EPISODE13 八雲時の言い分
ポーカーフェイスの裏側に隠された真の顔。
親友もおそらく知ることのない人の心の縁、今にも溢れ出そうなコップに水が後一滴でもこぼれてしまったら...
だいぶ絞れてきた事件の詳細。
とりあえず、原田さんの証言は助かりました。
原田さんに伝えて光り輝く教室をあとにして約束の場所に向かう。
時間にはだいぶ余裕を持って登校してきたので学校内であればどこかに行くのはそう難しい話ではない。
足を運んだ先には図書館があった。なぜ図書館に来たのか、ある人に呼ばれてわざわざ馳せ参じてたわけだ。
眩い図書館のドアを開けた先にはシルエットがある。
正体、八雲時公。
図書館だから本を読む以外はないのだが、昆虫の本を喰い漁っていた。昆虫好きなのだろうか。
開くドアの音に気づき此方を本腰に上目遣いでじっと見つめると開いた本を閉じて山積みになっている図鑑の上にドンと、置いた。
僕「やぁ、八雲時くん。こんな人気のない図書館に僕をお呼びいただいて。大変嬉しく想いますが、なぜご指名は僕だけなのかな。それで、何の用だい?」
まだまだ疑いの目は晴れない八雲くん。こんな朝っぱらから僕だけ、ましてや誰もいない図書館。
流石に何のようだ、という気持ちも芽生えてくるのは不思議ではない。
時「わざわざこんな朝っぱらからおおきにな。ところでなにか知りたいもんでもあるんやあれへん?」
聞かれましても、思い当たる節が見当たらない。節と言っても、筆箱の件にしか頭がないのだが。
不敵な笑みを浮かべて、微笑が遅れてやってきた。どうした!
時「例の件について知りたいことはないん?」
核心を疲れたような気がした。もしかしてだけど心の中でも読まれたのか?そんな気はしたけど大っぴらに話していたら、風の噂のように広まっていくだろう。
知りたいことは山ほどあったし、何より耳寄りな情報をいただけるのではないかと思うんだ。
生唾をゴクリと飲み込んで恐る恐る言ってみた。
僕「なにか知ってるんだね、事件の真相を...」
時「さぁな。ウチが知ってるってのも限らへんのやあれへん。人はそう簡単に信用するものとちゃうってもんよ。」
僕「いいよ、信じよう。さぁ、聞かせてもらおうじゃないか。」
時「ふぅん。聞きたいってことやな、かまへんで、耳寄りな情報を聞かしたる。せやけど、一方的に伝えるってのもしょーもないやん。勝負しような、ウチとジブンとや。」
僕「勝負か。いいよ、知恵働きは得意分野さ。考える暇もなく紐解いてみせるよ。」
時「海人くんええ威勢やね。そういうの好きやで。まぁ、勝負するつもりはなかってんけどや。」
僕「ん??」
時「まぁ、ええわ。情報一本教えたる。」
のどが渇いたのでもう一口生唾をゴクリ、としながら頭を降ると言った。
時「ヒントは僕や。僕が鍵を握っとる。」
僕「時くん?鍵?筆箱がどこにあるのかがわかっているのか?」
時「おん知っとんで。」
知っている、ということは犯人は八雲くんなのか?でもそんなことする人間にも見えないし、しかも誰とでもフレンドリー。分け隔てなく接しているのに原田さんにだけこんなことをするのか?
