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《最終章毎日更新》【BL】異世界転移なんてしたくないのにくしゃみが止まらないっ!  作者: 城山リツ
Meets04 毒舌師範

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10 充恋

 フラーウムという、中華っぽい国にミチルが転移したのは昨夜。

 次の日の朝には、超絶イケメンおじさん、ジン・グルースへの弟子入りが決定。

 ミチルの身の上は相変わらずジェットコースター・ロマンスだ。


 そして昼過ぎ。


「ぎゃあああああ!」


 非常に汚い雄叫びが、ジンの居室に通じる中庭から聞こえていた。


「なんて固い体だ、貴様それでも十代か」


 股裂きに加えて背中を押されたミチルは、ギリギリまで曲げられた腰と内腿が悲鳴を上げている。

 押す、と言っても手ではなく、ジンが直接ミチルの背中に座って重圧をかけているのだから、ミチルはもう死にそう。


「死ぬっ! 死ぬぅ! ギブギブッ!」


「何がブヒブヒだ、貴様がメスブタになるにはまだ時間が早い」


「ブヒブヒじゃねえ! ギブアップ! ていうか、お下劣な下ネタ言わないでっ!」


 何なの、この人!

 数分おきに下ネタを吐きまくる、とんでもねえ先生!

 ミチルがそんな事を頭の中で毒づいていると、体が軽くなった。ジンが背中から退いたのだ。


「ああー……もう、だめえ……」


 ミチルはすぐさま横に倒れた。芝生が頬にグサグサ刺さるけど、そんな事を気にする余裕はない。


「……」


「先生?」


 急に黙って突っ立っているジンを、ミチルが不審に思っていると、毒舌エロ師範はふるふると拳を震わせながら言った。


「貴様、そんな艶かしい声で儂を煽るな。冷静に直るまでしばし待て」


 おい。

 どこを直す……って?


「バッカじゃないの!? オメーの頭は常にそんなことばっか考えてんの!? キモい! キモ過ぎる!!」


 激しい柔軟の末、酷使された体は動かないはずなのに、そのジンの言葉でミチルはマッハで中庭の端まで逃げた。


 ガサガサッ!


「ヒイィ!」


 逃げた先の垣根が、強く揺れる。

 人の気配を感じて、ミチルは結局ジンの側へ逆戻りする。


「どうした」


 ジンの影に隠れたミチルにではなく、揺れた垣根に向かってジンがそう言うと、ゆっくりと垣根の向こう側から少年達の頭が出てきた。

 朝見かけた少年ではない。また別の少年が数人。なんだかジンを恨めしそうに見つめている。


「あの、先生……午後のお稽古は……」


「済まないが、儂の稽古はしばらく休みだ。後で師範代達に指示しておくから、今日は各自でやっていろ」


「でも、もうすぐ大会があるんですよ!?」


 少年達は口々に不満を述べる。だが、ジンはどこ吹く風で冷たく言い放った。


「お前達の実力は既に水準に達している。そのまま自主練を続ければ大会などどうと言うことはない」


 え? それってなんか、すごく無責任じゃない? そんなんでいいの?

 ミチルが眉をひそめながらジンの対応を見ていると、垣根の向こうの少年達は一斉にミチルを睨んだ。


「──!」


 その視線は尋常ではなかった。

 教師が落ちこぼれに補習をするから授業が進まない、と言うような学生的な不満の眼差しではない。

 例えるなら、恋人を誰かに取られた嫉妬のような、情念の怒りが少年達の瞳に芽生えていた。


 深読みしたくないジェラシーを向けられたミチルは、慌てて少年達から目を逸らす。


「わかったら道場へ戻れ。やる気のないヤツは出て行っても構わん」


「わかりました……」


 そうして少年達はすごすごと中庭を後にした。

 ジンの態度はまるで独裁者かハーレムの王だ。

 ちょっと待って、今のなし! 独裁者! 独裁者一択で!


 ミチルは怖気に身震いするのをなんとか堪えて、ジンに恐る恐る聞く。


「あのぅ、オレも他のお弟子さんと一緒に道場で稽古を受ければいいのでは……?」


 大勢の中に紛れれば、稽古の厳しさが和らぐかもしれない。

 ミチルがそう言うと、ジンはえげつない目線でミチルを睨む。


「ああ!?」


「うひぃ!」


「シウレン、貴様の能力は特別なんだぞ。他の者と同一の稽古では、儂のメソッドは完成しない!」


「ふわわ……」


 シウレン、というのはジンがミチルにつけた「弟子ネーム」だ。

 その名で呼ばれる度に、ミチルはなんだか体中をくすぐられるような感覚がして、ジンの言うことに逆らえなくなってしまう。


「まったく、貴様と言うヤツは──」


「うわっ!」


 ジンが乱暴にミチルの腕を引く。両手首を掴み、ミチルを逆に背負うと、そのままジンは己の体を前に曲げた。


「ふぎゃああああ!」


 無理矢理の上体反らしに、ミチルはまたも汚い雄叫びを上げる。


「固い! 十代の少年ならもっと柔らかい肢体を目指せ! ××の××すら、柔らかくほぐすんだ!」


「やめろお! ど下ネタクソ師範がぁあ!」


 そうしてジンの中庭では午後いっぱい、汚い雄叫びと、耳が腐りそうなど下ネタの応酬が響き続けた。






「はあ、はあ……」


 日がたっぷり暮れてしまった。ミチルはヘトヘトだった。


「まったく、柔軟だけで今日が終わってしまうとは。たるんでいるぞ、シウレン。いや、結局弛まなかったな、××の××まで」


「だ、だからァ……下ネタはよせぇ……」


 ツッコむ気力も、今のミチルにはもうない。


「あの、先生……お食事の用意が出来ました」


 部屋の方から、遠慮がちに少年の声が聞こえた。朝食を持ってきた少年であった。

 そう言えば今日は昼食がなかった。朝が遅かったからか?

 だがミチルにはそんなことはどうでも良かった。疲れた上に、腹も究極に減っていたのだ。


「仕方ない、今日はここまでだ。飯にするぞ」


「はひぃ」


 部屋へ向かうジンの背中を、ミチルはヘロヘロの足腰を引きずってついて行った。





「きゃあああ! 白米ィイ! そんでもって、これ、生姜焼きィイ!?」


 なんて懐かしい食卓。そんな光景がミチルの目の前にある。

 陶器の茶碗に燦然と輝く白き米。茶色いおかずのスーパースター、豚肉の生姜焼き。

 あとは味噌汁があったら完璧だったが、実際は卵のスープだった。


「はっ! もしかして、このおかずはボクが朝言ったからですか!?」


「む……まあ、ぐ、偶然だ」


 照れながら視線を逸らすイケメン! ちょっと待って、色々吹っ飛んじゃう!

 だが、とりあえずミチルはドキドキを置いておいて、目の前の夕食に飛びついた。


「いただきまあす! ふわあああ! うめえええ!」


 白米と豚肉を交互に口に運ぶミチルに、ジンは静かに言った。


「食べ終わったら風呂に入って汗を流してこい」


「……ふが?」


「その後は、第二の汗を流させてやる。一晩中……な」


「ブヒー!!」


 その危機、まだあったの!?

お読みいただきありがとうございます

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