閑話–ルーク 穢れなき愛、美しい人
待っていたんだ、ぼくのプルクラ。
「ミチル、です……」
ぼくをヒトに戻してくれたプルクラ。
ミチルはその姿も、流す涙も美しかった。
君がきっとぼくの運命の人。
ぼくは君に一目惚れ、しました。
プルクラ、天から降りてくる美しい人。
父さんのプルクラは、母さんだった。
ぼくにも、ぼくだけのプルクラが来てくれるって思ってた。
それがミチル。
カエルラ=プルーマではない世界から降りてきた、プルクラ。
何より、ぼくの「狂化」を治してくれたのだから、ミチル以外にプルクラはいない。
ああ、ぼくはついに巡り会えたんだ。ぼくだけのプルクラに。
だけど、ミチルにはすでに「イケメン」という男性が四人いた。
コイビト? って聞いたらミチルは「違う」って言ったけど。
「違う」って言うミチルの顔は「そうだよ」って言ってるみたいで、ぼくは悲しくなった。
ミチル、ぼくはそのイケメンの中に入れるかな。
ぼくもその中で、ミチルに選んでもらうこと、できるかな。
選ばれたい。
ミチルに、ぼくを選んで欲しい。
ミチルがぼくのプルクラだから。
チルクサンダー魔教会。随分久しぶりに来た。
ミチルはずっとここを怖がっている。
正直言えば、ぼくも怖い。
だけど、ぼくの呪いがついに消えると言った。
ミチルと出会ったおかげ。ぼくは嬉しい。
ミチルはずっと様子がおかしかった。
呪いを解く儀式が不安なのかもしれない。
それとも、もっと別の理由が……?
ミチルの不安は、ぼくの不安。
明日の儀式も、もしかしたらいいものじゃないかもしれない。
そんなことを考えていたら兄さんが助けに来てくれた。
兄さん、相変わらず破天荒。
教会はメチャクチャ。ミチルもメチャクチャ怖がっている。
大丈夫だよ、ミチル。兄さんはぼくに危険なこと、しない。
ミチルにも危険なこと、させないから。
ぼくが守るから。
兄さんが帰った後、ぼくは母さんのことをミチルに話した。
ミチルは一生懸命、話を聞いてくれた。
ありがとう、ミチル。
ミチルはやっぱりぼくのプルクラ。
ぼくはもう待てない。
今すぐ、ミチルが欲しい。
ぼくのプルクラ……なってくれる?
◇ ◇ ◇
父さんを交えて、ミチルのこれまでをもう一度聞いた。
ミチル、とてもすごい冒険をいくつも乗り越えていた。
その側には、ぼくじゃない「イケメン」がいた。
「ベスティアは、オレがやらなくちゃいけない敵だ。そのベスティアを帝国が操っているのか、調べたいんです」
そう言うミチルは、とても強くて凛々しい。
ミチルの気高さは、彼らとともに築かれたんだ。
ぼくの知らないところで。
「ルーク、ずっと言えなくてごめんね。えっと……今の話、どう思った?」
ミチルはまず、ぼくを気にかけてくれた。
無知でちっぽけなぼくを、尊重してくれた。
ミチルはぼくのことも大切に思ってくれる。
この場では一番に考えてくれた。
そんなミチルの言うこと、間違いであるはずがない。
ぼくは、ミチルの全てを信じます。
◇ ◇ ◇
ミチルの言う「イケメン達」が現れた。
みんな輝くような男性で、自信にあふれてる。
何より、ミチルへの愛にあふれてる。
ミチル、とても嬉しそう。
やっと会えた仲間だものね。
昨日までのぼくなら、ヤキモチ妬いてた。
だけど、ミチルがイケメン達に告げた言葉でぼくは目が覚めた。
「みんなの事は、オレが絶対守るから。だからみんなもオレを信じて欲しい」
まっすぐな視線と心。
それがミチルの美しさ。
ミチルは、彼らと一緒にいながら美しくなった。
それなら、ミチルはぼくといても美しくなる?
ぼくはそうだったらいい、と思う。
だから、コドモっぽいヤキモチは妬かない。
ぼくはまず、この人達と対等にならなければ。
それだけでなく。
ミチルに勇気をあげられるような存在になりたい。
ミチルがイケメン達と反乱に参加するって決めたみたいに。
「わかった……」
ミチルが立ち上がった。
「それでいいなら、オレも反乱に参加する」
蒼い決意を携えて。
ミチル、すごいね。
ジェイさんも、アニーさんも、エリオット王子様も、ジンさんも。皆、ミチルについていく。
ぼくも同じ。ぼくも、ミチルについていく。絶対に側から離れない。
ぼくは、ミチルの盾になる。
◇ ◇ ◇
ミチルに誓ったあの夜のことは忘れない。
頭からは消えてしまったとしても、心が覚えている。
いつか、これがミチルを守る証になると、ぼくは信じてる。
反乱決行の日がやってきた。
ミチルの衣装は、美しくて、眩しくて、とても清らかだった。
誰にもミチルは汚させない。ぼくは強く決意する。
ぼくが矢面に立つことで、ミチルの神性が際立つ。兄さんが出発前にそう言った。
「俺様が始めちまったことだから、身内の親父とお前にも頑張ってもらうぜ」と言われて、ぼくは嬉しかった。
兄さんが今度はぼくを置いていかなかったことが、嬉しかった。
ミチル達と兄さんの利害は一致したものだったかもしれない。
それでも、ミチルを危険に巻き込んだのはぼく達だ。
だからぼくは命にかえてもミチルだけは守る。
ミチル。なんて尊い存在。
君がぼくの愛。君がぼくの全て。
その気高い瞳を携えて、ぼくに手を差し伸べる。
ぼくはその手を迷わずとろう。
だけど……
突然、暗闇に落とされた。
ぼんぼろぼーん……
どこ?
ぼんぼろぼーん……
何も見えない。
ぼんぼろぼーん……
ミチル、どこ?
真っ暗だ。
とても、寒い。
それから苦しい。
息を吸おうとしても、吐こうとしても、何もない。
暗い、寒い、痛い、苦しい、それから、とても悲しい。
ミチル。
ミチル、どこ?
ミチル。
ぼくの愛。
ミチル。
ぼくの光。
ミチル。
君の手が見えない。
ぼくは、一人になってしまったの?
ミチルはもういない?
もう、ミチルに会えない?
ミチル。
嫌だ。
ミチル。
会いたい。
ミチル。
この手で、抱きしめたい。
ミチル。
ミチル。
ミチル……ッ!
「ルークゥ!!」
──ミチル?
「一緒に行こう!」
ああ、ミチル。そこにいたの。
「ずっと、一緒だよ……」
うん、ずっと一緒。
『こんなちっぽけなオレでも、キミの光になれるなら。
いつだってキミを抱きしめるよ』
ありがとう。
ミチルはぼくのホコリ。
大好き……
「やっちゃいなさい! 忠犬ルーク!」
ミチルの言葉でぼくは生まれ変わる。
君の瞳の中、蒼い炎がぼくに勇気を与えてくれた。
命令して! あいつを、倒せって……!
「ルーク、セット!」
体が軽い。
目の前の敵から目は逸らさない。
「ゴーーーーッ!!」
ああ、ぼくは、自由だ。
ミチル、君の命令は何でも聞いてあげる。
ぼくは戦う!
君のために!
「ワオオオオーン……!」
ぼくは君の、ワンコ。
君だけに忠誠を誓う。
「ルークゥ!」
その胸でぼくを迎えて。
「ミチル!」
ぼくのホコリ、今、行きます。
ミチル、愛しています。
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