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28 イケメン達のミチル談義ー疑心

「ところでミチルはどこだ?」


 捕虜扱いの四人の部屋にルークだけがやってきたので、肉を片手にアニーがキョロキョロ様子を窺った。


「ミチル、衣装の採寸、行ってます」


 ルークがそう答えると、エリオットは冷静に「ああ、なるほど」と納得しながら肉を齧る。


「例の『セイソン』とか言う聖人に成りきれるように衣装をしつらえるんだったな」


「まあ、シウレンのいつもの服装は奇天烈だからな。仕方なかろう」


 さすがにパーカーの良さはジンでも理解は出来ていない。ミチルの稀有さを演出するなら、この世界に存在しないパーカーでも良さそうな気はするが、人は理解できないものには恐怖を覚える。それなら、この地に根付いたいかにも「聖なる存在です」というような服装が必要だ。


「む? ミチルはあのままで充分可愛らしいと思うが」


 そもそもの話を理解できていないジェイは置いておいて、アニーが少し不安な思いを吐露する。


「おい……採寸ってことは、どこかのオッサンがミチルの体を触りまくるってことだよな? あんなとこや、そんなとこ、あまつさえ秘密の××のサイズまで測られたらどうすんだよ!?」


「測りたいのはオメーだろ」


 ここがアウェイである意識があるエリオットは、いつものようにアニーと妄想暴走が出来ない。脳筋は気楽でいいよな、と呆れていた。


「やだあ! 俺が測ってもいいんですかぁ♡」


「……アニー殿、少し真面目にならないか」


「──!」


 うふうふと妄想暴走を続けるアニーだったが、あろうことか一番下に見ているジェイに正論で怒られて、その場に立ち尽くしてしまった。



 

「おい、そろそろ本題に入ろうぜ」


 衝撃で固まるアニーを置いて、エリオットはルークを一瞥してから顎で促した。


「とりあえず、お前の話から聞いてやるよ」


 ルークはすでに要領の良さではエリオットには敵わないと悟っている。ならば小細工は無用。素直に思っている疑問を聞いた。


「皆さん、一体何をして、兄に捕まっていたんです?」


 目の前の四人の男が、自分と「同等」だというのがルークには確かに感じられていた。これは「運命」だとも思っている。

 しかしその運命は、仲間としてなのか、敵としてなのか。どちらなのかがルークは判断出来ていなかった。

 兄のルードは革命家を名乗っているだけあって破天荒だけれども、理由もなく旅人を捕縛するようなことはしない。

 見れば拷問もされたように思える。そこまでの事を、この四人はやったのか。だとしたら目の前の運命は「敵」かもしれない。


「一体、何を、やったか……だとぉおおあ!?」


 殊勝に答えてくれるかと思ったら大間違い。一気にエリオットの顔は歪み、脳天から怒りの湯気まで湧き上がる。

 そしてヒステリックに叫んだ。


「ふっざけるなよぉ! 先に手出してきたのは、あのくそばかルードの方だからなあ! おれは売られた喧嘩を買っただけだっつーの!」


「喧嘩、ですか……?」


 理解に苦しむルークに、怒りがますます湧き上がるエリオット。その二人のギャップを見かねてジンが口を挟んだ。


「我らがシウレンの転移にくっついてラーウスに来たことは聞いただろう。何故かは知らんが、シウレンとは離れて転移させられた。砂漠と岩山の間のような荒野だ。そこにルードの一行が現れた」


「岩山……ならそこ、兄さんのアジトの近くでは?」


「うむ。そのようだった。我らはそこでボーッとしていただけなのだが、ルードの部下達が武器で脅してきたのだ」


 ジンの説明に、ルークは顔を険しくする。


「それは、当たり前です。兄さんは反乱、計画してる。アジトの場所は、絶対に秘密。そこに外国人が何人もいたら……」


「ルード側の貴様ならそう思うだろう。だが我らはルードが何者なのか、秘密のアジトがあることも知らん。なのに早とちりして、『帝国の手先』などと言って先に襲ってきたのはアイツらだ」


「な、なるほど……」


 ルークが納得しかけた時、脳筋組の二人がいらん事を言い始めた。


「まあ、あんな雑魚ドモは返り討ちでボッコボコにしてやったけどな!」


「うむ。こう言っては悪いが、気性が荒いだけの一般人だった。私やアニー殿が遅れをとるはずがない」


 ハッハッハと笑う、悪い意味で素直過ぎるジェイとアニーの物言いに、ジンはガックリ肩を落とした。敵は身内にいたという事だ。

 さらに怒りで冷静な判断が出来なくなっている者もいる。


「あったりめぇよ! あんな烏合の衆はギッタギタにぶちのめしてやった! 最後のトドメ、おれの雷魔法でアジトの入口もグッチャグチャにしてやったぜ!」


「王子まで……」


 ジンは一人、完全敗北した弁護人のようだった。


「そこまでやったら、悪いのは、皆さんの方ですね?」


 ルークが苦い顔でそう言うと、エリオットはまた怒って訴える。


「ハァ!? 話は最後まで聞けえ! そんでおれが華麗なる魔法で制圧しようとしたらなあ、ルードの野郎が例の拘束魔法であっという間におれ達をふん縛ったんだよ! あり得ねえ、ラーウスに魔法が使えるヤツがいるなんて聞いたことがねえ! しかも独学でこのおれを手玉にとるような強大魔法なんかデタラメだ!」


 怒りに燃えるエリオットに、ジンとルークの冷静なつっこみが入る。


「王子の魔法も魔法書だけの知識だろう。独学はお互い様ではないか」


「ラーウス、魔法書なんてありません。兄さん、いつの間にか魔法使えるようになってた。だから兄さん、天才」


「キー!!」


 味方だと思っていたジンにも冷たくあしらわれて、エリオットはヒステリックに地団駄を踏んでいた。


「……まあ、つまりは痛み分けという所だろう」


 ジンは無理矢理にでも喧嘩両成敗の方向にせめて持っていきたい。


「では、皆さんがボロボロだったのは、兄さん達とやり合ったから?」


「うむ」


「拷問があった、ではないのですね?」


「ない。我らは拘束されて、簡素な食事しか与えられなかったがな」


 ジンが短くそう答えると、ルークは少し考えたあと呟くように結んだ。


「わかりました。お互い、すれ違った、いうことですね」


「まあ……そうだな」


 落とし所が見つかったことに、ジンはホッとしていた。

 猜疑心を抱いたままでは、この後に控える反乱の作戦遂行に支障をきたす。それではミチルの立場も危うくなるし、何より健気に決心したミチルの気持ちに水を差すことになってしまう。


「ざっけんなァ! 魔法大国アルブスの王子である、このおれがァ! もぐりの魔法使いに負けるワケねえんだぁ!」


「……おい、一番と二番。三番を抑えておけ」


 魔法に対してのプライドが傷ついたエリオットはまだ喚いていた。仕方なくジンはジェイとアニーにそう命じる。


「わかった。殿下、大人しくしてくれ」


「人を番号で呼ぶんじゃねえよ。よーしよし、エリオットは良い子!」


「お前らにそれは言われたくねえっ!」


 すったもんだする三人を背に、ジンは厳しい目でルークを見据えた。


「……では、こちらの番だ」


「……」


 緊張するルークに、ジンが言い放つ。


「我らは、貴様を第五の男とは認めない」

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