2 オスを感じたい
ミチルが召喚されたのは、よくわからない真っ暗闇の空間。
その中にたった一人で存在し、その姿をさらした悪魔。
うほうほするほどの、超絶イケメンだった。
「チルクサンダーって、アータ!」
悪魔が名乗った名前にミチルは全力で突っ込んだ。
チルクサンダーと聞いたらミチル的にはあの真っ黒な敵、チルクサンダー魔教しか浮かばない。
彼?の言葉を鵜呑みにすれば、見た目の魔王感も相まって魔教の教祖的な存在だと思うしかなかった。
「ウソでしょ? アータみたいな超絶イケメンがチルクサンダー魔教の元締めなの?」
「……馬鹿を言うな。あの教会は我を冠して勝手にやっているのだ」
「そうなの? じゃあ、チルクサンダー魔教とは無関係?」
聞きながらミチルは「そんなバカな」と思っている。
上から下まで真っ黒の装束に、ご丁寧にマントまでつけて、片方だけど角だってつけちゃって。
そんな人?の名前がチルクサンダーだって言うのなら関係がないとは言わせない。
「無関係……ではない。だが、あやつらがすでに我の意向を無視しているのは確かである」
「ど、どゆこと?」
ミチルが聞くと、チルクサンダーはふうと息を吐いて改まった口調で言った。
「我はカミの眷属チルクサンダー。それ以上でも以下でもない。下賎な人間の首領になって、羽虫如きを争わせる趣味は持ち合わせておらぬ」
「ほほー……?」
わかったような、わからんような。
ミチルは首を大きく傾げて、目の前の超絶イケメンにまず何を聞くべきか考えた。
「ええっとさ、それじゃあアータはチルクサンダー魔教会の悪事には関係がないってこと?」
ミチルがそう聞くと、チルクサンダーは興味なさそうな様子でボソリと呟く。
「ふん、羽虫が羽虫を侵したとてたいした事ではない。我には関係がない」
「その羽虫にとっちゃあ、一大事なんですケド……」
ミチルはその先を言いかけて止めた。
目の前の超絶イケメンは自分のことを「カミの眷属」だと言った。ミチルを召喚する力があったり、こんな意味のわからない空間にいたりしているので、その言葉にはなかなか信憑性がある。
仮に「カミサマ的」な存在だったら人間のする事なんて、アリンコの諍いだ。それは彼もそう言っている。
そんな視点を持っている、ハナから立ち位置が違う存在に、「チルクサンダー魔教は悪! オレ達はそれを倒すために頑張ってるのに!」と説いた所で無駄かもしれない。
「ミチルよ、苦しうない。我のことはチルクサンダーと呼ぶがいい」
細かい事をミチルが考えていると、その態度が恐縮していると捉えたのか、チルクサンダーは少し表情を緩めて言った。
「はあ、わかりました」
「様、も要らぬぞ。オマエは特別に許す」
「ど、どうも……」
やべえ、最初から呼び捨てるつもりだった。ミチルは少し冷や汗をかく。
無宗教が当たり前の文化で育ったミチルには、神様それも異世界のカミサマを敬う気持ちが全然ない。
だって神様の名前なんてゲームでいっぱい出てくるもん! ゲームは呼び捨てだもーん!
「それで、チルクサンダーはそんなにイケメンなのに、どうして一人でここにいるの?」
遠慮なくミチルが問うと、チルクサンダーは眉をしかめて苦々しげに答えた。
「……全くもって度し難いことだが、我はこの空間に幽閉されているのだ」
「え!」
「我をここで飼い殺しにしておいて、チルクサンダー魔教は我を利用しながら崇めている」
そこまで聞いただけだったが、ミチルはすでにチルクサンダー魔教憎しのため、その境遇に憤慨する。
「何てこった! 世界の宝にもなり得る超絶イケメンが誰にも知られず幽閉されてるなんてっ!」
チルクサンダー魔教会は、人生のほとんどを損してますよ!
ミチルは拳を握ってそう主張した。
「……さっきからオマエが言う、イケメンとは何なのだ?」
勝手にヒートアップするミチルの熱を冷ますように、チルクサンダーから冷静な問いかけがあった。
「えっ? イケメンはイケメンだけど、イケてるメンズ……メンズだよね?」
どう見ても美青年だが、カミサマに性別ってあるのだろうか。ミチルは思わずそんな事を聞いてしまった。
しかし、チルクサンダーはますます眉をひそめている。
「だから、メンズとは何だ」
「男、ですか?」
「性別を問うなら我は雄だ」
オスときた! オスって言った!
やだあ、オスみがすごぉい♡ ……みたいにしか使わないのに!
でも男だって! 雌雄同体とか、両性具有とか言われなくて良かった!
オレのイケメンセンサーは正しかった。イケメンセンサーって何?
「ふむ。つまりオマエは我の事を『魅力的な雄』だと褒め称えているのだな?」
「ま、まあ……そんな感じです」
思わぬ「オス」という語感にミチルがうっかり興奮していると、その隙をついてチルクサンダーがずいとミチルに近寄る。
あれっ! でかい! ジェイより身長ない?
仰々しい衣装のせいでチルクサンダーの圧はすごかった。ミチルに詰め寄る様は、完全に体格差BLの典型に見える。
「フフッ、なんだ、それならそうとハッキリ言えばいいものを」
「いや、言ってるけどね! 通じなかったのはそっちだよね?」
チルクサンダーはニヤリと笑ってミチルのアゴを指先で持ち上げた。
力が強くて、アゴごと体が浮くかと思う。
「つまり、オマエは我の雄を感じたいと言うのだな」
「うん?」
「せっかちで大胆なレプリカだ。だが、悪くない。我もオマエを見ていると込み上げるものがある……」
「ちょ、ちょちょちょ、ちょまー?」
ミチルは一気に青ざめた。
これはもしかしてヤバくないですか? 異次元ぱっくんちょの予感がします!
体格差&人外&異種族……てんこ盛りなBL展開が来ちゃうんじゃない!?
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