18 帰還
ああ……
ほんわり明るい。
それから温かい。
春の木漏れ日のような優しさに包まれて、ミチルはとても眠かった。
このままお昼寝するのも悪くない……
だって、なんだか疲れちゃった……
チル……チル……
ううん、違うよ。オレはミチル……
「……チル、ミチル!」
「ふあ?」
ミチルは、呼ばれて目を開ける。
青い空、ぽかぽかな陽の光。それらを背負って超絶イケメンが自分を見つめていた。
「ああ、良かった。気がついたのだな……」
ダークサイド担当イケメン、孤独なヴィラン・チルクサンダーが安堵の笑みを浮かべていた。
「ほやあ……♡」
やだあ、イケメンに土ドンされてるぅ。
ミチルは脳天気にうほうほしかけたが、危うい過去の出来事がフラッシュバックする。
「ふおぉ……ッ! あっぶねえ!」
ついさっきまで、史上最大のぱっくんちょ危機があった事を思い出した。
「ソフモヒ皇帝はっ!? 黒幕坊主は……?」
慌てて起き上がり、辺りを見回す。
ミチルの目には、あの薄暗くてイヤラシイ寝室の景色は見えなかった。
代わりに、草が生い茂る庭のような長閑なロケーション。すぐ目の前に超イケメン。
「ミチル……」
「んひぃ! 近いっ!」
唇が触れそうな距離に、チルクサンダーのイケてる顔がミチルを見つめている。
とても愛おしそうに、恋するオトコの眼差しで。
「ここはもう、アーテル帝国ではないようだ」
「えっ、そうなの?」
超接近したまま、チルクサンダーはミチルに囁いた。イケメンの吐息は甘い。
「ミチルが、その意思で転移してくれたのだ」
「オ、オレが?」
必死だったからよく覚えてないけれど。
逃げようと思うよりも、帰りたいと思った。
イケメン達の所に還りたい、と。
「それじゃあ、ここは……」
ミチルはもっと場所の情報を得ようと、視線を周りに向けた。
が、チルクサンダーにがしっと頬を掴まれて視線を己に強制ロックオン。
「その前にミチル。あの皇帝とは、何も無かった……のだな?」
「ぷえっ!? ああ、うん、そうねえ……とりあえずは無事、かなあ……?」
何も無かったとは言えないかもしれない。体のあっちこっちを撫で回されてキッスされまくった。
辛うじて♡♡♡が無事というだけである。
しかし、チルクサンダーが烈火の如く怒った様を既に見ていたミチルは、正直に説明出来なかった。
思い出したくもないから、自然と目を逸らして言葉を濁す。
「ああ、ミチル。よくぞ耐えた……」
「うん、そうそう。耐えた耐えた、へへ、へへへ……」
「安心しろ、すぐに我が清めてやろう……」
言いながらチルクサンダーの唇が寄せられる。
あの暗黒異空間でぶっちゅう♡はされたけれど、これは趣が全然違う。
愛を与え、確かめるような……熱いキッスが……♡
ピカピカッ
……スン
「あああ! 股間の光が消えたっ!」
すんでの所で、ミチルの意識は己の下半身に向けられた。
ソコはチルクサンダーに対して蒼く瞬いた後、スンと静まり返っている。
「……効力が切れたか」
お清めキッスが出来なかったチルクサンダーもまた、少し不貞腐れてミチルの下半身を見やる。
「効力?」
ミチルが首を傾げると、チルクサンダーは覆い被さっていた体勢を止めて起き上がる。
ムードが霧散してしまったので、一旦諦めたようだ。
「おそらく、誰かがオマエに対して防御結界を張っていたのだろう。少し触るぞ」
チルクサンダーの手がミチルの股間にかざされる。ミチルは思わず叫んだ。
「ヤメロォ! オレのおち〇〇〇を触るナァ!!」
「ム、好きで触るのではない。魔力の残滓から発動者を辿ろうとしたのだ」
心外だと言うように、チルクサンダーは眉をひそめていた。
だがしかし、どんな理由があろうと、たとえ第六のイケメンと言えども守って欲しい節度がある。
「ソコ以外でぇ! ソコはまだダメェ!!」
「仕方ない。では内腿を開け」
「えええ……」
何コレ。どんな状況?
