6 カリシムス五人
ミチルは法皇がこの世界に呼んだセイソンだった!
その使命は、急増する影の魔物ベスティアの討伐!
うん、知ってる!!
「……どうしたのだ?」
予想通りの展開だったため、ダレてしまったミチルとイケメン達。その様子を少年法皇エーデルワイスは不思議そうに見ていた。
「えぇちゃあん……それはすでにオレ達の目的だよぉ」
「オマエ法皇のくせに、おれ達がここまで何やってたか知らねえのか?」
エリオットは呆れて、芝生の上で横になり頬杖をついていた。
それでエーデルワイスは顔をしかめて反論めいた事を言う。
「む。それなのだが、セイソン召喚はペルスピコーズ大聖堂で行うものでな、本来ならセイソンはまず召喚主のワタシの元に降臨するはずだった」
「え、まじ?」
ミチルは驚いて起き上がった。エーデルワイスは頷きながら続ける。
「元々はカエルレウムでベスティアが増大していると報告されたのが発端でな。死者も増えているし、他国にも影響が出そうだったため今回のセイソン召喚が計画された。セイソンを召喚した後、ワタシが直々にカエルレウムに送り届けるつもりだった」
「ふええ……!?」
セイソンって元々そんな過保護にされるものなの? ミチルは驚きが止まらない。
「ところがだ、儀式は成功したようなのにセイソンの姿がない。其方は召喚してすぐに行方不明になってしまったのだ」
「法皇チビがヘタこいたんだろ」
呆れる姿勢を崩さずにエリオットが言う。二百歳を越えているらしいが、見た目が十四歳の少年ではそう思われるのも仕方ないかもしれない。
「……原因は調査中だ。ワタシはすぐにカエルレウムに問い合わせた。だが、セイソンたる人物の痕跡は見つけられなかった」
「なるほど。確かにミチルがカエルレウムに滞在したのは二日ばかりだからな……」
「その後すぐ、大陸越えてルブルムの俺の所に来ちゃったもんね、ミチルは♡」
ジェイとアニーの言葉に、エーデルワイスは溜息を吐いていた。
「そうなのだ。まさかセイソン自身に転移術が使えるとは思わなかった。其方が無計画に世界のあちこちに転移したせいで、カリシムス候補者が五人にも増えてしまった」
「どういう事だ?」
ジンがピクリと眉を動かして聞けば、エーデルワイスはさらに大きく息を吐いて答える。
「従来のセイソンには、カリシムスは一人しか選出されない。今回もワタシがセイソンを送り届けるつもりだったカエルレウムで、その選定が行われる予定だった。それなのに、其方があちこちでベスティアを討伐したせいで、ウィンクルムが複数生成されるという異常な事態が……」
「ウィンクルム、って何です?」
その言葉を遮ってルークが聞くと、ふっと表情を緩めてエーデルワイスは答えた。
「ああ。セイソンとカリシムスの間に絆が出来た証だ。青い石の姿をしている」
「ええっ、これデスティニー・ストーンじゃないのぉ?」
アニーが自分の青い石を取り出して言うと、エーデルワイスは顔をしかめていた。
「聖遺物におかしな名をつけるな、阿保が」
「おかしくはないだろ、カッコイイだろ!?」
だが、誰も賛同はしなかった。
「とにかくだ、本来の手順なら法皇が危機の起きている国にセイソンを派遣する。そこであらかじめ用意された候補者数人とセイソンを面通しする。その中からセイソンと絆を結び、ウィンクルムを生成した者がカリシムスとなるのだ」
イケメン達はそれぞれ自分の青い石を取り出して見る。その様子を見て、エーデルワイスは眉間に深い皺を作って嘆いた。
「だから本来、その青い石はセイソン一人にひとつしか生成されない。しかし今回はすでに五つも生成されてしまった。頭が痛い……」
それがどういう意味を持つのか、ミチルにもイケメン達にもイマイチよくわからなかった。
「我々も手を尽くしたが、セイソンの生存をワタシが確認したのは不覚にもアルブス王からの報告でだった」
抱えていた頭を少し上げて、エーデルワイスは話題を変える。ミチルはそれでエーデルワイスが何かに困っていたようなのを、一旦頭の隅に追いやるしかなかった。
「エリオットのお父さんかあ……」
そういえばアルブス王はミチルを『チル神様』と讃えていた。その態度を考えたら、懇意にしているペルスピコーズに報告するのは当然だとミチルは今更ながら思う。
「まあ、その報告の内容がほとんど『うちの息子こそが伴侶にふさわしい』と言うものだったがな。それで今回のセイソンはカリシムスを選定する力と、彼らを魅了する力が強いのではないかとワタシは想像した。ウィンクルムが五つも生成されたのもそのせいかもしれない」
「……親って恥ずかしいなあ、オウジサマ?」
エーデルワイスの言葉を受けてアニーがそう揶揄うと、エリオットは罰が悪そうに縮こまった。
「くっそお、父上ぇ、余計なことを……」
「……つまり、セイソンの伴侶になるカリシムスは、セイソン本人が選ぶのか?」
ジンがはたと気づいてそう聞くと、エーデルワイスはしれっとして頷く。
「当たり前だ。セイソンの役目はカリシムスと契って世界を救うこと。己の全てを許す存在を、己自身で選ばないでどうする」
ん?
その言葉に全員の動きが固まった。
「カリシムスと契って世界を救う……とは、どういう事だ?」
ジェイの質問にミチルも追随した。
「ベスティアをオレ達で斬って斬って斬りまくるんじゃないの?」
するとエーデルワイスは呆れた顔で言う。
「馬鹿な。そんな世界戦争みたいな事をするなら最初からセイソンなど呼ばん。セイソンは大いなる愛で世界に潤いを与えて邪悪なモノを取り除くことが出来る。それがセイソンの役目だ」
ちょっと雲行きがおかしくない?
ミチルが二の句を失っていると、エーデルワイスはお得意の独り言を呟く。
「だから、本来ならセイソンとカリシムスは異性である必要がある。しかし、今回は何故か男性同士、そんな例は未だかつてない。やはり急拵えの儀式がまずかったのだろうか。だが、まあ、男性同士でも行為は可能であるからして、行為自体が重要な使命なのだから問題はないだろう」
「こ、行為って、ぐ、具体的には……?」
ミチルは嫌な予感がした。
今まで遭遇してきたセクハラの数々が脳裏に浮かぶ。それから、たいして気にも留めなかったがパオンが言っていたことが今更引っかかる。
『もっと激しく♡♡♡なさい。でなければ世界は救われないのですから……』
クールな顔で、少年法皇エーデルワイスは聞くに耐えない表現を繰り出した!
「セイソンはカリシムスと♡♡♡せねばならない。それはもう激しく♡♡♡で♡♡♡なほどに。二人が熱烈に♡♡♡するほど世界はその愛で浄化される」
……
…………
「………………ふざけてんのかぁあああぁあ!!」
助けてください!
異世界が、異世界がグルになってオレにセクハラを強要するんですっ!
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