EPISODE14 一匹狼
窮地を脱するには、気力あるのみだ。
「オレンジの種五つ」シャーロック・ホームズシリーズの短編小説。
ピンチを打開するには、それを打開しようとする「気力」が必要となる。
ピンチこそ最大のチャンスであり、事件解決の一番の打開策になるホームズの心得。
程なくして本人の口から溢した。
いじめ、恐喝、暴力を受けていたことがその時に発覚した。
きっかけは図書室に呼び出され、話を進めるにつれて彼の口からこぼした情報がソースだ。
僕「こんなのひどいよ、どうしてこうなるまで黙っていたの。」
何食わぬ顔で目を合わせているが、彼は時々目線を逸らしてしまう。
一見彼の顔はニコニコしていて平然を装っているが、顔にほころびを見せたのか頬に一筋の光が見える。
ニコニコしている顔が今にもぐしょ濡れになりそうな、そんな顔、水たまりを作っている。
僕「今すぐ告発して彼らに罪を償ってもらわないと!」
時「ええねんで!元々、ウチの喋り方が変なだけやし、三人のことを笑わせることができひんかったウチのせいやねんで」
僕「そうやって!いじめられている子は自分のせいだって塞ぎ込むんだよ!いつまで経っても殻に閉じこもったまんまで外から叩かれてても人生なんも楽しくないよ!そいつらがしてきたことは仕返されるってのを知っていていじめをしているんだろう。それ相応に仕返し、いや...でも仕返しはやりすぎかな...、ん。」
時「せやな。ウチが困っとったら海人くんが助けてくれるし、その逆も然る。お互い助け合う互恵関係、つまりwin-winやな!」
それもそうだね。win-winの関係を結んでしまえばこちらだって堅いだろうし、何より仲間が増える。
だがそんな軽いこと言っていいほどの事案じゃない。
この時、今にも泣き崩れそうな水たまりがなくなった気がした。その笑顔が水たまりをなくしいい笑顔をこちらに向けている。いい笑顔するじゃん。
だけど本当にこんな事を言っていいかと言うと駄目だな。
僕「いじめは見過ごせない。だから先生たちにこの件を告発させてもらおう。」
時「せやんな」
僕「とにかく、その主犯の三人の証拠を押さえないとね。」
僕は手帳に走り書きをした。
いじめ、暴力、恐喝、窃盗、そしてまだまだ激化するようないじめの可能性。
気づけば時計は5分前を指していた、僕もクラスに戻るように促した。
八雲くんは山積みの本を丁寧に崩すことなく初定置に戻していた。昆虫の図鑑はA-12枠。
図書館の外に誰かがこちらの様子を伺っているのではと感じたが、外を出たときには既にその気配はなかった。
二人並んで図書館を後にし、その後も他愛もない会話を、と言っても世間話程度であるが笑いを交えつつも関西弁の子と会話の段差を埋めて普通にお話をできた。
関西弁の人は初めてだが、初めての割にはなかなかコミュニケーションを取ることができたのはいつになっても誇らしいことだ。
残り時間も少ない中で囚われているのにまだ戻った時点ではガヤガヤしていた。
僕の机の周りにいつもの二人が屯していた。戻ってきた僕を見るなりほぼ、半ダッシュなのか?たっくんが駆け寄ってくる。駆け寄る程度なら良かったけど、駆け寄る程度ではなかった。
駆け寄った衝撃がこちらに来るわけではなかったが、痛いもんは痛い。
恒例行事のごとくももちゃんが駆け寄ってきてたっくんの説教がもはやルーティーンまでなっている。
時くんがアホ面かましてこちらを眺めていると「何しとん?」とか言ってきそうな顔をしている。
さっきまで相談してもらっていたカウンセラーさんが教室でぶっ倒れてると流石に冷ややかな白目で見たくなるのも至極当然。
もれなくクラスメートが春にはあまり嬉しくないとても冷ややかな目線を残念ながらご丁寧に送られている。あ、終わった。勿論、朝の会まで本を読んで待っている学級委員の椎名さんにも。
本人の性格プラスでより冷徹さが増している。
嗚呼、視線が痛い。
今すぐにでも、上に乗っている重い重ーいたっくんをはたき落とした。勿論だが、起こした。
もう何事もなかったかのようにその場を片付けた。後に来る先生にも悟られないようにだ。
◇◇◇
伊藤「あの八雲?とかいうやつめっちゃキモくね?」
望月「囲んだだけでビクビクしやがって、気色悪いんだよな」
齋藤「ハッハッハ!まじウケる!うさぎみたいに体小さくして震えてさ!」
一同『アッハッハハハハ!』
伊藤「でもよ、俺見たんだよ」
齋藤「なによ。」
伊藤「あの野郎が図書館に入った後に誰だか、知らねぇやつが入っていったんだよ。」
望月「もしかしたらそいつ、あいつの仲間かなんかじゃねぇの?」
伊藤「ちげぇねぇな。チッ、面倒なやつが増えたぜ」
ちょっと文字数少なくってるかもしれません。
お急ぎで書いたもので申し訳ないです。加筆する場合があるかもしれないです。