6 六時間耐久イケメン座椅子
毎度毎度「我はカミの眷属、どやぁ」していたチルクサンダーだったが、この度、カリシムスになった事でその身分を捨て、魔力も相当減った模様。
そこに彼のアイデンティティがあると思っていたミチルは、大変な事をしてしまったと狼狽えた。
「ごごご、ごめんね、チルクサンダー! オレってば何という事をっ!」
あんなに強大だった魔力を格段に減じてしまったのだから、ミチルは大慌てで謝った。
しかし、当のチルクサンダーは首を傾げながら言う。
「何故謝る? 我はオマエと共にあると誓ったのだ。オマエと絆を結べるなら、カミの眷属などになんの未練があろう」
「で、でもさ……」
そんなにあっさり、あのものすげえ力捨てちゃって良かったの?
ミチルの心にモヤモヤが広がる。罪悪感もまだ消えない。
「我は嬉しいのだ。ミチルと同じ存在になれた。以前よりもオマエを近くに感じられるのだから……」
言いながら物理的にも距離を詰めてくるチルクサンダー。ミチルの頬に触れる手はとても温かい。
長身スーパーモデル級イケメンの笑顔の破壊力!
「チル、くぅ……ん♡」
ミチルの心臓(多分別次元にある)はドッキドキにときめいて大興奮!
さすがミチル。本当は虫の息なのに、それでもイケメンうほうほをやめないプルケリマの鏡である。
「なーんだ、それじゃあカミサマ級のすげえ魔法なんて、もう出せねえってことかぁ」
目の前でミチルといい雰囲気になんかさせない。
エリオットはわざとらしくそんな事を言って、二人の甘い空気に水を差す。
「……心配するな。それでも我が魔力はこの世界の人間などの比ではない。今のままでも法皇くらいなら余裕で捻り潰せるぞ」
「キーッ!!」
突っかかるエリオットと比べずに、法皇を引き合いに出してくるチルクサンダー。
エリオットごときは問題にもならないと言う事だ。意地悪発言に、小悪魔プリンスは癇癪を起こしていた。
「ミチルよ、チルクサンダーがこう言っているのだ。すでに過ぎた事。受け入れなさい」
勝手に引き合いに出されても無視してミチルを諭す、さすがの法皇である。
エリオットの色々な嫉妬は他四人のイケメンからも生ぬるい目で見られていた。
「……まあ、とりあえず今の時点で言っておくべき事柄はこれで全てだ。ワタシは術式の研究に入らせてもらおう」
エーデルワイスが踵を返して大聖堂に戻ろうとするのを、エリオットが呼び止める。
「あああ、おい! アルブスの魔術最高顧問がすでに三人分の青い石の分析を始めてるはずだ! 聞いてみろよ」
「スノードロップか? あの小僧の研究熱心さには感心する。ではアルブスに問い合わせてみよう」
「ふふん」
エーデルワイスに有益な情報を与えた事を無理やりドヤるエリオットだが、自身の手柄ではないので微妙であった。
そこはエリオット自身もわかっているので、大慌てで場の話題を変えようとする。
「そんじゃあ、おれ達はしばらく自由だよな!」
「そのはずだ」
ジンを始め、全員がそう頷いた。
「はふう……オレ、ちょっと疲れちゃった。どっか部屋で休みたいなあ」
さすがのミチルも気を張り続けていたし、そもそも魂が消耗しきっている。疲れているのは誰が見ても明白だ。
「当たり前じゃん、ミチルはゆーっくり休むといいよ」
「そうです、ミチル、ぼく達がうんと甘やかします」
アニーとルークはにこにこ笑っていた。
「む。みんなでミチルを甘やかすのだ」
「おい、我も当然数に入っているだろうな?」
ジェイとチルクサンダーも真面目な顔してノリノリである。
「うふふふ、保護者はしばらくいねえ。ミチルはおれ達のモノ♡」
「フッフ、親の居ぬ間に×××……♡」
エリオットとジンは涎でも垂らさんばかりにだらしなく笑っていた。
「えっ、エ、何、ナニするの!?」
やだあ、もしかして究極のハーレム6が始まっちゃう!?
総受けハーレムってずっと言ってきたけど、ついに実現しちゃう!?
ミチルの心臓(別次元にある方)はもつのだろうか……
♡ ♡ ♡
なんという事でしょう。
酒池肉林とはこの事ですか。
お酒は飲めないけれど、ミチルは今の自分の状態をこう形容するしかない。
ミチルとイケメン六人は専用の豪華な部屋でご馳走を堪能していた。
教会のくせに贅沢だな、と突っ込まざるを得ない。
セイソンとカリシムスへのもてなしなので大丈夫です、とご馳走を運んできた僧侶が言っていた。
まあ、いいか。作ってしまったものは食べなくては勿体無い。そんな感じで今にいたる。
「ミチルよ、次は何が食べたい?」
ミチルのすぐ後ろ、耳元でチルクサンダーのイケてるボイスが響く。
それだけで、なんかもう、ミチルはすぐに〇〇しちゃいそう。
「やあーん♡ えっとねえ、ジャム入りのクッキーかなあ♡」
ミチルはチルクサンダーの膝の上で、頬が緩みっぱなし。
クッキーを食べさせてもらってご満悦である。
「おい、一時間交代だからな! 次は俺だかんな」
アニーは時計をチルクサンダーに見せながら、そう主張した。
「わかっている、あと五分だな」
お分かりだろうか。
イケメン達は一時間ずつミチルを膝に乗せて甘やかすことにしたのだ。
ミチルは少なくとも六時間、イケメン座椅子でアバンチュールを満喫できる。
これが酒池肉林でなくて何だと言うの!
「ああ、ミチル交代の時間だ……」
チルクサンダーは名残惜しそうにミチルを抱きしめて、むっちゅっちゅ。
「ふあぁん♡」
すかさず次のアニー座椅子がミチルを乗せる。
「ミチルゥ、お待たせえ……♡」
「やだあ、アニーったらぁ、おててがチョメチョメよー」
ミチル、まさに、幸せの大絶頂。
「ああーん、ジェイってば、焦らないでえ」
「せんせえ、そんなのダメだよぉ」
「ルークぅ、ペロペロしたら食べられないよぉ」
「エリオット、それ、ちょっと早いよぉ」
ミチルは六時間耐久イケメン座椅子を楽しんだ!
なんて至福、これは夢かもしれない。いや、夢じゃない!
「うふ、うふ、うふふっ」
ミチルは笑いが止まらないっ!
六時間も戯れれば、疲れはピークに達する。
ミチルは最後に大きな欠伸をした。
「……うみゅう、眠い」
来ました、お楽しみ!
真夜中の添い寝イベントです!
しかし、ミチルの熟睡が何より大事なので♡♡♡は厳禁です!!
いつの間に作られていたのか、部屋には巨大な、七人が雑魚寝できるベッドも完備。
ミチルはふっかふかのベッドに身を沈めて、六人分の温もりとともに眠る。
「みんなぁ、おやすみぃ……大好きぃ♡」
部屋からは、一晩中イケメン達が苦悶に喘ぐ、地を這うような呻き声が響いていた。
彼らは必死に闘ったのだ、煩悩と! 睡眠〇、ダメ、絶対!
エーデルワイスの執務室では、預かっているウィンクルムが全てビッカビカに光っていた。
それは、大事な術式研究の妨げになったという……




