EPISODE11 証言
証言確認。物的証拠確認済。
これより調査を開始する。
お二人は、規定配置につくこと。
少年探偵団始動。
ひとまず帰路につくと手帳に証言、そして筆箱の特徴を走らせた。
うぅむ。犯人は誰なのか、何で盗んだのか、犯人はなぜ穴を掘り、そこに埋めたのか。
犯人は、どのようなやつなのか。
一ヶ月経ったが、学校の全ての人間を記憶しておけるわけでもないし。
もしかしたら犯人が学年が上の人達かもしれない。
先生じゃないというのも言い切れない。
筆が止まる。目星の八雲くんは怪しいと言いたい。
しかしだ。僕が自称探偵だということを知っている口ぶりをしていたのが引っかかる。
たっくんがその前に言っていたのもあるが。
嗚呼、駄目だ。何も手がつかない。
中学校に入ってから宿題は配布されるわけではない。
自分から進んで勉強しろよってことだ。
自主勉強しなければならないのに、両立というのは大変だな。
あ、そういえば部活動の紙だ。
提出必須の書類なのでおざなりにしてはいけないのだが、来週までだと思い出したので保留にしておくとして。
ブツブツ言いながら色々考えているとあっという間に就寝時間。
寝なければ。
ー翌日にてー
床についたのはいいのだが、考えすぎると寝れないものだな。
結局何時に寝たのだろう、横を見た時にはもう既に12時だった気がするけど。
今日はやけに静か。
もう校門前、あの足音だ。
恐る恐る全身を使って振り返ると、今度は置いていってはいないが、少しももちゃんが遅れ気味。
横を見るがいないことに気づいたのか、少し減速。
頑張れももちゃん。
心密かに応援していた。
ゴールテープを切りました!
井口選手!続けて森本選手ゴールイン!
記録1秒差で井口選手1位。森本選手惜しくも2位。
ですが、素晴らしいレースでした。
途中しか見てないけど。
挨拶を交わし時間を見るとかなり時間ギリギリだ。
早くに出たつもりだけどな。トボトボしすぎたか?
ー教室にてー
今度は三人揃って教室の前に立ち尽くす。
取っ手に手を掛ける。開けた。
真っ先に視界に入ってきたのは、自分の席ではなく、一つの机に集まっているようだ。
後ろの席の人は原田さんだ。原田麻純。
どうやらみんなは原田さんの机の周りに集まっていることで間違いない。
どうしたんだ。好奇の目達よ。
寄って集って、いじめをしているのかい?
でも、違ったらしい。
集まっている原因は原田さんにあるらしい。
原田さんは俯いている。何かあったようだ。
しかも僕たちがいない間に。聞き捨てならぬな。
後の二人を引き連れ某さんに駆け寄った。
僕「どうしたんですか?原田さん。何かありました?」
ようやく気づいた。彼女は泣いている。
音すら立てていない、顔一面がびしょ濡れだ。
ひとまず、持ってきている未使用のポケットティッシュを割り、原田さんに差し上げた。
こちらを覗き遠慮そうな顔で頭を振るが、諭した顔で頷くとまた泣き出しそうな顔で、下唇を噛んでティッシュを二、三枚抜き出した。
濡れた顔が乾くと落ち着きを取り戻してきた。
目元が腫れ上がっている、取り巻きの女子たちが大丈夫よと背中を擦ってやると完全に落ち着いてきた。
その中にはももちゃんもいる。
ひとまず、何があったかを聞き出すことにした。
了承を得ると何か知っていそうな顔で頭を振った。
麻「……。あ、あのね。」
僕「ゆっくりでいいからね。何があったのかをまず教えてもらえますか?」
麻「うん…。あのね、…っちゃったの。」
僕「うん?もう一度お願いできる?」
麻「あ、あ、ごめん。慌てっちゃって、あのねなくなっちゃったの。…筆箱が。」
電流が走った。具現化したのかは分からないが、ピリッとした。
