EPISODE1 再開
誰しも皆が口にする言葉。たかが知れていることは常識ではないこと。
常識という靴を皆は履き違えているのだろうか。人間は実に皮肉ったらしい生き物。
残念ながら「僕」も君たちと同じ人間だということ。
自分の体よりも少し大きい制服に袖を通し、高鳴る感情と高まる拍動を落ち着かせようと胸に手を置きそっとなでおろした。部屋の隅に置かれている全身鏡に自分の姿を写しながら最後の身だしなみチェックをした。
母さんが僕を呼ぶ声が聞こえ、応答をし階段をゆっくり1段ずつそっと降りた。母さんが僕の姿を見ると何故か嬉しそうであって悲しそうな顔で僕に近づいた。悲しそうな顔から笑みがこぼれ落ちているのを確かに見た。
母「かいちゃんももう中学生ね」
かいちゃんは僕のあだ名だ。随分昔から呼ばれてたっけ
僕「うん。」
母「ハンカチは持った?鞄の中に上履きとか入れた?他にも…」
僕「持ったよ持った母さん。そんなに心配しなくてもいいのに」
母親というのは自分の息子に何かあってからじゃ遅いのだと毎日気に掛けてくれる。
つまり心配性ということだ。その気持ちはわからなくもないが。
玄関まで足を運び、学校指定のローファー(革靴のこと)に足を通し、かかとを合わせる仕草をしながら
「いってきます」と口にする前に
母「行ってらっしゃいかいちゃん。」
と言いニコッといつも僕に見せる素敵な笑顔で言った。
ドアを開けると僕の姿が見えなくなるまで外に出てくれて手を降ってくれた。
中学校に続く道を辿り、桜の街路樹のある大通りに出た。そこからまっすぐいって信号を左に行って突き当りまで行けば今日行く中学校だ。
スタスタと歩き、コツコツとなる靴の音を最小限にとどめようとしたが難しかった。たまに心の中の声と会話してこういう遊びとかを一人事にしながら遊ぶのも僕の癖だ。
黙々と「傲慢と善良」という本を一枚一枚ページを繰りながら読み勧めていた。
あらすじは、婚約者である彼女が突然いなくなってしまう。主人公は彼女の居場所を探ると同時に彼女の過去にも向き合うというお話。
「恋愛だけでなく生きていくうえでのあらゆる悩みに答えてくれる物語」とされている。
正直恋愛というのはよくわからないが、居場所を探るのと過去に向き合うというところがいかにも推理って感じがしてビビっと来たって感じ。
やっぱり本は読み進めると手が止まらない。
と集中しながら本とにらみ合いをしていると何やら後ろからドタドタとかすかに足音が聞こえる。
次に聞いた音はもう自分に近かった。なんだろう。誰だろう。様々な疑問が浮かんで来たところで近づいてきた足音が止まって誰かが勢いよく背中を叩き
?「かーいちゃーん!ひっさしぶり~!」
どうやら聞き馴染みのある声だと思って後ろをそっと振り返る。正体は保育園のときから一緒だった井口卓だった。正直めちゃくちゃ痛い。おもむろに背中を痛そうに擦った。
僕「たっくん。痛いよ。急に背中を叩いてきてどうしたの?」
そう尋ねるとこう言った。
卓「いやかいちゃんがなんかトボトボ歩いててどうしたのかな?って思って。」
僕「だからって叩く必要はないでしょう」
卓「ごめんねかいちゃん。」と突然謝罪してきた。予想外だった。思わず言っていたが冷静に
僕「こっちこそごめん新学期早々。ちょっときつく言い過ぎちゃったみたいだね。許しておくれ。」
卓「かいちゃんが許してくれるならいいや。」
と言ったそばから
?「ちょっと、たっくん〜足早すぎ〜。あんたどうなってんのよ!」
と膝に手をついて話していてたのは同じく幼馴染の森本桃だった。どうやらたっくんの後を追いかけようと走ってきたものの意外もなにもたっくんの走る速さが尋常じゃなかったために遅れてやってきたそうだ。そのため、ももちゃんは息を切らしている。無理もない。
ももちゃんが落ち着いた後にたっくんが話しだした。
卓「いやただかいちゃんがいたから」
デジャヴ。2度目だな。
桃「いやあんたは猪か。」
的確且つナイスツッコミで心の中で親指を立てている。
僕「まぁまぁ落ち着いてとりあえず深呼吸だよ」
と、言うと二人とも息を切らしていながらも深々と息を吸ってため息のように吐き出した。落ち着いた後に尋ねた。
僕「そういえばたっくん。制服でよく走れるね。」
桃「かいちゃん、疑問に思うトコそこ?」
と、ももちゃん。すかさず
卓「いやもうそれはめちゃくちゃしんどかったよ。」
たっくんは言った。
僕・桃((いや走るなよ))
この言葉を聞いて僕とももちゃんはお互いに顔を見せ合い意思疎通を図ったかのように頷いて頭の向きを戻した。多分このときだけテレパシーで通じていたのだろうかと思った。そのとき僕とももちゃんの意見が合致したと思う。なんとなくそう思っただけ。
不意にたっくんがたまたま近くにあった高い位置にある時計を見てあっ!という顔をした。その後
卓「もうこんな時間!新学期早々遅刻はやばいよ!急ごう。」
とたっくんの言葉の後に一斉に桜の花びらが散りゆく大通りを駆けていった。
ー下駄箱にてー
卓「いやー間に合ってよかったね走ったら全然余裕だったね。」
