1 ミチルを繋ぎ止めた命
ああ……プルケリマ、我が愛を継ぐ者よ。
──だれ?
我が息子を……頼む。
──ド*ゴ*?
ソナタの最愛に……招いてくれて……
──あなたがカ***?
ありがとう……
◇ ◇ ◇
「──ぶわはぁ……ッ!?」
突然酸素が脳に回った感覚。
長いこと溺れていたようだった。
ミチルは咽せながら息を吹き返す。
「ゲエッホ、エホエホッ!」
涙で周りがよく見えない。咳ばかりで苦しい。
ミチルはまだその反動を落ち着かせるだけで精一杯だった。
「ミチルッ!!」
聞こえたのは六重奏。
ミチルの愛しい六人の声。
「あ、み、みんな……?」
何がどうしてこうなったんだろう。
ミチルは直前の記憶が定かではなかった。
見上げると、よく晴れた空。
なんか……黒い竜がどんよりどよどよ、バリバリゴッシャーンな印象があるけども。
今の空を見ると、それも収まったような気がする。誰が収めた? あ、オレか?
「ああ、ミチル……気分はどうだ?」
顔を近づけたのは、色白黒髪、角がないのでマジトップモデルみたいな容姿のチルクサンダー。
その表情は心配と不安に支配されて、彼の本来の尊大さが無かった。
「気分? んー、別に何とも……?」
改めて問われてミチルは自分の状態を考える。
溺れたような感覚はもうない。空は青いし、イケメン達はフルカラーで顔が良い。そこだけ確認できれば充分だ。
ミチルはゆっくりと体を起こす。特に痛いところも、怠いところもなかった。
「ミチル……」
「えぇちゃん?」
弱々しく杖を握る少年法皇。
その顔には少しの疲労と慈愛が浮かんでいた。
ミチルにはその姿が、いつもより身近になった感覚があった。
上手く説明できないけれど、エーデルワイスと繋がっているような感覚だ。
それが、ミチルに直感を授ける。
「えぇちゃんが……助けてくれたの?」
「わかるのか?」
意外そうな顔をするエーデルワイスに、ミチルは考えても出て来ない何かを思う。
「うーん、わかんないけど、なんかそんな気がする」
「そうか。では隠しても仕方がない」
「えっ、ナニ、何よ!?」
エーデルワイスの神妙な雰囲気に、ミチルは思わず狼狽えてしまった。
するとそれまで沈黙していたイケメン達が、堰を切ったように心情を語り出す。
「ちょっと、ちょっと、何が起こったんだよ!? 俺の頭じゃ追いつかないんだけど!」
「むむう、ミチルがいきなり倒れて、私も死ぬかと思った……っ」
「シウレンが目覚めたのは行幸だが、法皇が何かしたのは明白」
「ミチル、だいじょぶ!?」
「……とんでもねえ魔力量だったぞ、こんなの説明出来ねえヤツじゃん!」
ミチル同様に右往左往するイケメン達を、チルクサンダーが一喝する。
「落ち着け、者共。ミチルは今は大丈夫だ。何故なら、法皇と生命を共有しているからな」
「──エエエッ!?」
その短くまとめられた真実に、イケメン達もミチルものけ反って驚いた。
ていうか、それはどういう意味? 状態である。
「……やはり、其方にはわかってしまうか」
エーデルワイスの嘆息を、チルクサンダーは軽い一息で一蹴する。
「当たり前だ。我はカミの眷属ぞ、法皇のオマエよりもカミに近いのだ」
「それは先ほどまでの話だろう。其方はもはやカミに属する者ではないではないか」
「……えええっ! ちょっと、それもどういう事!?」
二人の口から次々にとんでもない情報が出て、ミチルはいっそう狼狽える。
ちょっと溺れている間に何が起こったんだ、状態であった。
「仕方ない、その辺も含めて順を追って説明してやろう……」
そうしてエーデルワイスはチルクサンダーを脇に置いて語り始める。
法皇の青空教室、第二回の開催となった。
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最終章は毎日一話20時に投稿します。
ノンストップで最後までよろしくお願いします!
11月27日(大安)に完結予定です。




