からない、と。」
時「そういうことやな」
僕「その準備室に隠したあとに来た人がいたって言ったじゃん。それって、アイツらのことじゃないかな」
時「なんでそう思うん?」
僕「八雲くんに筆箱を隠すように刈り立たせた。
この件はアイツらが原田さんへの私怨か何かかもしれない、恨みがあってやるって言っても...共犯者の尻を拭ってやるっていうのもあるだろ?たいていはやってません、って逃げ帰ると思うけど...その、誰かが来たっていうのはおそらく次に音楽の授業で早めに入ってきた人なんじゃないかな。」
時「それがあの三人組だっちゅうこと?」
僕「おそらく…確信は持てない。
だけど、うまく隠せているかの確認をするために来たということにもなる。アイツらは全員C組だし...だから入れ違いになったんじゃないかな。」
時「なるほどな。もし、すれ違った人があの三人組の誰かやったら確かに辻褄が合うな」
僕「そうなるね」
時「そういえば!もう一つ大事なことを忘れとった」
僕「どうしたの?」
時「むっちゃ大事なことやったはずやのに思い出せへんねや」
僕「なんとか思い出して!解決につながるかも」
時「うーん」
こればかりは頑張ってくれ!
八雲くんにしかわからないことだ。
―――解決は授業の前に―――