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7 増えた枝の先

 ミチルは異世界カエルラ=プルーマにおいて、セイソンとしての役目がある。それは、今はもう現れないプルケリマの代わりとして、カリシムスという人間の英雄と契り世界を救うこと。

 そこに至るまで、魔性だとか間者だとか聖人だとか散々言われてきた。そんな不安定な身の上が、つい最近ペルスピコーズ法皇によって明らかにされた。ショックを受けたけれど、大好きなイケメン達のおかげでミチルはそれを遂に受け入れたのだ。


 だからね。オレはセイソンとしての役目を全うしたいと、一応思っているんです。

 それなのに、何ですか、この悪魔イケメンは。

 オレに、そんなのしなくていいから我のものになれ、と言う。

 いい加減にしてもらえませんかね!?




「ふざけるなよぉ、偉そうにぃい!」


 オレがこの決心をするために、どんだけの【あはーん♡】や【いやーん♡】を体験してきたと思ってる!

 間違えた、どんだけの苦労と苦難と苦渋の選択をしたと思ってる!!


 ミチルはこれまでの辛くもエロ……ラブい異世界経験を、全て無にされたようで憤慨した。

 ミチルの事だけではない。ジェイの、アニーの、エリオットの、ジンの、ルークのこれまでを知らないで、よくもそんなことが言えたものだ。


「おまーにオレ達の何がわかるって言うんだ!」


 怒りに任せたミチルはチルクサンダーを指差してかみついた。

 だが、チルクサンダーはしれっと冷静に答える。


「全てわかっているぞ。オマエの事は逐一夢に見て知っていると言ったろう」


「ああっ! そうだった……ってそうじゃねえよ!」


「何がだ?」


 チルクサンダーはいわゆる「カミサマ視点」でミチルの全てを見張っていたようなものだ。だから、チルクサンダーは全知の気分でミチルに接している。カミサマの眷属なのだから、その考え方は仕方ないのかもしれない。

 だが、ミチルはそれにはまだ納得がいっていなかった。


「チルクサンダーは確かにカミサマの仲間なんだろう、それはわかった! オレたちの事も夢で見て何があったか知ってる、それもいい! でもさ、その時オレたちが()()()()()()まで知ってるって言うの!?」


「……どういう意味だ?」


「だ・か・ら・ッ!」


 カミの眷属のくせに察しが悪いなコイツは!

 ミチルは怒りついでにチルクサンダーの胸元にグーパンチを当てて訴えた。


「オレたちの『事実』を知ってても『感情』まで知ってんのかって言ってんの! 事件は現場で起こってんだ、会議室にいるおまーには事実がわかっても『真実』はわかるわけないッ!!」


「ふむ……」


 ミチルの剣幕に怯むことは当然なく、当たったグーパンチを痛がるわけもなく、チルクサンダーは顎に手を当てて少し考える。



 

「確かに、我はオマエが本当は()()想っているのかはわからぬ……」


「でしょぉ? そうでしょう!」


 そんなのはオレだってまだわかんないけどね!

 だがミチルはその事は棚に上げておいた。


「オマエの言うイケメン達が、本当はオマエとどうなりたいのか、どうしたいのか……と言うのも知らぬな」


「当たり前だよ、そんなの大っぴらに言ったりしないもん!」


 もしわかってたら知りたかったかもしんない!

 だがミチルはその事も棚に上げておいた。


「しかし、知らないからと言ってそれがどうだと言うのだ?」


「エッ!?」


 てっきり察してくれると思っていたミチルは驚いてチルクサンダーを見上げる。

 察しが悪いとか言う次元ではなかった。やはりコイツは世間知らずだ。


「我がオマエを召し上げるのに、オマエたちの感情を知る必要が?」


 あ、

 あ、


「あったりまえだろォオオ!!」


 ミチルの怒号が異次元空間にコダマする。やはりこの空間は音が鳴り響く不思議空間、とかはこの際どうでもいい。

 チルクサンダーの言葉は世間知らずでも片付けられない。全知なるカミサマ視点を持った悪魔の所業!


「召し上げます、はいそうですか……ってなるワケないだろぉ! オレにまず是非を問えぇえ!!」


「何っ? まさか、オマエは嫌なのか?」


「えっ……」


 イヤに決まってんだろ! とここで言えたらどんなにスッキリするか。だがミチルは言葉に詰まってしまった。チルクサンダーの事は何故か嫌ではない。むしろやぶさかではない。イケメンたちと同様のうほうほ感情を確かに感じる。


 困った。

 チルクサンダーもすでに「選択肢」に入ってしまっている……?


 ミチルは自分の気持ちがまた枝分かれしていたのを悟った。




「どうなのだ、ミチル?」


「う、うう……」


 ミチルは言葉が出てこない。チルクサンダーを拒否できない自分に戸惑う。


「我が、嫌……か?」


 恐る恐る顔を窺う、不安そうなイケメンの憂い!


「にゃーッ!!」


 アンニュイな表情が、服装とともにバッチリ映えてサイコーなんですけど!

 ミチルは顔を赤らめて、しどろもどろでもどうにか答えようとした。


「あ、あのね、嫌とかではない……って言うかぁ……もうちょっと考えさせて欲しい……って言うかぁ……」


「うむ」


 意外にもチルクサンダーはミチルが考えをまとめるのを待ってくれていた。

 ミチルはそんな彼を目の当たりにして、懸命に心を整理しようとする。


「でもね、オレは世界を救いたいと思うのね、イケメンたちの事も放っておけないし……でも、チルクサンダーがここにいる事も何とかしたいって思うしぃ……」


 だって、みんな違って、みんな良い。

 ミチルにとってはチルクサンダー含むイケメンの誰もが大切だ。

 もう、五股が六股になったところで誤差の範囲じゃない?




「なるほど、わかったぞミチル」


「ふえ?」


 全然まとまらない内に、チルクサンダーはミチルの手を取って少し晴れやかな顔で言った。


「感情が大事だとオマエが言ったことだ。我は今、オマエが悩むその感情がとても尊く思える」


「う……ん?」


「我は、オマエの気持ちを蔑ろにしていたのだな」


「お、おお……」


 急に物分かりが良くなったチルクサンダーに、ミチルは別の意味でも戸惑った。


「決めたぞ、ミチル」


「な、何を……?」


 チルクサンダーは真紅の瞳を煌めかせ、立ち上がって宣言した。



 

「我はオマエを召し上げる。だがその前に、オマエの気持ちが知りたい。オマエの心を捕らえている他のイケメンとやらにも会ってみたい」


 チルクサンダーは劇場で俳優が台詞を言うような、大仰な雰囲気でその決意を述べた。


「ああ、そうだとも! 確かに我はオマエたちの表面しか知らぬ。ならば知ろう、オマエたちと実際触れ合って確かめよう。そうした後に、必ずやオマエに我を選ばせる!」



 

「え、えー……っと」


 やっぱり自称カミサマの眷属は決断が早すぎる。行動力もあり過ぎるとミチルは悟った。


「そうと決まればこんな空間に長居は無用! ミチル、オマエのいた所まで案内(あない)せい!」


「ハ、ハアァア!?」


 そんなの一体、どうやって!? ていうか勝手に決めないでよ!!




お読みいただきありがとうございます

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