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1 少年法皇

 なんかさ、全然覚えてないんだけどさ。

 小二くらいだったかな。

 夏休みにじいちゃんちに行った時にさ……

 

 


「ねえ、じいちゃん、この人だれ?」


 祖父の膝の上で、ミチルは古いアルバムを見ていた。

 ミチルが指さした、兵士のような格好をした若い男性の写真を見た祖父は、悲しそうに笑う。


「それは、じいちゃんのお父さん。ミチルのひいじいちゃんだよ」


「ひいじいちゃん? じいちゃんの顔、してないよ」


 ミチルがそう言うと、祖父は寂しそうに微笑んだ。


「そうだね。ひいじいちゃんは年がとれずに遠くに行ってしまったから」


「どこに行ったの?」


「遠い遠い海を渡って、そのままお空に行ってしまったよ。お空の高いところにね」


「えー、すげえ!」


 ミチルが目をキラキラさせてそんなことを言うと、祖父は小さく声を上げて笑った。





 ◇ ◇ ◇



 


 まぶしい……

 頭の中は真っ白だ……



 

『やっと見つけた、プルケリマ=レプリカ』




「!」


 最後に聞いた声を思い出して、ミチルは目を開けた。

 自分はどうなってしまったんだろう。

 横たわったまま、目の前の景色を確認する。


「……教会?」


 ミチルの姿が映りそうなくらい綺麗に磨かれた床。

 清廉な、けれど冷たい床。アルブスで見たお城の礼拝堂に似ていた。


 ミチルはゆっくり身を起こす。

 とても高い天井。綺麗な人間が描かれているフレスコ画。これはカミサマ?

 窓にはステンドグラス。陽の光が幾重にも増幅されてとても眩しい。天界の光?




 カツン




 乾いた、硬質の音が響いた。

 ミチルは上を仰ぐのをやめ、音が響いた方向──前方を向く。


「あ……」


 白い大理石のような柱が何本も連なっている。

 アルブスの礼拝堂の何十倍も豪華な聖堂だった。


 前方奥、聖堂の中心に小さな白い人影。

 その人物が一歩踏み出したことで光の反射が変わり、その表情が垣間見えた。


 大きな白い杖を持った、純白のローブを身に纏ったその人物はミチルよりも年若い。中学生ほどに見えた。

 明るい栗色の髪に茶色の瞳。その面差しが誰かに似ている。

 少し癖っ毛のその少年は、信じられないくらいの威厳でそこに立っていた。


「よく来た、プルケリマ=レプリカ」


 少年の声は鈴が鳴るようによく通り、ミチルの頭にスッと入ってくる。

 ミチルはその少年の清らかさに一瞬怖気付いた。

 けれどすぐに、なんかよくわからない怒りが湧いてくる。

 

「自分で呼んどいてえらそう!」


 ミチルはその少年をまっすぐ見て言った。

 負けるもんか。只者じゃない少年ならすでに一人経験済みだ。


 ミチルがキッと睨むと、白いローブの少年は固い表情を崩さずに言う。

 

「よくわかったな」

 

「声でわかるわ!」


 そう、その声。

 ラーウスで勝利に酔いしれたかったのを邪魔した声だ。

 

 そしてここは絶対にラーウスじゃない。

 くしゃみもしていないのに、いつもの青い羽根に包まれた。


 いくらミチルでも、目の前のコイツが原因だとわかるくらいには異世界慣れしている。

 

「成程。意外と鋭いな」


「あんた、嫌い!」


 淡々として言う少年に、ミチルは思わず叫んだ。

 なんか話が通じなそう!

 それにその服装。まるで地球にいるロー○教皇みたいな格好。


 ミチルの直感が正しければ、見た目からして、最近話題の人物が浮かび上がる。


「ペル、ペルッピ、ペルピッコロの法皇だな!?」


「ペルスピコーズ法皇だ」


「だからそう言ってるじゃん!」


 ミチルの強気でアホな物言いに、少年法皇は眉をひそめながら静かに目を閉じた。

 それから大きく肩で息を吐いて言う。


「……今回のレプリカは、前代未聞の阿呆か」


「ああん!? おまー、ふざけんなよ! こっちは誘拐罪で訴えてもいいんだぞ!」


 ミチルの脅しは完全に的外れであった。もちろん少年法皇は即座に反論する。


「どこに訴えるというんだ。異世界人の其方を守る制度などないぞ」


「キイィ! やっぱ、あんた、キライ!!」


 ミチルは頭に血が上りかけて、ふと我に返った。

 異世界人、って今言った?

 目の前のコイツはオレが異世界から来たって、もう知ってる!?


「確率の低い男のレプリカのうえに、カリシムス候補も男ばかり。今回は本当にイレギュラーが過ぎる。頭が痛い……」


 男、男って、男の何がいけないのよ! バカにしないでちょうだい!

 ……などとオネエっぽい口調で言いかけたミチルだったが、それよりも気になったのは初めて聞いた言葉。

 それはどうやら自分を指しているようだ。ミチルは心を鎮めて聞いてみる。


「レプリカ……って何だよ。オレはセイソンとか言うのじゃないのか?」


 すると少年法皇は未だその固い表情を崩さずに淡々と答えた。


「確かに其方はセイソンだ。プルケリマの模造品(レプリカ)のことをセイソンと呼ぶ」


「模造……品?」


 その言葉は、人を人とも思わないような冷たい印象をミチルに与えた。


「この世界、カエルラ=プルーマのカミが遣わす者がプルケリマ。そして法皇がプルケリマの()()()として異世界から呼び出す者をセイソンと言う。つまり、セイソンはプルケリマのレプリカたる者。今回の其方のような」


「……は?」


 少年法皇の瞳は、ミチルを見るようでミチル自身を見ていない。何か、人形でも見るかのような視線をミチルに投げていた。

 その態度にミチルは背筋が寒くなる。


「其方は、ワタシが異世界から呼んだ、プルケリマ=レプリカだ」


 決定的な言葉を浴びて、ミチルは一瞬頭が真っ白になった。

 だがすぐにメラメラと湧き上がるこの感情。


 とりあえず、純粋な怒り。


「おーまーえーかあぁあ……ッ!」




 ミチルの瞳が青く染まった。

 少年法皇はその様に、ピクリと眉を寄せる。


「おまえが本当の諸悪の根源かアァァ……ッ!!」




 ミチルの怒りは少年法皇に通じるのか?




お読みいただきありがとうございます

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