10 セクハラ親書は潰す!
舅(溺愛オジジ)VS婿(六人のイケメン)が勃発しそうになったが、強制終了せざるを得なくなってしまった。
何故なら、敵が攻めてきたのだ。しつこい……と言うか、懲りない……と言うか、早くない!?
しつこい、懲りない、早すぎる皇帝・シャントリエリの再襲来だ!
「攻め……て、来た?」
さすがに常識外れと見えて、法皇エーデルワイスは呆けながら首を捻る。
「その通りです、法皇さま! 軍隊を引き連れて、この大聖堂を取り囲んでいます。いつの間に……!」
「早過ぎないか?」
二の句が告げない法皇に代わって、軍属現役のジェイが顔をしかめて聞く。
「あのクソ皇帝、何しに帰ったんだよ。着替えて来ただけだってか?」
エリオットも舌打ちしながら、理解出来ないといった顔をしていた。
チルクサンダーとミチルを追って、アーテル帝国皇帝とテン・イーがここに来たのはつい一日と少し前。
テン・イーの転移術ですぐに帰ったとはいえ、軍隊を引き連れて再び来れるような時間ではない。
「どんな魔法を使ったのだ?」
ジンがチルクサンダーを振り返るが、眉をひそめて首を振る。
「……わからぬ。この世界の転移術では、そんなに大勢の人間やら軍馬やらを召喚するのは不可能だ」
カエルラ=プルーマにおける「転移術」とは召喚術の派生術であるが、と前置いてチルクサンダーは続ける。
「アーテル帝国軍をペルスピコーズに召喚するには、ペルスピコーズに内通者が数百人いなければならぬ。そんな事はあり得ないであろう?」
「も、もも、もちろんでございます! ですからもう、不気味で不気味で……!」
チルクサンダーの否定論を受けて、報告に来た僧正は真っ青で震えていた。
「でも、実際、シャントリエリ来た……」
ルークがそう呟くと、アニーは苦虫を噛み潰したような顔で心情を吐く。
「てえことは、テン・イーのヤローがなんかしたんだろうよ。クソめ」
「それで、何か要求などをして来たのか?」
ジェイがそう聞くと、僧正は震えながら書簡を懐から取り出した。
「こ、ここ、こちらが皇帝シャントリエリから法皇猊下への親書にございます……」
「何だと? 用意のいい事だ」
エーデルワイスは親書を受け取って、それを開いた。
ものすごい勢いで目線が文章を追っていく。見る見る間に、その表情は怒りに満ちていった。
「ふざけるなっ! なんだコレは!」
グッシャアと親書を握りつぶしてエーデルワイスは怒りに震えている。
ミチルはそおっとエーデルワイスの手のひらを緩めて、その親書を取った。
あの金髪ソフモヒが何を言って来たのか、ちゃんと知らないといけないと思ったからだ。
だが……
「う、読めない……」
異世界の文字がミチルに読める訳がなかった。
「えぇじいちゃん、なんて書いてあんの?」
「読めんでいい! 口にするのも汚らわしいわっ!」
「ええー?」
エーデルワイスがここまで怒るとは。
最初の印象では、飾り立てられただけの傀儡人形のようだったのに。
今は良くも悪くも、頑固ジジイになってしまった。
「貸せ、ミチル」
「エリオット、読める?」
「多分な。公文書ならおれが読むのが適任だろ」
言いながらエリオットは、親書に目を落とした。そして読みながら声に出し始める。
「えーっと、『そも、プルケリマとはカミが降臨させし唯一無二の救世主である。その身柄は世界全体が責を負うものであって、法皇猊下におかれてはプルケリマをその御許に留めおく事は越権行為である』……」
「……どゆこと?」
ミチルが聞くと、ジンが噛み砕いて教えてくれた。
「つまり、プルケリマ……シウレンの事だろうが、お前を法皇が独り占めしている事を責めているのだ」
「ええ? だって法皇がプルケリマってかセイソンを召喚するのにぃ?」
ミチルがそう漏らすと、僧正がおどおどとしながらも補足してくれた。
「あの……セイソン様を法皇さまが召喚しているのは極秘事項でして。法皇さまはカミのお告げを聞いてプルケリマ様を迎えるというていで各国に送り届けるのです」
「はあ、そうなんですか」
「カミサマが完全にお隠れになっている事は極秘中の極秘です。ですから、ペルスピコーズ以外では未だカミのご加護は続いている、と思われています」
「そおぉなんですかぁ……」
そういえば、スノードロップもカミサマに関しては希望を持っているような言い方をしていた。
カミサマは天に帰ってしまったけれど、地上にプルケリマを遣わすくらいはしてくれる、とまだカミサマが地上を見ていると信じている。
「続けるぞ……『ペルスピコーズ法皇はただちにプルケリマを解放し、新教チルクサンダー魔教の宗主であるアーテル皇帝に身柄を渡すべし。ペルスピコーズ教会は、永らくプルケリマを独占した罪を償うべく、チルクサンダー魔教に下るべし』……なんだこりゃあ!?」
エリオットはそこまで読んで素っ頓狂な声を上げる。
「ふむ。見事に前述と後述の因果関係がないな」
ジンも呆れていた。その後ろで、アニーがおバカながら本質をつく。
「なーんか、ペルスピコーズに代わってアーテルが世界を征服してやるぜ! って感じぃ?」
「その通りだッ!!」
エーデルワイスは杖をドゴーンと床に突いた。もちろん盛大に穴が空く。
一同はその気迫に言葉を失ってしまった。
「……『なお、プルケリマはアーテル帝国皇妃として即位し、アーテル皇帝との間に生まれし皇子は世界の救世主となる』……だ、と!?」
ご丁寧に最後の一文まで読んでしまったエリオットは、親書をグッチャグチャにしながら震え始めた。
「な……ん、だっ……て……?」
他のイケメン達も最後の一文に過剰反応を示す。
どんどろドロドロな黒雲が出そうな雰囲気になって来た。
「アイツ……まだ諦めてなかったんか」
ミチルは全身に怖気を感じる。ついにソフモヒ皇帝の野望がイケメン達に知られるところとなってしまった。
「ザケんなよぉ! 冗談じゃねえ!!」
「ミチル、シャントリエリになんか、渡さない!」
「むむう! 胸が燃え盛る!」
「公文書でセクハラしてくるヤツなんかロクなもんじゃない!」
「シウレンに〇付けなど、させてたまるカァア!」
「シャントリエリ、今度こそコロす!!」
六つの黒き嫉妬の炎が燃え上がった!
「セクハラモヒカン皇帝など、婿に迎える訳がなかろうがァアッ!!」
七つ目の舅の炎も燃え上がった!!
「全面戦争じゃああああ!!!」
少し落ち着けえ!




