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21 ミチルのワガママなら聞いちゃう

 第六のイケメン。ミチルがそう称すれば、それはすなわち六人目のカリシムスが現れたことを意味する。

 ミチル個人で言えば、六股します宣言で恥をかけばいいだけ。だが、世界の理に準ずる法皇にとっては大事(おおごと)である。


「……六人目か」


 ところがエーデルワイスは目を閉じて深く溜息を吐き、ミチルの宣言を受け入れようとしていた。

 曽孫(ひまご)の言うことなので、もう諦めようという気持ちがエーデルワイスには生まれたのかもしれない。


 そして法皇よりも、ミチルの宣言が人生を揺るがす一大事である者が五人。




「ねえ、ちょっとデジャヴなんだけど……」

「ふうぅ……これではルークの時と同じではないか」

「胸が焦げる、ルークの比ではない……」

「皆さん、こんな気持ち、だったんですね」

「ミチルよぉ、カリシムス見つけ過ぎだろぉ……」




 意外にも五人は落ち着いていた。それは、他でもないミチル本人が宣言したことが大きい。

 ライバルが一人増えるのはとんでもないことだが、肝心のミチルの気持ちがイケメン達にとっては何よりも尊いのだ。


「ん? あれ?」


 羞恥にまみれる覚悟で。

 もっと言えば「何だとォ!」とか「許さん!」とかの叱責すらもミチルは覚悟して宣言した。

 イケメン達はいつもの調子で黙らせればいいが、エーデルワイスすらも怒らないのがミチルには予想外だった。


「あのー、チルくんが六人目ってことでいいんでしょうか……?」


 ミチルはおずおずとエーデルワイスに尋ねる。

 するとギロと睨みつつも、少年法皇の言葉は穏やかだった。


「良いも何も、其方がそう感じたのならそれが運命だ。ワタシはセイソンの望みは全て聞いてやらなければならない。一方的にこちらに召喚した事へのせめてもの処置である」


「え、そうなの? 償い的な?」


 ミチルが少しニヤついて聞くと、エーデルワイスは顔をしかめて苦々しげに言った。


「……そう取っても構わん。セイソンの機嫌を損ねたら世界が癒されないからな」


 つまりミチルは、カエルラ=プルーマであらゆるワガママが許される存在である。

 生まれ故郷をセイソンに捨てさせる罪はそれほどに重いと法皇は考えている。

 もっとも、それをあけすけに表したのはおそらくエーデルワイスが初めての例だ。今回のセイソンであるミチルが身を持って訴えたことも起因しているだろう。




「み、みんなは……?」


 続けてミチルはイケメン五人を振り返った。

 元より決定権は彼らにはないので、ミチルの側にいたければ新メンバーを受け入れるしかない。

 だが、彼らが法皇と違うところは、多少の「文句」が許される点である。


「……ミチルが望むなら」


 ジェイは血の涙を流して頷いた。


「ミチルってほんとに狡いよねえ……」


 アニーは歯茎から血を流して笑う。


「忘れるな、お前の×××を開発したのは儂だという事を……」


 ジンの鼻から血が垂れる。決してスケベ心からではない。


「ミチル……それでも、ぼくは、君のものです」


 ルークは拳を握り過ぎて、手のひらが鮮血に染まっていた。




「ミチルよぉ……」


 最後に、エリオットが重々しく口を開く。


「おれ達は、お前の気持ちに従うさ。ルークの時みたいにな。だけど、そいつ……チルクサンダーはまだ絆を結んでないんだろ?」


「うん……」


 チルクサンダーとはまだ絆の青い石(ウィンクルム)を生成していない。青い武器もまだ。

 それでも「第六のイケメン」だとミチルが感じたからには、この後起こるであろう事態を、エリオットは今度こそ告げなければならない。


「それは逆を返せば、近いうちにウィンクルムが生成されるような事態が起こるってことだ。ラーウスの革命の時もそうだったろ?」


「えっ……と、ルークがベスティアにされて、超巨大ベスティンクスが出てきて……みたいな?」


 ミチルは言われて、あの出来事を思い出した。ベスティンクスの方はイケメン達と頑張って倒したが、ルークがベスティアにされた時の、身も凍るような恐怖は二度と感じたくない。