顔を上げて見渡すと二人とも事情は分かっていると言わんばかりの顔。
当然、あの件に絡んでいるかも知れない。
疑いの目を張って調査をしたいことだが、証拠も不十分。
もう少し聞き込みをしてみることに。
僕「すみません、そのなくなってしまった筆箱の特徴というのはどのようなものなのでしょうか。
詳しくお聞き願いたいです。どんな形だったとか、どんな色が使われているとか、どんな素材のものなのか。お願いします。」
桃・卓『(来た、名探偵、成浅海人!よっ、日本一〜。)』
麻「はい、筆箱は古くから使っているもので、ジーンズ生地の筆箱です。確か、インディゴっていう色だった気がします。ファスナーが付いていて、エレメントの色はゴールド。形はマチが充分にある広々としたポーチのような筆箱です。使い込んでいるのでかなりくたびれています。大事な思い出が詰まっている筆箱なんです!必ず見つけ出してください!」
僕「わかりました、思い出の品必ず見つけてみせますよ。情報提供ありがとうございます。
実は、一昨日に原田さんのに酷似している筆箱を見つけまして、よければ放課後職員室までご同行いただければいいのですが、予定とかはありますか?」
麻「いいえ、ないわ。でも似ているというのでも見つけているのは凄いですね。ぜひ放課後に拝見させていただきます。」
僕「わかりました。いいね?二人共。」
口を開きながら振り向くともうすでに覚悟を決めている顔をしている。いい顔だ、その意気じゃなくっちゃね、少年探偵団としてはね。
証言がさらにまとまった。二人が僕の両隣に立つと指を指しながら言ったのはたっくん。
卓「これさ、まとめてみると意外と証言って少ないもんなんだね。
あぁ!あとこれよ!穴で見つけた筆箱のカラー、原田さんの筆箱のカラーとほぼ一致してない?
直接見たからこそ分かるよね。」
確かに、ファスナーのスライダー部分が金属でないと反射なんてさせられない。しかも暗がりでよく見えなかったが改めて見ていると確かにインディゴという色に似てなくもなかった。
たくさんペンが入っていたからマチも大きかった。
これだけ原田さんの筆箱と共通点が多いと疑いたくもなる。
すると、どこからともなくある人物がひょこっと顔を覗いてきた。
椎名さんだ。元々集団には混じっていたが、僕達を見るなりこちらに寄ってきたようだ。
同じ学級委員のたっくんもそうだが、付き添いの僕もちゃっかり程度で覚えてもらっている。
ももちゃんは、というと謎の人望かなんかでもうお友達。さすが女子といったところか。
遥「あら成浅さん、奇遇ね。ところで原田さんの件、かなり主導していたじゃないの。やるじゃない。」
僕「やぁ椎名さん。学級委員長のお褒めの言葉、喜ばしく思います。」
自分の左胸に右手をそっと添え、頭を軽く下げる。手を元に戻し、姿勢も戻すと、呆れた顔で傍観されていた。
「こんなかいちゃんは見たことないわ」と言わんばかりにももちゃんが見る。
だが、まだ口許には微笑が残されてる。
たっくんは、というと……アハハと軽く笑っている。
ちょっと待ったのポーズを両手でしながら冷たい目をやめてもらおうとなだめる。
僕もアハハと微笑を交えながら頭をかくと、
僕「しかしですよ、学級委員長のお褒めの言葉なんてめったに聞くことないですし、相棒のたっくんにも言う場面ないんじゃないんですか?」
遥「う〜ん、そうね。やらなさそうな顔だったから意外だったけど、まぁ褒めるほどのことはしてないわね。」
卓「…。ひどいじゃないか!かいちゃんも遥さんも!流石に必要最低限以上の事項は難なくこなしてるわい!ふぅん、まったくもう。ひどい言い草だよ。」
椎名さんはクールな顔を変えずにさらっとひどいことを言った。
