20 イケメンに会いたい
ルークに変な呪いをかけているかもしれない、チルクサンダー魔教をぶっ潰す。そしてその魔教を掲げてベスティアを世界に放っている、アーテル帝国もぶっ潰す。
ルークの父、マグノリアの話はまとめるとこんな感じだ。
「それで、具体的にはどう動くんです?」
逸る心でミチルが聞くと、マグノリアはカラカラと笑っていた。
「ハッハッハ! それについてはルードが準備しているだろう。私達はあいつから連絡が来るのを待つしかない」
「なあんだ……」
拍子抜けしたミチルは、少し気を抜いてクッションに座り直した。ようやく足が崩せるくらいにはリラックス出来ていた。正座していたから足がジンジン痛い。
「そういえば、兄さん、潰す算段できたら連絡する、言ってた」
昨日そう言ってどこかへ去っていった兄を思い出しながらルークが言うと、マグノリアも顎髭を撫でながらリラックスして頷いた。
「うんうん、そうか。それなら私はこの区内での根回しを進めよう。お前達は大人しく家の中で待っていなさい。なんなら子作りに励んでもいいぞ」
「作らねえし! オレは男だしぃ!!」
ミチルは真っ赤になって怒鳴った。
なんなの、この世界のおじさんは! セクハラが大好きなの!?
「うん? だが君はルークの運命の伴侶なんだろう? 頑張れば作れるんじゃないか?」
「だから、ガンバルとか言うセクハラは──って、何ですって?」
キョトンとしているマグノリアに、ミチルも呆けてしまった。
エリオットもしょっちゅう「妻にする」言うてますけども、男同士でもそんなこと出来る可能性がこの世界にはあるんでっしゃろか?
「前に私は魔教会から聞いているぞ。ルークはカリシムスという聖人になる宿命。カリシムスはセイソン様と子を成すことが出来るという伝説があるそうじゃないか。君がその、セイソン様なんだろう?」
「ええ……?」
ミチルは途端に、昨日、魔教会で言われたことを思い出した。
オレがセイソンだって言うのは確かに言われた。でも、それは信じるに値しない魔教会の司教が言ったことだ。
ずっと思ってることだけど、ミチルは自分がそんな重要な存在だとは信じたくなかった。
「父さん、そのことで、報告あります」
すると少し思いつめたような顔でルークがそう切り出した。
「なんだね、ルーク?」
「ミチル、確かに、ぼくのプルクラ。でも、ミチルにとっては、そうじゃない……かも」
「ハァ!?」
それまで温厚におちゃらけていた父の顔が、急に歪んだ。
「ミチルの話に、あったでしょ。ミチル、すでに四人の男性と会ってる。きっと、それ、ぼくと同じ候補者」
「候補者、とは何だ!?」
その話、今しちゃうの、ルーク!?
どんどん顔が怖くなるマグノリアを前に、ミチルはハラハラしてルークを見た。
だが、ルークは大きな決意をしたような顔で、父にパオン司教から聞いた話を説明した。
「正確には、ぼく、カリシムス候補。セイソン様降臨する時、数人の候補者、選ばれる。ここに来る前に、ミチルが会ってる男性四人、多分みんなカリシムス候補者」
「アァア!? なんだそのハーレムみたいな設定はァ! セイソンってのはそんなに偉いんか!? ああん!?」
息子が連れてきた彼氏(仮?)は実は五股してます、と言われた親の気持ち!
まるでヤのつく人のような雰囲気で、マグノリアはミチルに食ってかかった。
迫られたミチルは生命の危機を感じて泣きそうになる。
「おじさん、落ち着いてよぉ! そんなのは、邪教のヤツらが言ったことでしょ!? 鵜呑みにしていいの!?」
「む……! ま、まあ、そうだな。あのクソ司教の言うことなど、もはや信じるには値しない」
「でしょ、でしょ?」
拳を収めたマグノリアの様子に、ミチルはほっと胸を撫で下ろす。
しかし、すぐにまたマグノリアは頭を抱え始めた。
「ううん? そうなるとどうなんだ? 何が真実で何がウソなんだ? 私は何を信じたらいいんだ!?」
「何も信じるな! 魔教会に言われたことは全部ウソだ!!」
狼狽えるマグノリアに、ミチルは己の希望もこめてそう叫んだ。
「確かに、今の全部、魔教会に言われたこと。鵜呑みにするべきでない。でも、ミチルがぼくの狂化解いた、本当」
ルークが言うと、マグノリアは混乱した頭で一生懸命整理しようとした。
「う、うむ。では、やはりミチル君はセイソン様なのでは?」
「だからァ! ルークの狂化を解いたのは百歩譲ってオレかもしんないけど、それが出来たからセイソンだって言うのは魔教会のウソ! のはず!!」
ミチルはどうしても、世界の重要人物にはなりたくない。
「う……うん……?」
マグノリアの混乱は続く。口では魔教会は信じられないと言っていても、長年その教えを聞かされていただろうし、宗教による文化は簡単には切り離せない。これは根が深い、とミチルは辟易しそうになる。
「それと、ミチルは仲間の男性達とここに転移した、言った。父さんと兄さんの考え、ミチルの考えと同じなら、ミチルの仲間とも話し合う方が、いい思う」
「……なんだとぉ?」
五股のうちの四人にも会ってくれと、息子に言われた親の気持ち!
マグノリアはまたミチルを怖い顔で睨み始めた。
「ひぃん、で、でもぉ……ルーくんの意見に、ボクは賛成したいんですけどぉ……」
やっとはぐれたイケメン達を捜索できそうな雰囲気になって、ミチルはこの機会を逃したくはなかった。
ルードからの連絡待ちなら、その間、イケメン達を探し回りたい。
「キサマぁ……ルークの目の前で浮気ぶっこくつもりか、コラァ……?」
「浮気じゃねえしぃ……」
もう、なんて言ったらわかってくれるんだろう?
エリィの時はぶん殴ったけど、こんなオジサン殴ったら確実に血を見そう。
「父さん、心配しないで」
そこへ天の助け、いや、ルークの助け。
「ぼく、正々堂々と他の候補者、会います。それで、ぼくが必ずミチルの愛、勝ち取ります!」
「ル、ルーくん……」
イイ顔で決意表明するルーク。ちょっとキュンとしちゃう!
いやいやいや、そもそもイケメン達に取り合われるような身分じゃないから、オレは!
ミチルが心の中で押し問答していると、マグノリアは両手を上げて喜んでいた。
「よく言ったぞ、ルーク! それでこそループス家の男だ!!」
「はい、父さん!」
なんかよくわかんないけど、話がまとまってしまった。
「ならば至急、その輩四人を探し出そうではないか!」
「はい、父さん」
大丈夫かな……
でも、イケメン達と合流したいのはホントだしな……
「ふっ、見つけ出して情報を全て喋らせたら、暗殺してしまえばいい……」
おじさんが怖いこと考えてる!
逃げてぇ、イケメン達ぃ!
でも、会いたいよぉ! イケメン達ぃいい!!
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