「それがどんな……ヒドイ形で実現しても、おまえはそいつをカリシムスにするって言うんだな?」


「あ……」


 エリオットの厳しい視線がミチルを刺す。彼がただの嫉妬で言っている訳ではないことはわかっていた。

 ミチルはチルクサンダーを振り返って、あの時の恐怖と彼の姿を重ねる。

 もしもチルクサンダーに取り返しのつかないことが起きたら……


「ミチル。心配せずとも良い」


 しかし、当のチルクサンダーはケロっとして何でもない事のように言った。


「我はカミの眷属ぞ。ラーウスの件は我も見ていたが、そこの犬っころと我を同じと思うな」


「……ん」


 それでも戸惑いを拭えないミチルに、チルクサンダーは緩やかに笑って言った。


「ミチルよ、我は嬉しい。オマエを愛しいと思う、この気持ちは我の一方的なものであった。だが、オマエもまた我を愛しいと思うてくれた。それがどんな形でも、オマエの気持ちは尊いもの。オマエの結論に、我は従おう」


「ぷえ……っ」


 超絶イケメンからの極上スマイルに、ミチルが抗えるはずもない。

 その笑顔で全ての憂いは帳消しになってしまった。

 こうなると面白くないのはエリオットを筆頭に、先発のイケメン達。




「……そいつの言う通りにうまくいけばいいけどな」


 エリオットの不安は消えなかった。


「あれか……あれが、シウレンを虜にした笑顔か!」

「元祖・国民の彼氏は俺だから! 笑顔は俺の方が先だからァ!」

「やはり私は表情筋を鍛える必要が……」

「ぼくは、甘える方、頑張ります!」




 なんだかほのぼのとまとまってしまったが、エーデルワイスがボソリと杞憂を呟く。


「しかし、カミの眷属が降臨してカリシムスになるなど……可能なのか?」


「まあ、前例はなさそうだな」


 ジンもそう頷くと、エリオットもまた何かに気づいて言う。


「そうだな。カエルラ=プルーマに降臨するカミの眷属はプルケリマって相場が決まってるから……」


「じゃあ、もしかして、チルクサンダーさん、プルケリマですか!?」


 ルークの閃きに一同はギョッとしたが、エーデルワイスは落ち着いてそれを否定する。


「いや、当代のプルケリマはセイソンであるミチルだ。それは其方達の持つウィンクルムが証明している」


「……だとすると」


 エリオットの思考に追いついたジンが最後に疑問を述べた。


「カミの眷属、という前提が間違っている……?」



 

 ぶぅん……




 何か音がした。

 機械のモーター音のようなそれは、ミチルがついさっき体験したものだ。


「ミチル! 我の後ろへ!」


 チルクサンダーが先んじて素早くミチルを背に隠す。

 エーデルワイスも表情を一変させて、イケメン達に叫んだ。


「皆! 警戒せよ!」


 その言葉に、イケメン全員が立ち上がって各々の戦闘態勢をとる。


 空が縦に裂ける。その割れ目の長さは、背の高い人間ほど。

 それがアーモンド型に広がって、その向こうには真っ黒な空間が見えていた。




「やはり、追ってきたか……」


 ちっと舌打ちして、チルクサンダーは忌々しげにその割れた空を見上げていた。

 そこから出てきたのは、ローブの裾と僅かに見える足先。


「チルクサンダー様がペルスピコーズに転移するとは、なんとも皮肉……」


 馬鹿にしたような台詞を吐きながら、年老いた僧が現れた。


「テン・イー……ッ!」


 チルクサンダーが吐き捨てたその言葉に、真っ先に反応したのはアニーだった。


「テン・イーだと!?」


「動くな!」


 仇の名を聞いて飛び出しそうになったアニーを、エーデルワイスの危機迫る声が一喝する。

 その圧に、アニーはギクリと踏みとどまった。




「我が君の御前である。者ども(こうべ)を下げよ……」


 空の裂け目から数メートルはあるが、テン・イーはふわりと簡単に着地した。それから、裂け目そのものも降りてきて地面に接する。

 全ての準備が整った後、現れた人影にその場の誰もが息を呑んだ。


「余の妃よ、迎えに来たぞ」


 ニヤリと冷酷な笑みを浮かべてミチルだけを見ている人物。

 それが──


「金髪ソフモヒ皇帝!」


 ミチルはその姿に、背筋がゾッとした。




「金髪?」

「ソフモヒ?」

「何だそれは」

「ていうか、皇帝?」

「シャントリエリ!?」




 しつこい男は嫌われますよ!

 てか、もう嫌われてるけどねっ!





お読みいただきありがとうございます

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