まぁ、たっくんのやっていることは僕達も百も承知の助!だ。
主に処務係は人並にはこなしているし、学級会議のときも積極的に意見は出しては、人一倍に意見を取り入れようとしている。
しかし、たっくんの誉れを蔑ろにするかのようにクールな顔で言ってしまう。いわゆるドSというのだろうか。
僕「椎名さんは、筆箱について何か知らなかったかい?」
遥「わたしに協力を仰ぐとでも言うの?」
僕「あぁ、そのつもりだ。僕の調査には人を巻き込んでやるんだ。」
遥「誰かの座右の銘かなんかなの?」
僕「いいや。僕のスタンスだ。初志貫徹と言ったほうがいいか、僕は性格的にも決めたことを曲げない性分でね。
一度起こった事件を解決するまで諦めないようにね、僕は犯人の弱みをとことん炙り出して吊し上げる。
犯人がどうなろうと構わない、犯行動機がどうであろうが関係ない。
ソイツのやったことはきちんとけじめを付けてもらわないと、どうにも気がすまないのだよ。」
子犬から獰猛な犬のようになる僕の姿を見て二人は静止に入る。
落ち着きを取り戻すと、行き過ぎたと少々ばかり反省をした。登った血が一気に開放されていくように。
桃「まぁまぁ、落ち着きなさいよかいちゃん。昔からそういう所あるけどちょっと怖いわよ、アンタ。」
卓「そーだそーだ!クリームソーダ!」
いや、もうそのネタは古い。
いつの時代の発言をしているんだ。
確かにインターネットを知らない小学生が全国各地で同じことを言っている現象は確認されているが、実際にこの現象の名前、総称は知らない。
いわば、「あるある」だ。
そのような感じだ。
遥「はぁ...。まったく、私の相方というものはガキっぽいわね。」
卓「カッチーン、あったまに来た〜。流石に学級委員長でも手出しちゃいけないって法律どこ漁ってもないんで。いや、待てよ。」
勢いよを殺さずにこちらを向いてきた。
ん?なんだよ。
卓「確か、かいちゃんの教訓によると「女の子にだけは手を出してはいけない」って言っていたな。」
僕「そうだね。で、どうするのたっくん。」
卓「やーめた。殴られるのは痛いしね、殴るのも痛いしさ。改めてよろしくよ遥さん。」
よく言った。それでこそ男だ井口卓。天晴なり。
椎名さんは黙ったまま頭を降ると手を出してきた。握手でもしようという粋な計らいだ。
差し伸べてきた手に気づいたたっくんは頭を掻きながら手を差し出した。
ペチーン。響き渡った。予想だにしなかった爆音に思わず他のみんなも音の出どころを振り向いていた。
すっとぼけていた顔から痛みと涙をこらえている男の姿が目に写った。
卓「痛ってぇ!!なんだよ!こっちから折れてやったってのに何なんだよこの有り様は。ひでぇよ。」
差し伸べた手を鈍し手で抑えながらぴょんぴょんと、まるで可愛らしいうさぎだ。
仮に可愛らしくなくてもうさぎはうさぎだ。
男井口卓、油断し敗北。
狡猾な椎名さんを褒め称えるようにももちゃんが
「ナァイス遥!」と言わんばかりに親指を立てはにかんでいる。
はにかむは語弊があったようだ。めちゃくちゃに喜んでる。ざまぁ見やがれって感じ。
日頃の恨みというか不満を椎名さん越しに解消してる様子を見てなんとも哀れだ。哀れなうさぎさんだよ。
涙が出てしまう。
先生が戸を開けて教室に入ってきた。
たっくんが去り際に耳打ちをしてきた。
卓「先生引き戸開けて入ってきてる。スライ戸ってことか。タハハ!」
いや、面白すぎるやないか。僕には到底できない真似だね。
手帳の糧にさせてもらうよ。
暫く余韻に浸りながら時々頭の中でスライ戸を思い出しながら口許を緩めてしまう。
タクトオーパス見てました。
正直見てて、めっちゃ楽しいです。