3 時空を超えるキッス
カミサマの眷属を名乗る、見た目が悪魔イケメンのチルクサンダー。
彼こそがミチルをこの真っ黒異空間に呼び寄せた張本人だった。
そして何故か、もうすでに。
そのイケメンに迫られている!
超絶イケメンと超展開。ミチルの心臓は超爆発。
「ああ……見れば見るほど、愛しさが込み上げる」
「おおお、おいおい、待て待て待て」
ずずいと迫るイケメンに、ミチルはゆっくり押し倒された。
何故か体はまふっとした柔らかいところに着地する。そう、ベッドのように。
何もない真っ暗闇のはずなのに、とんだ都合のいい空間だ。
そんな事を考える間もなく、チルクサンダーはミチルの唇を指で弄ぶ。
「ミチルよ、カリシムスなぞより、カミの眷属である我の伴侶になれ……」
「ふいぃ……っ!」
大変です。お口をふにふにされながら、意味わからん空間でぱっくんちょ危機。
こんなトコでそんなコトしたら、アレとかソレとかはどうなるんでしょう?
「ああ……そそる表情だ」
チルクサンダーはミチルの目を真っ直ぐ捉える。
真紅に燃える瞳の光が、ミチルの心の奥底にまで侵入していくような不思議な感覚……
「──うん?」
いやーん♡で、あははーん♡な事をしてくるかと思いきや、チルクサンダーはミチルの両目をまじまじと見つめ始めた。
「ふぐぐ……っ!」
大きな右手でミチルの顎と頬をまとめて掴んで、じいっと何かを探るように見続ける。
どれくらいの時間が経ったのだろう……とか考えてみるが、おそらく数秒だとミチルは知っている。
だが、この真っ暗闇空間では時間の感覚が全くなく、チルクサンダーの紅い瞳に見つめられていると時空がひん曲がるような錯覚を起こしそうだった。
「……ミチル。オマエ、魂がとても薄くなっている」
「ええ?」
顔から手を離し、真面目な顔でそんな事を言われて、ミチルはサッと血の気が引いた。
「マ、マジ? そんなことある?」
ミチルの常識にはない事だが、ここは異世界ファンタジーな世界。魂云々を、ましてや自称カミサマの眷属だなんて人に言われたら、ミチルは信じざるを得ない。
「よく眠くなったり、気絶したりせぬか?」
そう聞かれてミチルは最近を振り返る。
つい最近だと、イケメンとそれはもう♡♡で♡♡な雰囲気のまま♡♡になりそうな所で眠くなった。
ルークに♡♡されそうになった時、もっと遡ってジンに♡♡されまくりそうになった時も。
もーっと遡るとだいたい♡♡な事が起きると、なんだかよくわからないうちに気を失う事、多数。
なんという不憫な癖……! とか思っていた。もったいない……! とも。
だが、ミチルはそれ以上の事は想像しなかった。この癖のおかげで、今までぱっくんちょ危機を乗り越えてきたのは確かなのだから。
「そう言われると、そうかもしんないけど……」
ミチルが恐る恐る答えると、チルクサンダーは真面目な顔のままで見下ろして言う。
「それは、魂が削れている証拠だ。ウィンクルムを五つも作ったせいだろう」
「え……?」
ウィンクルムと言うと、アニーがデスティニー・ストーンだと言って喜んでいる、例の青い石のこと。特殊なベスティアを倒した後に出来ているから、ミチルはベスティア関係の何かだと思っていた。
だが、エーデルワイスも言っていたように、ウィンクルムはプルケリマが生成するカリシムスとの絆の証。
プルケリマ=レプリカ、すなわちセイソンのミチルはイケメンそれぞれに合計五つ生成した事になる。
「カリシムスを五人も持つプルケリマなど聞いたことがない。通常の一人であれば問題ないが、五人はやり過ぎだ」
「ほえ……」
ミチルには事の重大さがまだよくわかっていなかった。
「このままでは、オマエ、死ぬぞ」
「ほええええっ!?」
チルクサンダーの言葉に、ミチルは心臓が吹っ飛びそうなほど驚く。
今まで貞操の危機は何度もあったけれども、生命の危機はイケメン達が強かったおかげで感じたことがなかった。
ああ……それって、かなり幸せなことだったのでは?
ミチルは改めて今までの出来事を振り返る。
オレはずうっとイケメン達に守られてきた。
そんなオレがこのままだと死ぬ? もう、皆に会えなくなる?
「……ッ!」
ゾオォッと、血の気が大いに引いた。
目の前がいっそう暗くなる。こんなにも怖い事があったなんて。ベスティアなんて可愛いもんだ。
「……しかたがない」
青ざめて固まってしまったミチルに、チルクサンダーは再び覆い被さった。
知ってた? ずっとやや押し倒されていたんだよ。
そんな体勢のまま真面目な話をしていたのだが、ついに超絶悪魔イケメンが本気を出す。
「ふえっ」
何が起こったのか、ミチルが知覚する暇もなく。
ぶっちゅうぅう……♡
「ふむっ!」
ミチルのお口に、濃厚なキッスがぶちかまされた!
ぶっちゅうぅう、ちゅうう……うぅ♡♡
時空を超えた場所でのキッスは一瞬にも、永遠にも感じられた。
ミチルの体感イメージは五分。そんな濃厚なキッスは生きてきた中でした事がない。
「──むはっ!」
やっとの事で解放されたミチルはまず大きく息を吸った。
五分間息を止めていた訳ではないだろうが、とにかく酸欠だった。
「……ふう」
やっとの事でミチルから退いたチルクサンダーは、なんだかとても満足そうだった!
「お、おまー! おまー、なんてことしてくれたんだあああ!?」
アタイの嫁ぎ先はもう決まってんのよ!
嫁入り前のアタイにとんでもない事してくれたわね!
ミチルの脳裏に走馬灯が。イケメン五人の顔がクルクル回る。
みんな……ごめんッ!
「我の気力を分けてやった。応急処置程度だが、ないよりはいいだろう」
しかし、ミチルの唇を(濃厚に)奪ったチルクサンダーは涼しい顔でそんな事を言う。
「あれ? ちょっと頭スッキリした?」
言われてミチルは心の中にかかっていた靄が晴れたような気がした。
頭もなんだか爽快な感じがする。
「ふむ。気力の受け渡しは成功だ。やはりオマエは我の伴侶にふさわしい」
ミチルの状態を見たチルクサンダーは不敵にニヤリと笑った。
「意味がわからない……!」
死ぬかもと言われてからの、濃厚ディープなキッス。
頭はスッキリ。体もちょっと軽い。
なんで、コイツ、こんな事が出来るの?
カミサマの眷属だからという理由だけではない気がする。
ミチルはチルクサンダーが自分にとって何なのかを考え始めていた。
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