10 何よりも大切なミチル
教会って質素なイメージだったけど、意外に贅沢な感じなんだな。
ミチルはあてがわれた部屋に入って少し驚いた。
好きに使っていいと言われたこの部屋。まず、かなり広い。ミチルのかつての自室の三倍はある。
絨毯が敷かれ、お姫様が使うみたいな調度品の数々。タンスやら机やらが少し乙女チックで照れる。
奥にはクローゼットがあり、部屋着やら衣服やらもいくつかあった。
ミチルは今着ている反乱時の堅苦しい花嫁さん衣装を脱いで、簡素な部屋着に着替えた。
袖なしシャツと、もこもこした短パン。ミチルにはちょうど地球でギャルが着るカワイイ部屋着に見えた。
完全に女前提で用意してるじゃん、とミチルはまたもエーデルワイスにイライラする。
そんな気持ちのままにやたらとでかいベッドにダイブした。クイーンサイズかキングサイズかはわからないが、エリオットやルークの部屋にあったベッドの豪華さと遜色がない。
布団も枕も純白でふっかふか。ミチルはこのベッドでもう二時間もうだうだしている。
いつからだろう。
地球に戻りたいと思わなくなったのは。
オレはこの世界の住人じゃない。だからいずれ帰るのが自然な事だと思ってた。
だけどイケメン達の隣が心地よくて、愛おしくて、離れられない。
許されるなら、こんなオレでも望んでくれるなら。
みんなの側にこれからもいたい。そう思うのに時間はかからなかった。
オレ……このまま……側にいてもいいの？
そんな風に殊勝に、オトメチックに耽っていたかったのに、現実はどうだ。
オマエハ スデニ コノセカイノモノ
モドルコトナド ソウテイサレテイナイ
「くそがぁああ！！」
ミチルはイライラそのままに叫んだ。
「ムカつくぅううぁあああ！！」
淡々とオレの運命を最初から決めていた法皇への怒りが止まらない。
「どチクショォがああぁあ！！」
コンコンコンッ！
部屋のドアがまたノックされる。
ミチルは思わずビクッと震えた。さっきから何度も無視してしまった。エーデルワイスだったら殴りそうだったからだ。
だが、今のノック音は焦っているように聞こえた。
「ミチルッ！ 大丈夫なの！？」
「おい、ミチル！ おれじゃあるまいし、引きこもってんじゃねえぞ！」
「ミチル！ 早まる、ダメです！」
「ミチル、頼むから開けてくれ！」
「ええい、どけ！ シウレン、開けるぞッ！！」
口々に言うイケメン達の声が聞こえた。
たった二時間離れただけなのに、愛おしくて涙が出る。
「ミチル［シウレン］ーーーーッ！！！！！」
イケメン五人が大音声を上げて部屋の中に雪崩れこむ！
「お、おお……」
ミチルはベッドの上で、イケメン達が潰れていくのを見守ってしまった。
「ごめんね、心配かけて」
ミチルはイケメン達が無事に起き上がるのを待って、心配していたであろう彼らの剣幕を思い出し、しゅんとうなだれた。
しかしながら、今の彼らにミチルの反省はまだ届かない。
何故なら。今のミチルの服装。
無防備としか言いようがない姿に、あらゆる所が大興奮である。
「ちょっと待ってよ、あんなに生足出してるなんて聞いてないけど！？」
「それよりも、ワキが丸見えなのがヤベエだろ！」
「生きてて良かった……」
「むむ、これが萌えるということか」
ヒソヒソやっている四人を差し置いて、一人動いた者がいた。
「ミチル、部屋着、可愛いね」
ルークは邪気のない笑顔で、実に自然にミチルの隣に腰かけてみせた。
先を越された他四人はギリリ歯ぎしり。
「うん……これしか寛げそうなのがなくって」
どう見ても女物の部屋着に溜息ついたミチルに、ルークはまた笑う。
「特に、かぼちゃパンツ、可愛い」
「かっ、かぼちゃパンツ……！」
なるほど、そうとも言える。もっこもこの素材がよくわからない短パンだとは思ったけれど。
そんな幼児みたいな格好、バブみがあるね♡ で済ませていいはずがない。恥ずかしい。
「ミチル、ぼくはミチルがここにいてくれて嬉しいです」