内腿を開いて、イケメンがオレの〇〇部ギリギリを撫でる。
♡♡♡を守った意味わい。ど変態じゃん、こんなの。
「ふむ……」
「ああん……♡」
撫で撫でするの長くない?
ミチルは自然とイヤンな声が漏れてしまった。
そしてようやく手を離して、チルクサンダーは考えながら言う。
「そうだな。オマエを深く愛する念……というか、呪いに近いな。反応は五つ。こんな事が出来るのはカリシムスくらいだ」
「のろ……い!? アイツらァ……!」
チルクサンダーが確かめずとも、ミチルにも犯人の目星はついている。
呪いとは穏やかじゃないし、若干キモい。
しかし最大の危機から守ってくれたので、怒るに怒れない。ミチルの胸中は複雑だ。
ていうか、結界を張るならもっと適切な場所があったのでは!?
直接的過ぎる、やっぱりキモい!!
「オマエに対してここまで重い情念を向ける者が五人……厄介だ」
ホラァ、カミサマの眷属も引いてるじゃん。
ミチルはやっぱり後でイケメンどもを叱ろうと考える。
だいぶいつもの調子を取り戻してきたミチルの目の前に、突然人影が現れた。
それはもう、いきなり。テレポーテーションですかってくらいに、いきなりだ。
「ミチルッ!!」
「ギャー! って、えぇちゃん!?」
青ざめて、息を弾ませて、ミチルの目の前に現れたのは法皇であるエーデルワイス。
「ミッ、ミチル、ミチル!?」
少年の見た目に見合う動揺を彼は見せていた。
下半身を露出して、魔族風の男に触られているのだから無理もない。
しかし、どうもエーデルワイスはそこに動揺している訳ではなさそうだった。
「え、えぇちゃん、落ち着いて! ってか、やっぱここはペルスピコーズなんだね?」
「ああ、そうだ……」
ミチルの普段通りに近い声の調子で、エーデルワイスはその場に膝をつく。安心して力が抜けたような顔で、彼は笑った。
「良かった……」
杖を支えに、ミチルの無事を喜ぶ姿。
そんな慈愛に満ちた様子は初めて見た。
「えぇちゃん……」
ひいじいちゃん。ミチルの心に自然とその言葉が湧く。
その顔は、幼い頃に写真で見た曽祖父の雰囲気にそっくりだったからだ。
「「「「「ミチルーーーーー!!!!!」」」」」
エーデルワイスの様子にほのぼのしている暇もなく、大地を駆ける大きな足音と共に、空まで響く五重奏がやって来る。
「みんなぁ!」
焦がれたその五影に、ミチルは思わずぶわっと涙が溢れた。
ああ……好き。
大好き。会いたかった。
土と雑草を撒き散らして駆けてくるイケメン五人は、ミチルの姿を見るなりガチッと固まった。
「「「「「…………………………」」」」」
「ん? どした?」
早く抱きついてきてよ。
そんでオレを揉みくちゃにして欲しい。
ミチルのだいぶヤバエロい希望は叶えられることはなく。
「な、なに……?」
ミチルは己の今の格好を、イケメン達に会えた喜びですっかり忘れていた。
上着のボタンなどが外れ。
下半身はおパンツ一丁状態。足首にはぐっちゃぐちゃのズボン。
……まあ、衣服の乱れは仕方がないとして。
内腿開いてM字開脚。
その間♡に侵入している見知らぬ黒い男。
「ミチルゥウウウァアア!?」
「ミチル、なんて事、ぼくがいないばっかりに!」
「むむむむぅうううう……ッ!!」
「MN5!!」
「シウレーン! どエロが過ぎるぞ、シウレぇえーン!!」
次の瞬間、嫉妬に咽ぶ男達からどす黒いモノが大噴射。
揃って狙いを定めたのは、もちろんイケメン魔族。
「ほう……面白い……」
チルクサンダーはニヤリと笑って立ち上がった。
「ヒトの分際で、我に戦いを挑むとは……」
五つの暗黒嫉妬メンズ VS 漆黒の魔族メン
「異世界転移なんてしたくないのにくしゃみが止まらないっ!」は、バトル小説ではありませんっ!
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