3 イケメン・バカ・ファイブ
オレはイケメン達がいないとダメなんだ!
ついに気づいた自分の気持ちを噛み締める余裕もなく、大騒ぎして雪崩れ込んでくるバカ・ファイブを見たミチル。
イケメン達だってミチルがいないとダメなんだ。
いや、傍目にはミチルがいるからこそ世界の頂点に立つ麗しきイケメン達がバカになるように見えた。
「お前たちはいっつもそう!」
ミチル、激おこ、仁王立ち。
「……ごめんなさい」
イケメン五人、小さく正座。
「はああぁ……」
少年法皇エーデルワイスの溜息が止まらない。
カリシムスは世界の英雄とも言える存在なのに、その候補者全員がすでにプルケリマの尻に敷かれている。おもいっきりの鬼嫁状態だ。
「あのさあ! オレ達はここに誘拐されたんだから被害者なワケ!」
「……はい」
「見張りのおじさん達をもれなく蹴散らして、被害者が加害者になってどうするんだよ!?」
「……面目ない」
「過剰防衛だって言われたら、不利になるのはオレ達なんだからね!」
「……ごめんなさい」
喧々轟々と怒るミチルに全面的に降伏しているイケメン達。
エーデルワイスが見ているその景色は、一言で言えば「異様」だった。
「でもよ、ミチルが法皇にてごめにされそうだって聞いたらさ……」
エリオットの反論に、エーデルワイスは怪訝な顔で部下を振り返る。
「それだ。誰だそんな事を言ったのは」
すると擦り傷だらけの、法衣を着た老齢の男達は口々に否定して首を振った。
「と、とんでもございません! 私達はセイソン様は法皇様によって尋問されていると言っただけでございます!」
「うん?」
平に伏せる部下達を見下ろして、エーデルワイスもまた首を傾げていた。一体どんな行き違いがあったのだろうと。
イケメンの言動に関しては勘が冴えるミチルはすでに嫌な予感がしていた。
「尋問とは取り調べだろう。それはミチルに大きな負担になる」
うん、ジェイ。心配してくれてありがとう。
「ミチルだけ、尋問する、ひどいです! かわいそうな、ミチル……」
うんうん、ルーク。泣かなくていいからね。
「つまり、それはもう拷問ってことだろ!? 痛いやつか? まさか気持ちいいやつじゃないだろうな!」
……風向きがおかしいな、アニー。
「シウレンに気持ちの良い拷問だとぉおお!? ふざけるな、シウレンの××を坊主に××されてたまるかぁああ!」
先生ぇ!! 軍属経験のある、まさかのお前が元凶とはっ!!
ミチルは泣き喚くイケメン達に改めて怒鳴った。
「こぉの、イケメンバカファイブがぁ! 勝手に勘違いして暴れてんじゃねえっ!!」
イケメン達はミチルの勢いに思わず土下座していた。しかし、すぐに屁理屈をこねたのは土下座が最もできない男。
「けどよミチル。こっちの気持ちも考えてくれよ。お前がそんなことになったら、おれたちゃ死ぬぞ」
これでも王子のエリオットは口を尖らせながら反論を試みた。拗ねた様がちょっと可愛い。
「その通りだ。ミチルに危機が迫っていると聞いて、私達が正気でいられるはずがない」
ジェイの真っ直ぐな瞳がミチルの心を貫く。
「うぐっ!」
イケメンのすねすねほっぺと純粋視線はミチルに絶大な効果を持つ!
「シウレンに何かあったら儂は生きていけないっ!」
ジンは大粒の涙を流していた。キラキラ光る、それは宝石。
「ミチルの純潔は、俺が絶対に守り抜く!」
アニーの頼もしさあふれる、その顔が良すぎる。
「はう、はう……」
イケメンのキラキラ涙と極上顔面もミチルに絶大な効果を持っている!
そしてトドメに……
「ミチル! 無事で良かったです!」
ルークが健気に良い子ビームを放った。心が浄化される!
「きゅーん♡」
イケメン達のミチルを想う心に、その本人が抗えるはずがなかった。
「うわーん! みんなー!」
ミチルは感極まってイケメンパラダイスにダイブ!
「ミチルー!!」
イケメン達もミチルを抱きしめて大号泣。
「……」
そして呆気に取られる法皇と負傷した部下達。その目は磨かれた床より白い。
カツーン!
法皇の杖が床を叩く乾いた音が、その場に響き渡った。
ビクリと震えるミチルとイケメンファイブ。
ミチルが恐る恐る振り向くと、少年法皇エーデルワイスは能面のような顔で冷ややかに立っていた。
「なるほど、良くわかった……」
「な、な、何がだよ」
やっとのことでミチルがそう聞くと、エーデルワイスはくわっと瞳を見開いて言う。
「お前達のような阿保のプルケリマとカリシムスを選んでしまった、ワタシの未熟さがなッ!!」
すると突然聖堂全体が揺れる。
地震でも起きたかのように、調度品から神像から何もかもがガタガタ震えた。
扉はぴっちり閉まっているのに、台風のような強風が逆巻く。
「ヒエエエ!」
「お鎮まりください、法皇さま!」
「お気を確かに、エーデルワイスさまぁ!」
「やかましぃいッ! こんなプルケリマ=レプリカとカリシムスはこっちから願い下げじゃあぁあ!!」
地震がドーン!
暴風がゴー!
「ギャアァア!」
「法皇さまー! お慈悲をー!」
「法皇さまぁー! 御前ですぞぉー!!」
哀れな部下の坊さん達は、少年のような姿の法皇が怒り狂う様に恐れ慄きつつも、必死で宥めていた。
「なんか……」
呆然となったイケメン達は思う。
「あの怒ってる姿、ミチルに似てない?」
……なんだとぅ!?
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