16 蒼き守護
カリシムスの資格については明確な基準はない。
カリシムスはプルケリマが選ぶものである。
法皇によって召喚されたセイソンは、プルケリマの代替として危機に瀕している国へと派遣される。そこであらかじめ国から選ばれていた若者から、セイソンがピンと来た者がカリシムスに選出される事が多い。
しかし、記録には候補とされなかった者がカリシムスになった例もある。
結局、カリシムスはプルケリマ(セイソンも含む)次第で誰でもなり得る可能性があるという事だ。
今回はセイソンたるミチルがピンと来た者、ジェイ・アニー・エリオット・ジン・ルークのイケメン五人がカリシムスとして選定されている。その証拠は青い石──ウィンクルムが生成されている事。五人はそれを持っているため、れっきとしたカリシムスと呼べる。
ミチルから見れば、ウホウホしちゃった果てに特大ベスティアを一緒に倒したイケメン達がカリシムスだ。
目の前のハンサム皇帝にはウホウホもしないし、ベスティアを倒してもいない。初対面から押し倒してセクハラ三昧をした挙句、盛大な下ネタでミチルの耳を汚したコイツに、カリシムスを名乗れるはずがない!
「ううう、ウソつけぇ! おまーには何も感じねえぞぉ!」
実に自信たっぷりに「余もカリシムスだ」と言われてしまったため、一瞬フリーズしたミチルだったが、慌てて首を振って否定する。
ミチルは気づいていないが、誰をカリシムスとするかの決定権はミチルにしかない。
つまり、ミチルが「違う」と言えば、その者はカリシムスにはなれないのである。
「そうか。それは残念だ。だが、余はカリシムスだ」
「……はぁあ?」
それでも譲らないシャントリエリの様子に、ミチルは顔を歪めてさらに首を捻る。
何言ってんの、この人?
話が通じないんだけど!
身を起こし、すっかりぶちゃいくになったミチルから視線を外して、シャントリエリは脇机に手を伸ばす。
この隙に逃げられないかとミチルは思ったが、脱がされたズボンが足元で絡まったままだ。すぐにそこから何かを掴んで、シャントリエリが再びミチルに迫って来たので、ズボンを履き直して駆け出す余裕はなかった。
軽い鎖のようなものを握った拳の中から、ミチルの目の前にぶら下げて見せたのはペンダントトップだった。
それはよく磨かれた宝石で、仄かに青く光っているように見えた。その光にミチルの心がざわつく。言いようのない不安感も芽生え始めた。
この石には何かある。そう思った。
「これは、余のコレクションのひとつだ」
言いながらシャントリエリは笑う。得意げに語る顔はハンサムだけれど、嫌な感じだとミチルは眉をひそめる。
コレクションだなんて何かを見せびらかす人種はそもそも好きではない。
「……何なんだよ、コレ」
それでも心がざわついたからには、目の前のモノの正体を確かめなければならない。
ミチルがしかめた顔のままで聞くと、シャントリエリはやはり得意げに語り出した。
「これはな、以前のカリシムスが所有していたプルケリマとの絆の証。古ウィンクルムだ」
「そっ、そんなのが残ってんの!?」
ミチルの頭にはどこかのホストアサシンのせいで「デスティニー・ストーン」で定着している例の青い石だ。言われてみれば、イケメン五人がそれぞれに持っている石と同質の気配を感じる気もする。
「これだけではない。あちらの棚にもまだウィンクルムと思われる石を、余は多数持っている」
シャントリエリがチラと目線をやって顎で示した先に、小さな棚があった。ミチルに中を窺うことは出来ないが、言われてみるとそこにも心がザワザワするような何かがあるような気がした。
「余の部下は世界中を飛び回るのが得意でな。これらは全て部下が余のために集めたものだ」
「な、何のため……に?」
今までにプルケリマ及びセイソンが何度カエルラ=プルーマに降臨したかミチルは知らないが、伝説化するほどに古い時代もあるだろう。そんな遺物を探すなど尋常ではない。手段もそうだが、並大抵の情熱では成し得ない事のように思えた。
そこまで考えると目の前のハンサム皇帝の執念に圧倒される。いったいどんな思いがそこにあるのかと、ミチルはそれを問わずにはいられなかった。
「余がカリシムスと成るため、だ」
「ええ……?」
シャントリエリの答えは一貫していた。この皇帝のプルケリマとカリシムスへの執着は確かに強い。だが、ミチルが感じた情熱とも言えるような「執念」とは違和感があった。
ミチルが知りたい答えをシャントリエリは持っていない。では誰が?
「カリシムスたる証が絆石。カリシムスはそれを持つ者。であるならば──」
だがミチルの思考はそこで途切れる。再びシャントリエリの体重がのしかかってきたからだ。
「……!」
別の方向に奪われていた意識をシャントリエリに戻した時には遅かった。ミチルの頬を撫でながら、セクハラソフモヒ皇帝は嗤う。
「青い石を持つ者もまたカリシムスである。余のように……な」
「そ! そんな屁理屈……ッ」
馬鹿げた論理だ。ミチルはシャントリエリにときめいていない。だから彼には資格がない。
それなのに、過去の絆を所有しているからと言ってカリシムスを名乗られてはたまらない。
しかし、シャントリエリは確かな自信と情欲でもってミチルに再び触れた。
「やっ……!」
「余はここにある多くの古ウィンクルムの前で、お前を抱く」
「いや……ァッ!」
肌を這う手が、ミチルの全てを支配しようとしていた。
「ふっ、存分に感じさせてやるぞ。そうすれば、余は真にカリシムスと成るのだ……」
「ヤダヤダァ! パンツは許してぇえ!」
シャントリエリの右手がとうとうソコに伸びる。
「良い反応だ……」
「だめぇ! 触らないでえ……っ」
金髪ソフモヒは伊達ではない。皇帝のはだけた胸や肩は筋肉もりもり。
ザ・雄、と言わんばかりのカラダがミチルを手に入れようと熱くなっている。
「あ……っ」
漏れたミチルの声に、シャントリエリは身を震わせて喜んだ。
「可愛いな……」
悔しくて悔しくて涙が出る。
まだ誰も触れたことのない、ミチルの秘密。
こんなヤツに許してしまうなんて。
「みんなぁ……」
ジェイ
アニー
エリオット
ジン
ルーク
「助けてェッ!!」
プルケリマはカリシムスのもの。
ミチルはオレ達のもの。
許さない……
ミチルは、渡さない……
「ウアァ……ッ!」
突如、蒼い光がシャントリエリの体を弾き飛ばした。
「ほ、ほえっ!?」
ミチル呆然。パンツは無事!
「きええええっ!?」
そんでもってパンツごと股間が蒼く輝いていた!!
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