23 食い違う伝承
ついに再会を果たしたミチルとイケメン四人衆。
喜びも束の間、彼らの知らない痴態の痕がミチルに刻まれていた。
事態は当然阿鼻叫喚。
泣いて、叫んで、喚くイケメン達に、ループス家の皆さんは唖然としている。
ミチルに「騒いだら殺す」などと脅したルードでさえも、であった。
この何もかもを超越したイケメン達が、ちっぽけな少年にキスマークがついていたからと言って、ここまで我を忘れている様が超現実離れしているということである。
「み、みんな落ち着いて! これはアレだよ、不可抗力ってヤツで、これ以上のことは何もないから!」
ミチルは事態を収めるために、ほんのり嘘をついた。
ただ、それはあまり効果がなかった。
「これ以上のことがあってたまるくわぁああッ!」
アニーの目は血走っている。毎朝ルークに××されているなんて言ったら憤死するかもしれない。
「アニー殿、一旦落ち着くんだ。私達がここで騒いだらミチルに危険がおよぶ」
ようやく人の心がないジェイから制止がかかる。それでエリオットもジンも、一旦落ち着こうと深く溜息をついた。
「わ、わかった。アレだ、とりあえずはミチルを嫁と呼ぶ問題から片付けようぜ。くそばかルードじゃねえのはわかる。そうなるとやっぱり、あのヒゲジジイか……?」
エリオットはそう言って、奥でどっしり座るマグノリアを見た。今にも○しそうな視線で。
「いや、違うな。奴からは何も感じない」
だが、ジンが即座に否定した。
「てえことは──」
「そうだ。あの三人の中で一番の美形……」
エリオットとジン。知性派の二人が注目するのは同じ人物。
「はい、ぼくです」
知性派が結論づける前に、ルークが一歩踏み出した。
「はじめまして。マグノリア・ループス次男、ルードの弟、ルーク・プルクラ・ループス言います」
そして更にルークはにっこり笑って付け足した。
「皆さんと同じ、カリシムス候補。ミチル、ぼくのプルクラです」
ルークはイケメン四人に宣戦布告をつきつけた!
その頼もしさに、マグノリアは鼻を膨らませ、ルードはおおいにニヤける。
ミチルはちょっと不安げに見守っていた。
「……ああん?」
だが、悲しいかな、四人はルークの発言を理解できなかった!
「……なるほど。事情はわかった」
並んで座るイケメン四人のうち、年長者のジンが一番マグノリアに近い位置にいる。
とりあえず全員が広間に座り、イケメン四人にはお茶と軽食が振舞われた。
ちなみに、ルークとミチルにも朝食が運ばれた。イケメン達のものよりもだいぶ豪華なものが。その差にミチルは一人居心地が悪くなるけれども、ルークが側から離さなかった。
イケメン達は不服そうにしていたが粗食に耐えて、マグノリアからラーウスに伝わる神話やカリシムス云々の話を聞いたところだ。
「つまり、そちらの次男殿も我らと同じ立場。シウレンについて同等であると言いたいのだな?」
「シウレン?」
ジンの発言にマグノリアが首を傾げると、ジンはフフンと笑って言った。
「失礼。それは儂だけが呼ぶミチルの愛称だ。シウレンは私の愛弟子だからな」
「あ、そう。まあ、ミチルくんはルークの嫁だけどね!」
「アァ!?」
オジサンVSおじさんの攻防! そこにギャル男王子が割り込んだ。
「ふざけんな、ミチルはなあ、おれの妃なんだよ! 我が父、アルブス王オルレアが認めてんだ!」
認められた記憶はないけど? とミチルは思ったが、あんまり口を挟みたくなかった。
「……なんと、そちらはアルブスの王子殿下か?」
マグノリアが驚きに目を丸くしたのと、アニーとジェイが突っ込んだのは同時だった。
「あっ、ばか!」
「殿下、身分は隠すように言われていたのでは?」
「お前も殿下とか呼んでんじゃねえ!」
ヒソヒソしながらアニーはジェイの頭を小突く。エリオットは完全に開き直っていた。
「うるせえ! おれ達はあのトッチャン坊やに宣戦布告されたんだぞ!? たかが区長の、それも18の小僧っコにだ!」
「ム。小僧、ありません。ラーウスでは、十八歳、立派な成人」
ルークに向かってギャーギャー喚くエリオットを、アニーが無理やり抑えていると、マグノリアは顎髭に手を当てて考え込んだ。
「ふむぅ。アルブスの王子様、カエルレウムの近衛騎士にフラーウムの元上級軍人か。さすがにセイソン様のカリシムス候補だ。身分がしっかりしている」
「おおい、俺が抜けてるぞ!」
アニーが憤慨して訴えるも、マグノリアには鼻で笑われた。
「君は庶民だろう? 俳優か何かの水商売では? 貧乏くさいから」
「バ、バ、バカにするなよ! 俺だってなあ、ルブルム先住国家の族長の末裔だぞ!」
「ふーん」
なんとか高貴な感じで表現しても、所詮は百年以上前に滅んだ一族。アニーの主張はやはり一笑にふされた。
「だから、俺はぁ、マ……マママ……」
マフィア子飼いの何でも屋です、などとも言えるはずがない。アニーは悔しそうにブルブル震えていた。
「……話を戻すけどよ」
エリオットは頭をガシガシ掻いて、難問を解くように顔をしかめてマグノリアに問う。
「セイソンとか、カリシムスなんて言葉、おれは知らねえけどな」
エリオットがそう言えば、ジェイも大きく頷いていた。
「うむ。フラーウムではそもそもチル神と呼ばないので、儂も初耳だ」
「プルケリマってのはルブルムにあったぞ。でも、そもそもチル一族伝承がないけどさあ」
ジンとアニーが口々に言えば、マグノリアは意外そうな顔をしていた。
『チル一族は各国・各地方に数多く伝説を残しておっての。そこでの文化の中で様々な解釈をされて語り継がれているから、チル一族が結局何なのか、本当のところは誰にもわかっておらん』
かつてスノードロップから言われた言葉を、ミチルは思い出していた。
果たしてどの国の、またはどの宗教の言う事が正しいのか?
奇しくもカエルラ=プルーマの主要国である人間が雁首を揃えているこの場で、真実は見つかるのだろうか?
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