16 円環の援け
ティラノサウルス型ベスティアと化した、アーテル皇帝シャントリエリ。自我を有し、その巨体でイケメン達を一蹴……するはずだったが、第一の男と第二の男の共闘により苦戦を強いられる。
テン・イー最期の魔術でさらにパワーアップを遂げたシャントリエリは、人型ベスティアとなりその自我を消した。
破壊神・ベストリエリが降臨したのである。
「……」
何の表情もない。空虚なる黒い影に成り果てたベストリエリは、闇の波動をところ構わず撒き散らす。
チュドーン、ドシャーン、ゴワーンなどという破壊音がそこここから聞こえて、ミチル達は右往左往。
「ギャアアア! 何コレ、どうすんの、コレエ!?」
エーデルワイスとおてて繋いで逃げまどうミチルを、何故か破壊神は追いかけてくる。
奥底にミチルへの恋情でも残っているのだろうか。だとしたら、それは哀れな末路である。
「ミチル、手を離して逃げなさい! ここはワタシが食い止める!」
「バカァ、コノォ! どこの世界にじいちゃんを見捨てて逃げる孫がいるんじゃい!」
「ていうか、邪魔だ! 手が塞がっていては防御魔法もままならない!」
「ええーっ! じいちゃん、ヒドイッ!」
遠慮なく拒否られたミチルは、思わず手を離す。
エーデルワイスはミチルの前に立ち塞がって、破壊神からの攻撃を防ぐ魔防シールドを張った。
「ミチル、ワタシの後ろを動くな! こいつはお前を狙っている、ワタシ達が引きつけておいてカリシムス達に対処させよ!」
「ぷえっ」
そ、そんなこと言われても!?
こんなオレにどんな対処法が浮かぶって言うんだ!
ミチルはとりあえずイケメン達の方を見るが、皆一様に「マジ!?」みたいな顔をしていた。
「みんなの武器は使えなくなってるし……」
イケメン達が握っている武器達。以前はあんなに近くに感じていたのに、その蒼い力を手放した今はとても遠い。
「ああぁ……ッ!!」
「じいちゃん!?」
破壊神の攻撃が強くなった。立ち向かったエーデルワイスを敵と見定めて排除にシフトしたのだ。
どす黒い闇の波動を、エーデルワイスはその細腕で懸命に抑えているが、あまり長く持ちそうになかった。
「やっぱり……オレがもう一度みんなに武器を!」
「ダメだ、ミチル!!」
イケメン六人は声を揃えて叫んだ。
「ミチル、君はそこで見ていてくれ」
「そうだよ、ミチル。君はもう充分頑張った」
「オメー、ここからがおれの大魔法タイムだって知らねえな?」
「ふっ、儂の第三掌をお見舞いしてやろう」
「ぼくだって、戦えます!」
「我がこのような邪悪なモノに遅れをとるものか」
イケてる笑顔で自信満々に言うイケメン達。
だが、ミチルにはそれが強がりだとわかっている。好きな男達の事だから、ミチルには痛いほどわかってしまう。
彼らはミチルを生かすためなら、何でもすると。
「みんなぁ、待って! 置いてかないでえ!」
ミチルは懸命に叫んだ。
「オレは、この世界が好きなんだ!」
最初は何だこれ、ふざけんなって思ってた。
「ジェイ、アニー、エリオット、ジン、ルーク、チルクサンダー……みんながいるこの世界が大好きだ!」
異世界転移なんてほんとはしたくないって思ってた。
だけど。
みんなに出会ったから。
みんなに恋をしたから。
この世界も好きになれた。
オレはここを守りたい。
オレは。
「オレは世界を守って、みんなとうほうほ暮らすんだ!!」
──よくぞ言いました、ミチル・プルケリマ
突然、なんだか神々しい声が聞こえた。
「ふえっ!?」
ミチルは思わず天を仰ぎ見る。
空が光っていた。その光の中から、円を描き丸くなった二匹の蛇がゆっくりと下りてくる。
「な、なんじゃあ!?」
その強く、尊大な光に、破壊神の動きも皆の動きも止まった。
二匹の蛇はミチルの目の前まで下りてきて、柔らかい声で語りかける。
瞳も口も閉じているのに、その声は心の奥まで聞こえた。
「……私達は円環のヘビ」
「えんかん? 無限大マーク(∞)みたいになってるヘビが?」
円環のヘビは、二つの頭で代わる代わるに言葉を紡ぐ。
「六人のカリシムスに同等の愛を注ぐ」
「あなたこそ、カミのレプリカにふさわしい」
「「七つの子を統べるカミの代弁者にふさわしい」」
ヘビが口を揃えてそう言うと、ミチルの頭に光る白い羽で作られた冠が載せられる。
その羽は知ってる。
オレに何度もくしゃみをさせた羽たちだ……!
「地下におわすカミサマからの贈り物です」
「祈りなさい」
「与えなさい」
「あなたの最愛に、絆を宿しなさい」
何を言ってるのか、全然わかんないけど。
みんなを想って祈ればいいんだね!
ミチルはそのまま目を閉じた。
頭に乗った白い羽の冠は、ゆっくりと蒼く染まっていく。
蒼い、蒼い、強い光が六方に分かれてミチルの最愛達まで届いた。
イケメン達の左の薬指。それぞれに銀色の環が嵌められる。
ミチルの頭上にあった蒼い羽が一枚ずつ彼らの元へ向かい、その指輪に蒼い刻印を残した。
蒼い羽の冠はふわっと消えて、ミチルは目を開ける。
イケメン達に愛を与えるように、蒼い瞳が輝いていた。
「聖なる蒼き瞳……」
誰からともなく、その言葉が皆の口をつく。
それは、ミチルを讃える祝詞となった。
「剣が、蒼く輝いている……!」
ジェイは自分の大剣が「戻ってきた」事を知った。
「……やれる!」
蒼く光るナイフを持って、アニーは勝利を確信した。
「待たせたな! 超絶なのをぶっ飛ばしてやるぜえ!」
エリオットのセプターも蒼い輝きを増している。
「気が漲る……参るっ!」
蒼く光るバングルとともに、ジンも構えた。
「ワオオーン!」
ルークは蒼く輝く忠犬へと姿を変える。
「魔力が……溢れる……!」
チルクサンダーの長い黒髪は、蒼い魔力を帯びて生きているように舞い踊った。
「……ッ」
破壊神は、その何も見えない視界でも、六つの蒼き光が迫るのを知った。
「お前にミチルは渡さなーいッ!!」
六つの聖なる執着心が、蒼く輝いて黒い影を切り裂いた。
「──!!」
破壊神・ベストリエリは、黒い影である自身を散らす。
影が晴れた後には、シャントリエリのなきがらが残るだけだった。
ドサリ、と倒れる音は軽い。
そのなきがらも、じきに黒い霧となって散っていくのだろう。
「わ、我が君……無念」
テン・イーは膝を折り、苦悶の表情でその場に大量の血を吐いた。