ルークはそっとミチルの手を取って言う。温かい手のひらが、ミチルの心まで温めるようだった。
「だってミチルは、『帰れない』って知る前に『帰らない』って決めてくれた、でしょ？」
「ルーくん……」
優しいルークはオレが何に傷ついているのか、ちゃんとわかってくれていた。
同じように大いに頷いている四人を見たら、また涙が滲んでくる。
「オレ……みんなの側にいたいんだ……」
絞り出すようにそう言うと、今度はエリオットの手が重ねられた。とても温かい。
まるでお姫様に跪くみたいに、エリオットは優しく綺麗な瞳で言う。
「バカだな、ミチル。そんな事はわかってんだよ」
「エリオット……」
小悪魔プリンスは、いつもの悪戯っ子のような笑顔で笑った。
「お前は、おれ達の側にいるしかねえんだ。使命とか宿命とか、んな難しいこと考えるな」
「うん……」
エリオットの頼もしくて生意気な態度。だけどそれがとても安心する。
「ああ、シウレン、儂の可愛いシウレンよ……」
「先生……」
少し仰々しい声で、ジンがミチルの逆隣に座った。頬を撫でる指先が、温かい。
「お前はどこにも行かせない。我らの側で笑っていておくれ」
「んん……」
ミチルの唇をふにふにと触る指先には、愛情が溢れている。とても気持ちがいい。
「ミチル」
その声の方を向けば、輝く笑顔のアニーがいた。
「君が、俺たちの中心にいてくれるだけで、俺たちはどんなことでも出来るんだよ」
「アニー……」
初めて出会った頃のままの優しい声で言われると、もうミチルの涙腺は緩んでしまった。
ポロポロと涙が溢れる。だけど、それはとても熱い。これが、みんなへの気持ち。
「ああ、泣かないで。でも君の涙はとても綺麗だ」
歯が浮くような台詞も、アニーが言えばストンと胸に落ちていく。
「ミチル、私は君のためにここにいる」
「ジェイ……」
ぽんこつナイトはいつものように、シンプルに言った。
「君に降りかかる困難から守り、全てを斬り払おう」
そうだね、ジェイだったら本当にやっちゃうんだろうな。
「私は君の盾、私は君の剣、そして……君に忠誠を誓う者」
ありがとう。
一番最初に出会ったのがジェイだったから、この世界を好きになれた。
ああ、なんだかふわふわする。
とてもキモチがイイ……
「みんなぁ……オレ、変かも……」
ミチルは急に体の力が入らなくて、瞼も重たくなった。
「すごく気持ちよくて、すごく眠たい……」
「シウレン、少し休むといい」
ジンがベッドの場所を空けて、優しく手を引いた。
ミチルは誘われるままに、体重をふかふかのベッドに沈める。
「今まで、よく頑張ったな……」
ジンの口付けが右頬に降りた。
温かくて、柔らかくて、気持ちいい。ミチルは目を閉じる。もう力は入らない。
「ミチル、大好き……」
ルークの唇が左頬に落ちる。
この上ない優しさで、ミチルの心は満たされていく。
「ミチルのことは、おれがうんと甘やかしてやる……」
エリオットはミチルの首筋をちゅっと吸い上げた。
ぞく、とした感覚がミチルに甘い痺れを与えていく。
「ミチル……今度は君がいい夢を」
アニーの吐息が額に熱くかかる。
微熱を与えるように撫でる唇に、ミチルの頭は蕩けてしまいそう。
「ミチル」
最後にジェイがミチルの手を取った。
「君のために生きると、ここに誓う」
甲に落とされたキスは、永遠に消えない証を刻んだ。
みんな……大好き……
それでも、いいんだね……？
五人の懐の中、蒼い輝きが灯る。
愛を受けて眠るミチルに、五人はそれぞれの心を与えた。
ミチル
何よりも大切なミチル
愛してる
ー このお話は共通ルート（基本）です ー
次からはこのお話に差し替え可能な、イケメン個別ルートがあります。
お好きなイケメンとのプロポーズイベントをお楽しみください。
お読みいただきありがとうございます
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