21 (朝)8時だよ!
朝が来た。
ミチルはふかふかのベッドの上で目を覚ました。
「ふみゅ……」
まだ定まらない思考の中、鼻をくすぐる柔らかくて黒い髪の毛。
「ん……」
彼の癖っ毛が、ミチルの胸元で揺れていた。
「ルー……ク?」
「ミチル……」
ルークはまだ眠りながら、ミチルの胸に顔を埋めている。
その頬ですりすりしながら、イヤンな二点を目指している。
「……っ! ル、ルー……クゥ!」
ミチルは思わず身悶える。
ルーくんは良い子だけど、眠ると肉食の本性が出るのです!
「ミチル……ぼくの……」
「あっ! ルーク!」
「ミチルは、ぼくの……」
「やあっ! そんなトコ触らないでぇ!」
「プルクラ……」
「ああっ! そんなに強く吸ったら──」
だめぇえええ……♡
「へえぇ……」
今朝も繰り広げられた二人の痴態を眺める人影。
「ル、ルード!?」
ルークの兄、エセアラ○ンのルードが、半裸にひん剥かれたミチルを冷ややかに見つめていた。
「……」
「ちょっと! 見てないで止めてよぉ!」
「うるせえ。俺様は可愛い弟の『雄』を目の当たりにして傷ついてんだ」
「ええー……」
ミチルがちょっと引いていると、ルードは悔しそうに顔を歪める。
「ぬぬぬ、子どもの頃は『にいたん、にいたん♡』と可愛く笑っていた弟が、こんなチンケな少年相手に欲情しているなんて……」
「ねえ、ちょっと。そのアータの弟、なんとかしてくんない?」
ミチルに覆い被さるルークはまだ寝ぼけていた。そしてその訴えは聞き入れられず、兄は破天荒に振る舞う!
「くそぉ、俺様も興奮してきた! こうなったら混ざってやる!」
「ギャアァア! ふざけんなぁああ!!」
ウソでしょ、兄弟に挟まれて××!?
ルードは恐怖に慄くミチル……ではなく、ルークの方に覆い被さった!
「ルーくぅうううん♡」
「ギャー! ルーク! 起きろぉ! 実の兄ちゃんに×られるぞぉ!」
「ん……んん?」
ミチルの決死の叫びがようやくルークに届き、目を覚ます。すると、ルードはパッとそこから離れた。
「兄さん……?」
「やあ、ルーク、おはよう。いい朝だね、ハハハ」
「おは、よう?」
ルークが起きてどいたその隙に、ミチルはベッドの端に移動して、乱れたパジャマを着直した。
あっぶねー、あっぶねー!
なんかイロイロ危なかったッ!
「ミチル、おはよう」
「うん、おはよう!」
朝日を浴びてキラキラ輝くイケメンスマイル!
毎晩肉食されかけるが、この顔で全部帳消し!
ミチルがルークの家に居候してから三日が経っていた。
金持ちの家は部屋が余っていそうだけど、居候の身分で個室を要求できる訳もなく。
さらにはルークパパのマグノリアから「嫁の分際で夫と床を共にしたくないと言うんか!」と圧をかけられたので、ミチルはルークの部屋で同衾する日々。
同衾についてはありがとうございます。
でもね、毎晩ぱっくんちょされかけているので、だいぶ寝不足です。
そんなミチルと違って、ルークは毎朝スッキリ爽やかに起床している。
眠りながら発散しているからだろう。しかしルークには悪気はもちろん、記憶もない。
「アナタ毎晩ワタシを××してるんですよ」なんて、こんな無垢なルークに言えますか? 言えないでしょう?
「……へっ、健気なこって」
そんなミチルの態度を見透かすように、ルードは薄く笑って皮肉を言った。
なんとでも言え。ルークの心はオレが守るんだ。
「兄さん、どうしたの? もしかして……」
「あっ! まさか?」
魔教会をぶっ潰す算段を整えたら連絡する。ルードは以前そう言って、誘拐されたミチル達を助けてくれた。
もしかしてXデーが近いのか?
ヤバい、イケメン達がまだ見つからない。
この三日、ミチルはルークと街を巡って聞き込みなどをして、はぐれたイケメン四人を探した。
だが、暑いわ眠いわで、あまり捜索は進んでいない。
「いや、例の計画はもうちょっとつめる必要があってな。今日はウチで飼ってる捕虜を連れてきた」
「捕虜? まさか、帝国の……?」
ルークが一気に真面目かつ不安な面持ちで兄に問う。ミチルも捕虜という危険ワードにビクついた。
しかしルードは軽く笑っている。
「外国人だけど、帝国人じゃねえよ。しばらくウチに置いといたんだが、食費がかさんでなあ。親父サマに預かってもらいてえんだわ」
「つまり、兄さん。その捕虜、お客としてもてなせ、言うこと?」
「いやあ、そんな上等なことしなくていいさ。地下室にでもぶち込んで、水とパンでも与えてくれりゃあいい」
ぞんざいに言うルードに、ミチルは思い切って聞いてみた。
「捕虜って、その人、一体何したんです?」
「あー、まあ、それは面倒くせえから親父サマの前で言うわ。お前らも着替えたら広間に来な」
そう言い捨てて、ルードは部屋を出て行った。
ミチルとルークは急いで着替えて、マグノリアが朝食をとっているであろう広間へと向かった。
「まったく……次から次に面倒を持ち込みおって」
食後のお茶を飲みながら、マグノリアは長男に向かって渋い顔をしていた。
「まあまあまあ! 親父サマよ、案外これが掘り出し物かもしんねえぜえ?」
「何をたわけたことを……」
ミチルがルークとともに広間に着くと、すでにルードが仁王立ちで奥に座る父親と会話していた。
そのルードの横に置かれているのは、バカでかい麻袋が四つ。奇妙にどれもうごめいている。
「おはようございま……って、ナニコレ!?」
ミチルは目の前の物体に度肝を抜かれた。
サンタさんの袋のボロボロバージョン! てっぺんは紐で縛られている。中のものがうごうごしている。
ちょっと待って。まさか中に人なんて入ってないよね? 窒息するでしょ!?
……と思ってよく見ると小さな穴がいくつか空いていた。空気穴だ。ってことはやっぱり確定じゃん!
「ミチル、危ない。ぼくの後ろに」
さすがは弟、兄の破天荒さは承知の上のようだ。ルークはミチルの腕を引いて、巨大麻袋たちから遠ざける。
「わかった。荷を解きなさい」
肩で息を大きく吐いて、マグノリアが諦めたようにそう言えば、ルードはニヤと笑って指をパチンと鳴らした。
すると、麻袋の紐がそれぞれ解けて、袋部分が奇妙に広がった後、中の人物を解放して消えた。
どうやらルードの拘束魔法だったようだ。
「!」
ミチルの目の前に現れたのは、頑丈なロープで縛り上げられ、猿轡をされた、輝かんばかりの男性四人。
「もがががっ!」
「むぐぐぐ!」
「ぬぬぬぬ……」
「むむむ……」
わりとくたびれてボロボロだけど、ミチルがその美貌を見間違うはずがない。
「みんなァ!!」
イケメンが、全員集合!
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