と、たっくん。
とりあえず鞄から外靴をしまうための袋を取り出し、ガサゴソ奥まで入れた。
そしてもう一つの袋から上履きを取り出すと、静かに酢の木の板に置いた。
履き替えると一息つき、空気を吸ってみた。都会よりの学校でもあるが、なんだか新鮮味があり新築感が見受けられる校内外だった。少し突き当りの廊下まで歩いていると学校でおなじみ画鋲などを指している緑色のザラザラしたボードがまさにそこにあった。そこに何列も紙が貼られている。周りには顔の知らない生徒もいる。とりあえず自分の名簿でも見つけようと必死だった。
クラス替えでは学力で割り振っているというのもあるが、いちばん重要なのは結局話しかけやすい仲の良い友達がいるクラスであることが一番良い。割振られたクラスなんて二の次だ。後はたっくんとももちゃんの名前を見つけるだけだ。指を指しながら探していると「井口卓と森本桃」の名前を見つけた。
自分の名前を見つけたであろうたっくんとももちゃんもこちらを振り返ってきてそれぞれの顔を交互に見た。見渡した後に二人はキャッキャキャッキャと騒ぎ出した。
卓「かいちゃんとももちゃんと一緒だ!やった!よろしくね」
桃「かいちゃんとたっくんがいたら私はいいかな」
僕「そうだね三人とも1年A組だから4階に向かおう」
卓「えぇ〜4階まで登るの〜」
僕・桃『お前わんぱく小僧だから大丈夫だろ』
とタイミングが被ると顔を向き合って
僕・桃『ふふふ』
と思わず笑ってしまった。変なところでハモってしまうのだから致し方ない。でもまさか笑うところまでハモるとは思わなかった。
そんなこんなであっという間に教室の目の前に立ち尽くしていた。長く感じた4階分の段数も雑談を交わしながら登ると案外早くつくものだ。
僕「じゃあ...入るよ」
と言うと三人同時に息を呑んでドアを勢いよく開けた。やはり数十人の生徒がいた。でもまだ来ていない人もいるみたいだ。中には、席に座って本を読んでいる人もいれば、友達らしき人のところに集まって話していたりと至って普通の中学生が取る行動だ。そう思った。席はあいうえお順で右に名字があ行以降の人たちから順になって席につく。これは小学校のときと何ら変わりない点だ。そう考えると、僕たちは名字があ行で固まっている理由でもないからバランスの取れている且つ絶妙に席が離れていることとなる。
この学校のルールとしては、予冷がなったら着席で本鈴がなると授業開始や終了の合図となる。十分休憩をすることとなった僕たち三人は、もう一度クラス全体を見渡して人数や顔などを確認してみた。すると、
桃「ねぇねぇふたりとも」
と言うと
桃「なんかフード被ってる子がいるけど大丈夫そうかな?」
卓「校則の意味でってこと?」
僕「違うでしょ。多分好きでつけてるんじゃないの?」
桃「そうよ。別に校則でフード着ちゃいけないなんてないから。」
卓「あ、そうなの?」
僕「ちゃんと生徒手帳見た?」
卓「わり、見てなかったわ」
桃「んもうしっかりしてよたっくん。体調大丈夫かなってことだよ。」
僕「フードの他にもカーディガンとかも着ていいっていうのはあるけど、流石に学生の範囲内だから派手で
結構目立つような色合いとかのはやめてください。って感じなだけだよ。」
卓「そうなのかぁ」
桃「女子はブレザーだけど男子は学ランみたいね。」
僕「うんそうだね」
卓「あ、そろそろ時間になるわ席についとこうよ」
と、言うと各自自分の席に着いた。
(ドアが開く音)ガラガラガラ
ドアが開いた先には、爽やかな高身長の髪型センターパートの男の先生が入ってきた。
?「どうも、みなさんおはようございます。早乙女悠と言います。」
と黒板に書いた字は一生懸命にキレイに書こうとしている努力が見られる。
一同「よろしくお願いします。」
とまだ幼い声でそう言うと次にこう言った。
早「次にこの先生を紹介します。どうぞ入ってきてください。」
と開きっぱなしのドアに手を出しながら言うと今度は、おしとやかそうな可憐な雰囲気の女の先生が入ってきた。
?「みなさんおはようございます。七海結と言います。よろしくお願いします。」
と優しく僕らに話しかけてくるような声で言った。
七「担当教科は英語です。ちなみに皆さんTOEICって知ってますか?」
と聞くと僕らは意思疎通を図ったかのように静かに頭を立てに頷いた。
七「それで満点中985点なんですよ。」
と発言した途端に僕は反応した。
僕「え!新卒大学生でも平均600点くらいなのに先生って一体...」
七「うん?うふふ普通の日本人よ。」
少しこの本性を疑ってしまった。
早「七海先生ありがとうございます。先生もTOEICやったことあるけどそんなに取れなかったよなぁ。めっちゃすごいです。はい、ということで気を取り直しまして。皆さんに自己紹介をしてもらおうかなと思います。」
二人の先生の紹介が済むと次は自己紹介というのだ。そのためにもお膳立てをしておくべきだと腹を括った。
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