EPISODE12 これ...
皆さんの最初の筆箱は、おそらく大半が箱型の筆箱を使っているであろう。
筆箱の中身はいたってシンプルなはずだ。鉛筆5〜6本、赤ペンに使う人は青ペン。あと消しゴムもだ。
女子は可愛い筆箱を持っている子に集まって筆箱ごと交換していたり、可愛いペンを交換し合って使っていたのを思い出す。
僕にはまったく関係ないことだがね。
なんやかんやあって放課後である。
原田さんがももちゃんに手を引かれながら歩いてきて職員室前に合流した。
たっくんは袋に入った犯人の遺留品をガッシリではないがあまり傷つけないように控えめに摘んで、再度確認をしていた。僕も釣られるようにまじまじと見てしまっていた。
歩み寄ってきた足を止めたももちゃんを置いて2、3歩歩み寄ってきた。
原田さんがしゃがむ。男、井口卓は「井口卓たるゆえん。」と言わんばかりに見やすいように目線に合わせた。
レディーファーストの理にかなっている行動だ。かわいい子犬はたくましい元気でわんぱくな犬、「ホワイト・スイス・シェパード・ドッグ」という犬のようにお利口さんになっていた。
たくましい犬、井口卓。実に卓ましい。なんつって。
本題に入ろう。調べてみたが、インディゴというのは日本語で藍色と呼ばれているらしい。
そんなのはどうでもいいが。遺留品は触った感じはジーンズ生地の質感だった。
目利きがいいはずなので感触も分かるはずだ。
マチも十分にあり、エレメントはゴールド。おまけにたくさんの文房具。
筆箱入りの袋をそっと取り上げ、たっくんはしっかり持ったかなと確認して手を放す。
目線を上に寄越し、上目遣いになったままたっくんを見上げる。口許を緩めながら、視線を再び筆箱に注ぐ。中身も確認してみたいと仰るので、仰せのままに。
フリーザーバッグの封を開け、慎重に筆箱を取り出しスライドした。そう、スライ戸だ。
若干クスッとしてしまい、こちらも口元が緩んでしまった。
慎重に取り出された筆箱の深淵を覗く。筆記用具は全部除いていたので、中身はない。
何かを見つけたような顔でゆっくり顔をこちらに向け視線を送ってきた。
麻「これ...。私のじゃないです。」
なんと、何で判断できたのか。判断材料は本人のほうがたくさん持っているため断定はいくらでもできる。
少し冷静になり、なぜ断定できたのかを問う。
僕「原田さんはなぜ、こちらの筆箱が自分のものでないと気づいたんですか?」
至って疑問に思う。多分、二人共そうだ。どこをどう見て判断したのか、知りたいものであり仕方がない。
麻「はい。まずこの筆箱、土がついていて汚いというのにもかかわらず、やけに新品味がある筆箱だなぁって。」
そうだ、そうだった、決定的かつ断定にかけているほどに盲点だった。
本人が言っていたように、「古くから使っている大切なもの」だかなんだかわからないが。ジーンズ生地というのは使って大体4、5年経つと経年劣化、色落ちをしてしまうのだ。
証言が、「古く使っている」というのだから原田さんの筆箱と遺留品には合致しない。
僕「今気づいたよ。証人はやはり必要だね。ありがとうございます。」
麻「...。」
なにか言いたそうな顔だ。どうぞ、思い切りさらけ出しても今の僕達にはすべてを受け入れる覚悟がある。
麻「その、もう一つ見分けるところがあるのですが。」
僕「どうぞ、続けてください。証言はいくらあっても腐らないですから。」
麻「あ、はい。その、私の筆箱の裏のマチの部分に小学校の頃に転校してしまった友達のサインがあったんです。マチを見たときにそれがなかったので、外見と兼ねて確認したらビンゴだったんです。」
僕「なるほど、ですね。」
夕日が差し込めてくる。赤い夕日だ。夕焼けが朝焼けのようにも見えるのは無理もなし。
時計を見ると4時半頃、5月といえど夕日は傾く遮蔽物から漏れ出た光はより一層眩しくさせるものだった。
時間はちょうどいいし、何より親のこと心配させるの最もいけないことだと肝にも命じているので、口早に僕は別れを切り出し、原田さんを帰宅させることに。
たまたま通りかかった清掃道具を持った清掃員さんに挨拶代わりと入っては何だが、以前の穴掘りの件で道具をお貸ししてくださったことにお礼と言う名の挨拶を交わした。
少し傾いた帽子を親指と人差指で挟み元の位置に正した後に言った。
清「こちらこそありがとうね。なんでも、奉仕活動を学校のために尽くし貢献したと言うもんだから。
30年間努めてきたけど自主的にさせてほしいなんて嬉しく思ってきちゃってさ。おじさんも嬉しいったらありゃしないや。その心忘れずにな。あ〜、ほれもう下校時間はとうに過ぎているぞ、早く帰らない心配されちゃうぞ〜。」
