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閑話–エリオット おれだけの温もり、誰にも渡さない




 おれのことなんて、皆どうでもいいんだろ。




「皆」の中にはおれ自身も入ってる。

 時を止められて、誰からも忘れられて。俺はこのまま死んでいく。

 籠の鳥なんて上等なもんじゃない、ゴミ箱の虫だ。


 だけどそれが自業自得だっておれにもわかってる。

 体は年を取らないけれど、心は少しずつでも成長する。

 それがわからないほど、おれはもうコドモじゃなかった。



 

「お前、誰?」


 その夜、ついにそれを心底実感する事が起こった。

 おれの寝所に知らない少年がいたんだ。


 そいつはとても細くて、変な服を着て、ガタガタ震えてた。

 だけど、恐怖に怯える顔がメチャクチャ可愛かった。


 あ、そう。そういうことかよ、父上。

 素行不良で人質として婿にもやれないおれに、世継ぎなんて不要。

 おれには何の意味もない、得体の知れない少年と不毛な欲望を満たせばいい。


 ついにそこまで来たんだな。お終いだよ、おれも父上も。

 せめてもの償いに、おれ好みの顔の伽を寄越したってか。いいかげんにしろ!


「バカァ! バカァ! 皆、大っ嫌いだあぁあ!」


 こうなったらもう徹底的に暴れてやる! どうにでもなれ!

 そんなおれをこいつはギュッて抱きしめたんだ。


「あのさ、何をそんなに怒ってるの? 言ってごらん! 聞いてあげるから」


 ちょっと説教くさかったけど、こいつの言葉はあったかかった。

 抱きしめてくれた体もあったかくて、柔らかかった。


 伽で来てたこいつの名前はミチル。

 ミチル、ミチル。すげー可愛い。

 おれはもうこの瞬間に、ミチルが気に入ってた。

 絶対におれのものにしようと思った。


「僕はエリィ! 喜べ、ミチル! 今からお前は僕の筆頭愛妾だ!」


 おれがこいつを溺愛したら、父上の仕返しにもなるかな?




 ……と思ったら、ミチルは父上が寄越した伽なんかじゃなかった。

 こことは違う世界、チキュウっていう別の世界から来たらしい。


 言われてみれば当たり前。

 世界はカエルラ=プルーマただひとつ、なんて誰が決めた?

 他にも別世界があるとかは、まともな学者なら言わないけれど、与太話なら少しある。

 そしておれはその与太話が嫌いじゃない。

 ミチルを見ていると、そんな可能性もあるかと思えてしまうのが不思議だった。


 だって変な服着てるし。

 ちょっと他では見ないくらいカワイイし。

 何よりおれに気を使ったりしなかった。

 そんなヤツ、この城の中にいるわけない。


 ミチルという名前が、あのチル一族と関係があるかは謎だけど。

 このおれにチル一族がやって来るわけないと、その思考はすぐ捨てた。


 ウツギは煩かったけど、なんとかミチルを側に置くことを認めさせた。

 伽でも、異世界人でも、チル一族でも何でもいい。ミチルはおれの側から離さない。

 もう決めたんだ。


 本当はこのままヤッてやろうかと思ったけど、おれの体は貧弱な15のまま。

 こんなんじゃ、ミチルは満足しないだろ?

 だから抱きしめて寝るだけで我慢する。


 ミチルはほんとにあったかい……




 ◇ ◇ ◇




 抱きついたまま眠ったけど、すごく気持ち良かった。

 これ以上の事をしたら、どんだけ気持ち良いんだ?

 おれはそんな興味がむくむく湧いてきた。


 ミチルの上着の中に手を入れてみる。

 あったかくて柔らかい。それから細い腰周りがなんとも言えない。


「あん、くすぐったい……」


 おいおい、なんてエッチな声を出すんだ。

 そんな声されたらおれだって興奮しちゃう。中身は25歳なんだから。


「あっ……」


 お腹を撫でられて悶えるミチル。ますます興奮する。

 寝たフリしてれば、下も触れるんじゃね?