より一歩、八雲くんのグレーラインを超えてきた。
平然とした顔、だけど声色はマジトーン。
でもどこか引き攣った顔にも見えなくもないが、誰かが後ろ盾に八雲くんを操っている人物がいる、とでも言ったほうがいいのか。脅されて無理にでも隠したことも多からずともあるはずだ。
この一言ですべてを狂わせてくる。まさに悪魔の囁き。せっかくの均衡を保っていたのにジェンガを根本からぶち抜かれているような感覚だ。
時「僕が隠した。」
友達がこんなことをしていた、と気づいてしまったら縁を切ってしまうだろう。
たとえ、仲のいいたっくんやももちゃんでもだ。
だけど、長い付き合いだからこそお互いを悪く思わせたりはしたくないし変なこともできない。
実質お互いを監視し合っている五人組のようなもの。
それを全肯定でCO。冷静さを保ちつつも内心心臓バクバクで音が漏れ出そうなんじゃないかレベルで拍動している。たぶんシャトルラン終わった時並に動いてる。
やだな、冷や汗までかいてきたじゃないか。後頭部から背中まで冷たい液体が滴り落ちて更に拍動を早くさせる。
僕「冗談でしょう。時くんがそんなことするわけないじゃない。」
時「そんなこと。そのまさかだよ。ウチがやってん、信じてや。」
その眼には雲一つ掛かっていなかった。嘘だろ。目が虚ろになり、さらなる追い打ちを心臓にかけた。
膝が震え今にでも崩れ落ちそうだ。ピシッとした姿勢が崩れそうになってしまうほどに。
僕はいま足元が不安定なジェンガの最高層なのかもしれない。
僕「…。」
時「堪忍な、こないなことして。ウチだってこないなことやりたくなかったんや」
僕「じゃあなんで...。」
時「ほんまのことを言うのが怖かったんや。」
僕「どうして?人を騙すことが怖いのかい」
時「そうとちゃうんや。たすけてほしいんや」
僕「助けてほしい、それまたどうして。」
時「ウチ、脅されとんねん。」
僕「脅し?!つまり君は誰かに無理半ばにやらざるを得なかったということ、で合ってる?」
時「間違いおまへん。実は、C組の伊藤って人と望月、ほんで齋藤に。いじめやないけど、まぁいびられとるね。」
僕「いじめに脅し、よくあるセットだね。良くないよ、勿論離反はしたよね?」
時「うん、ずっと嫌だとは言うとるけど、「逆らったらボコすぞこの臆病者」って脅されて、肩をどつかれてビンタもされたな、って感じやで。別に悪意があって原田さんの筆箱を隠したわけやないんや。
それに証人がこう言っとるし、他にもなにか証拠があれば先生にも訴えることができるで。」
黙って聴き込んでいるが、人のこといびって従属させるとは、とんだガキ大将だ。
この時代にも態度だけのガキ大将はいるもんだな。
時「ターゲットはウチなだけで何も被害が及んでおらん、わけやないけどこの件の主犯格は伊藤や。伊藤吉政。ツーブロックを入れていて、ギラついてる感じの悪そうなやつ。
後の二人は取り巻きみたいなもんやで。」
伊藤吉政、いじめの主犯格だろう。あたかも八雲くんを筆箱盗難事件の犯人のように見せ、裏では伊藤とその取り巻きたちが脅して、やむを得ず。
いじめはいつ如何なる時代にもあってはいけないものなのに。人間は集団になればなるほど自分の弱みを他人で消していく。卑怯だよな、人間って。僕もその愚かなる人間なんだよ。
時「「関西出身なんだからからおもろいこと言ってみろよ。」って言われていざ言うてみたら、
「くっそしょーもないな、おめぇのギャグwギャグセンないんじゃねぇの、笑えるわ!」って言われて。
その後はウチの関西弁にもなんぞにとってつけて「てか何その喋り方、おかしんじゃねぇの。ちゃんと喋れよ」って言われながら髪を掴まれて。せやけどすでに別の痛みがあったから髪を掴まれたのはええねんけどや」
僕「良くないよ!!」
神聖なる図書館の雰囲気がぶち壊された。構わない、現に人が集団でいじめを受けているんだぞ。
誰だって怒りたくなるだろう。
僕「いじめに、脅しに、挙句の果てに暴力!立派な犯罪だよ。それに立ち向かったんだ、充分戦ったよ。
偉い、よく耐えた。でも、後は任せてほしい、ただもらえる情報はすべてもらいたいな。」
人の愚かさは実に集団でいるときが一番浮き彫りになる。
それは僕が一番知っている。小学校で散々浮き彫りにしてきたからだ。
いじめは良くない。
通年、いやいつになってもしてはいけないことだと思うんですね。
それこそ昔はかなり酷かったですが今でも頭を抱えるほどです。一対一だったら真剣勝負、タイマンということになりますが、もし一対複数人だったらどうなると思いますか?いじめです。
いじめに対する活動は毎年のように掲示されていますがそれでも意識は低いのかいじめはなくならない。
目に余るものを見せないでほしい。まったく、いじめる側はどういう神経があればこいつをいじめてやろうという気持ちになるのか、理解が到底追いつかない。