少し申し訳ない気がありつつも、照れくさい気持ちもある感情が入り混じり複雑化とした。
愛想笑いとはなんとも申し訳無さが2対1で勝ってしまうが、たっくんは頭を掻きながらアハハと平常運行。
ももちゃんはと言うと口許が笑っているだけで目元は...彼女も平常運行だ。
毎回毎回私用で放課後に連れ回してしまっていることを申し訳なく思う。3対1、これで照れくささはあと3点以上取らないといけない。難しいな。
昇降口で上履きから外履きに履き替えピロティーを抜けた。和名だと吹き抜けだろうか。
赤い夕日は少し時間が経つと色が褪せていく。雲も光を突き抜けて光を反射をして赤色にすっかり染まってしまっている。もうこんな時間だ。晩御飯はカレーかな?ハンバーグかな?ちょっとばかりじゃない楽しみが心の底から込み上げていく。
ルンルンの気持ちで帰りたいがあのことを聞いたらどうもルンルンで帰れる気はしない。
気難しい顔をしていたのか僕の様子をうかがっていた二人が話を切り出してきた。
人間、最大視野は約180°以上あるので目だけ向けると本少しだがぼやけた2つの色が見える。
卓「かいちゃんそんな難しい顔しない、元気元気!」
桃「そうよ、そんな長く課題について食いついていたら逆に身体に毒よ。少し控えてみてもいいんじゃない?」
確かに二人の言うことはあっている。働きすぎなのだろうか、別に身体は対して疲弊はしていないが、頭がなんだかぼーっとしている感覚が微かにある。帰ったらちょっと休もうっと。
僕「ん?あぁ、たしかにね、二人の言うとおりだよ。ほら見てよまだまだ元気だよ!ほらー!」
左手で右肩を抑えて、回転の向きはどちらでもいいが取り敢えず台風が渦巻く方向に腕をブンブン振った。
しまった。完全に攣った。おそらく傍から見たら僕の顔は控えめに言わなくても終わってる。
今世紀最大の顔。ブスコンでもあったら間違いなくトロフィー行だ。
まもなく〜、ブスコン前駅ぃ、ブスコン前駅ぃ、お出口は左側です。
電車がプラットフォームにぴったし。見事乗車。なんて現抜かしていると何やら声が聞こえる。
桃「…ちゃん!かい…!かいちゃん!」
卓「おーい、息しとるかのぉ。」
桃「バ、あんた目開けてるでしょう!かいちゃん!ちょっと!」
卓「よーし、これより成浅海人救出作戦を決行する!隊員配置につけ1,2,3で持ち上げるからな!準備しとけよぉ」
桃「何してんのよ!」
卓「成浅海人救出作戦だよ」
桃「それが何なのか聞いてんのよ!」
卓「ちぇ、ほんじゃ説明させてもらおうかね?」
うん?なんだ、目の前がやけに赤い。原色の白色が赤色を纏っている。
どうやら無理に肩なんか回したからバランスを崩して倒れている、といったところだろうか。
大当たり。このゴツゴツした感覚、コンクリートだ。幼い頃に転んで以来、感じていない懐かしい感覚だ。
あれは、鬼ごっこしてたときだったけ?あれ、意識が遠のいていく...
少し持ち上げていた頭は再び地に着き、鈍い音を奏で静かに眠りについた。
卓「ン?ギャー!!かいちゃんかいちゃん!ちょっとちょっと!死んでるんちゃうんの?これぇぇ!!」
桃「大袈裟ね、ほら息してるじゃないの。勘違いしすぎよ、あんたは。」
卓「ふぅん、そっか。」
桃「寝てる...みたいね」
卓「んだ」
桃「起こさないように持ち上げないとね。かいちゃん寝起き最悪だからね。」
卓「んじゃ今度こそ成浅海人救出作戦だね。決行いたす!」
桃「もうそれでいいわよ。行くよっ!1,2,3,!」
浮遊感を感じた。ついにゴツゴツした地からの脱出に成功した。
次に気がついた頃には、フカフカだった。知っている天井が見えてホッと安心した。
机の上の携帯。メッセージが来た。
【仲良3人組♪】
18:14 桃『起きてる?』
18:15 僕『うん。運んでくれたの、重くなかった?』
桃『全然!こんな事これで初めてじゃないし』
卓『よかったよ〜、死んじゃったんじゃないかって思っちゃったよ。』
桃『死んどらんわ』
卓『(アハハ[スタンプ])』
18:16 僕『何そのスタンプw』
卓『買ったのwおもろいべ』
僕『うん』
桃『そういえばかいちゃん最近返信早くなったでしょ』
僕『分かる?』
その後も続いた会話は午後七時を周り、夕飯のお告げ来る前にお開きとなった。
新たな登場人物、クラスメートの原田麻純さん。
彼女がなくしたとされる筆箱と穴掘りの件とは全くの別物。つまりダミーだということがわかった。
旧友の残したサイン、ジーンズの色落ち具合。さて、筆箱はどこに行方をくらませたのだろうか。