 おれはドキドキしながらミチルのズボンをちょっとずり下げた。


「ほぎゃあああ!!」


 チッ。やっぱりダメだったか。


「寝惚けてんじゃねえぞ! このエロガキがぁ!」


 すげえ暴言吐くじゃん。逆に興奮する。

 でも、よく見たらミチルは涙目だった。だから今朝はこれで許してやった。




 朝食を食べた後、ミチルの世界のことを聞いた。

 テレビ、ゲーム、ラノベ……どれも初めて聞く言葉だ。

 ミチルのいた世界、おれも行ってみたい。


 だけど、そんなワクワクはすぐ打ち消された。

 ミチルにはすでにもうオトコが二人もいるって事を知る。

 しかも、そいつらを探したいから城から出たいと言う。


 許せない。ミチルはおれのものだ。

 そいつらには絶対会わせない。

 おれと会う前に、ミチルはそいつらとヤッたのか?

 絶対聞きたくない、マジ許さない。


 わかった。ミチルはオトコを誘惑して生気を吸う魔性なんだ。

 次はおれをターゲットにしただけだったんだ。

 そんなに可愛い顔で、道理でエッチな声が出るはずだ。


 やっぱりおれには誰もいない。

 ミチルだっておれじゃなくてもいいんだ。

 もういいよ! ミチルのバカッ!


 バチコーン!


 ……え?

 おれ、今、殴られた?

 ミチルが殴った、おれを?


「ご、ごごご、ごめん!」


 そんですぐ謝った?

 ミチルの行動は意味がわからなかった。


 だけど、ミチルが怒ったのはおれのため。

 なんとなくそれは伝わった。


 謝ったのは、ただおれがミチルより年下だから。

 ……ほんとは違うのに。




 ミチルは、「おれ」に正面から向き合ってくれている。

 おれはそれが嬉しかった。


 だからミチルがおれを怒ってくれるのは嬉しい。

 ミチルが言うなら、父上にも謝ろうかなって気持ちになれた。


 けど、おれだけそんな気持ちになってもダメだったんだ。

 父上におれの謝罪は受け入れてもらえなかった。

 ミチルがいれば何でも出来るって思ったけど、現実はそうじゃなかった。


 ミチルは慰めてくれるけど、それも年下扱いでキツい。

 それでも、ミチルがいてくれたらおれは何度でも挑戦しようって気になった。




 忘れてた。今夜は新月だ。

 楽しみだな、ミチル。




「……誰!?」


 新月の晩だけ年齢相応の体に戻れるおれを見て、ミチルはひどく驚いていた。


「……おれが誰だかわからない?」


 ミチルなら、わかってくれるよな?


「エ、エリィ……?」


 やっぱり、おれにはミチルしかいない。

 全てを話しても、ミチルはおれを受け入れてくれる。



 

 ミチルが泣いた。

 おれが泣かした。


 思いの外、ミチルが細くて小さいから。

 すごく可愛い声を漏らすから。

 おれは欲情が溢れ出てしまった。


 ごめん、ミチル。もう無理矢理なんてしない。

 おれに背を向けて泣くミチルは誇り高くてカッコよかった。


 ミチルがこんな風になってるのは全部おれのせいだっていう事に、ゾクゾクした。

 ああもう、おれはどうやったってミチルから離れられない。




 ◇ ◇ ◇




「親には親の人生がある! 子どもが知ってることなんてほんの一部だよ、親の人生を勝手に語るなんて子どもでもやっちゃいけないよ! そんなこともわかんないなら、お前はまだエリィで充分だ!」


 おれを遠慮なく叱るミチル。


「エリィがこういう考えになったのは親の責任だかんな! エリィの子どもっぽい癇癪を魔法で抑えつけて十年もほっとくなんて、父親失格だぞ!」


 おれのために、父上にも怒ってくれたミチル。


「よくも親子の和解を邪魔してくれたなあ! お前なんか、この小悪魔ギャル男プリンスとモブ学生が木っ端微塵にしてやらあ!」


 ベスティアになったウツギにさえ、強気でメンチを切るミチル。

 そんなカッコいい人間、お前だけだよ、ミチル。



 

「倒せ! エリオット!」


 ミチルがそう望むなら。

 おれは何でも叶えてやる。だっておれは王子だから。


 クサくて笑っちゃうけどさ。

 おれはお前だけのオウジサマだから。




 15歳のエリィ()

 25歳のエリオット(おれ)


 そんなのミチルにとってはどっちでもいいんだな。


 僕は僕。

 おれはおれ。


 ミチルの目に映っている姿が「おれ」なんだ。

 ミチルだけが、おれの「本当」を知ってる。

 おれはミチルを通して「本当のおれ」を知る。


 だからさ、お前はおれの側にいなくちゃならない。

 誰にも渡さない。




 お前はおれのものだ。




お読みいただきありがとうございます

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