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《最終章毎日更新》【BL】異世界転移なんてしたくないのにくしゃみが止まらないっ!  作者: 城山リツ
Meets04 毒舌師範

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12 夜に鳴く

「あ……」


 なんだか、おしりがムズムズします。


「や……」


 ゆるゆると高められた体温を感じて、ミチルは意識を取り戻した。


「んん!?」


 ちょっと! 体のあちこちが撫でくり回されてるんだけど!

 ミチルは驚きに身を捩ったが、すぐさま手で口を塞がれた。


「ふぐっ!」


「静かにしろ、シウレン」


 ジンの囁きが耳元で聞こえた。

 これはやばい。もう無理矢理だ。

 このセクハラエロ師範、無理矢理オレをモノにしようとしているっ!


 ミチルは一瞬血の気が引いたが、ジンの手があまりそういう感じではないのに気づいた。

 ベッドの上、布団ごとミチルに覆い被さりながら、また小声で囁く。


「儂が貴様の腕をつねったら嬌声を上げろ」


「ハァ? ──ふがっ!」


 また口をふさがれたミチルは、目の前の強烈な美顔に睨まれた。


「いいな、儂に呼吸を合わせろ」


 そうしてジンはまず、ミチルの腹を服の上からもぞもぞ触った。


「んひぃ!」


 そうしてから、二の腕を軽くつねる。


「鳴け、シウレン!」


「ええ……?」


 ミチルが事態を掴めなくて躊躇っていると、ジンはまた二の腕をつねった。


「やれ! やらないと……」


「わ、わわ、わかりましたよっ!」


 その脅しの先は、ど下ネタなんでしょ! こうなりゃやってやんよ!

 ミチルは意を決して渾身の喘ぎを披露した。


「ああーん♡」


 うへえ、我ながら気持ち悪い。


「いいぞ、それだ。続けるぞ」


「ええ……?」


 ジンの手がミチルの腹をまた触る。


 もぞもぞ。

 つねっ。


「いやーん♡」


 なんなのこれ、バカみたいじゃん。

 ミチルは意味がわからないまま、ジンから腹を撫でられ続けていた。


 もぞもぞ。

 つねり。


「あっはーん♡」


 ……ていうかさ、触る工程いる?

 どうしよう、性癖が特殊過ぎて逃げるタイミング逃した!


 ミチルが次第に恐怖を感じ始めた頃、ジンのものではない低い声がすぐ側で響いた。


「……チッ、好き者が」


 んん? 誰!?

 部屋に誰かいる! まさか──


「最後の仕上げだ」


 ジンは短くそう言うと、どことは言わないがミチルをむんずと掴んだ。


「ぴぎゃああああ!」


 ミチルが上げた悲鳴とともに、ジンが布団をバサーっと剥ぐ。


「うわあっ!」


 あわやジンに襲い掛かろうとしていた何者かが、布団に包まれてくぐもった声を上げた。


「今度こそ、鐘馗(しょうき)会か!」


 ジンはすばやく身を翻し、布団をひっ被った曲者を布団ごと捕まえて締め上げる。

 それから次の瞬間。


 ゴキッ!


 鈍くて嫌な音がした。

 ミチルは顔面蒼白で狼狽える。


「く、首の骨、折った!?」


「そこまでするか。気絶させただけだ」


「えええ……」


 セクハラからの、命のやり取り。

 ミチルは唐突な事態の動きに、頭がついていかない。




「先生! ご無事ですか!?」


 曲者が気を失って数十秒後、青年が三人ほど部屋のドアを乱暴に開けて入ってきた。

 ジンを先生と呼ぶので弟子ではないかとミチルは思ったが、昼間見た弟子達よりも年齢が上の印象だ。


鐘馗(しょうき)会の刺客だろう。役所につきだしておけ」


 物言わぬ布団被りを乱暴に蹴って、ジンは冷たい声でそう言った。

 すると青年達はわらわらと、その刺客を捕縛する。


「かしこまりました。ああ、今夜の囮は彼でしたか」


「おとり……?」


 首を傾げるミチルを無視して、ジンは青年の一人に言う。


「まあ、そうだ。しばらくはこいつが毎晩勤める。お前達は警戒を怠るな」


「はい!」


 そうして青年達は、捕らえた刺客を引きずって部屋から出て行った。

 後に残ったのは、夜の静寂。


「ふう……まったく、毎度毎度懲りないヤツらだ」


 ジンは心底疲れたような顔で、ミチルが座るベッドに戻り腰掛けた。


「囮、って何ですか?」


 ミチルが聞くと、ジンは面倒くさそうにしながら言う。


「貴様も先日見ただろう」


「え……? アッ!」


 ミチルは転移してきたあの夜を思い出していた。

 暗い部屋で、ジンと誰かがくんずほぐれず……♡な行為をしている「フリ」をしていたことを。


「儂一人が静かに寝ていてもヤツらは襲ってこない。儂の強さを知っているからな。だが、ああいう行為の最中であれば……と思ってな」


「それで、オレの事を刺客だと思ったんですね!」


 あの夜の謎が解けた。ミチルの頭はとっても爽快になっていた。

 なあんだ、夜な夜な弟子を手にかける、ど変態師範じゃなかったんだ!


「まあ、貴様は間抜け過ぎたし、儂のどストライクだったので押し倒したのだが」


 そのせいで、ミチルはエロいモーションをかけるタイプの刺客だと思われたのだ。

 完全に謎が解けた。頭はすっきり爽やかだ。


「え、待って! でも、刺客が来なかったらどうしてたんです? 囮役の弟子と一晩中……?」


「……」


 ジンの表情は無になっている。


「まさか、その気になって最後まで……?」


「……」


 ジンの表情は無になっている。


「おおい! はっきり答えろ、エロ師範!!」


「……妬いているのだな、シウレンよ」


「ちっがあぁぁう!」


 ふっと笑ってこちらを見るジンの顔は、妖艶で美しく、ミチルは真っ赤になって否定した。

 疲れて寝落ちしたオレを、思う存分触りまくって……

 もし刺客が来なかった時の事を考えて、ミチルの頭は爆発しそうにもなった。


「しかし、これではイタチごっこだな。捕らえた刺客を勝手に拷問するわけにもいかんし……」


「て言うか、どうして先生は狙われてるんです!? しょうきかいって何なんですか!?」


 ミチルが怒りに任せて怒鳴ると、ジンは冷静に頷いてからミチルの顔に手を伸ばす。


「ふむ。そうだな、シウレンには教えてやってもいい」


 え……やだ、特別ってこと?

 顎クイされながら、ミチルはオトメのように心を弾ませた。


「話してやろう」


 そうしてジンは語り出す。

 御伽話(ピロートーク)にしては血生臭い、己の過去を。

お読みいただきありがとうございます

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