17 ルークが一番大事
ミチルはルークとルークの父親、マグノリアに長い長い話をした。
カエルレウムでジェイと出会って、ベスティアを初めて倒したこと。
ルブルムでアニーと出会って、謎の商人、テン・イーを知ったこと。
アルブスでエリオットと出会って、チル一族の話を聞いたこと。
フラーウムでジンと出会って、ベスティアを操るアーテル帝国を調べようと決めたこと。
ここに来たばかりの時にルークに教えた話よりも、更に踏み込んだ内容をミチルは父子に話した。
主に、アーテル帝国、鐘馗会、テン・イーとベスティアの関係性について。
最初は、ラーウスは帝国に平和に統治されているようだったし、ルークが変身した姿があまりにベスティアによく似ていたため、ミチルはルークにそれらの話をするのを躊躇していた。
だが、今は違う。ルークの父と兄は、帝国に反旗を翻そうと言う。それなら、ミチルが抱いている帝国についての悪印象を披露しても問題ないのではないか。そう思ったのだ。
ただ、この話を聞いたルークの反応が不安だった。
この場で、奇しくもルークだけが話題の蚊帳の外にいるような気がして。
帝国と魔教会に、ルークだけはまだ好意を持っているようだから、急にこんな話をしてルークはどう思うだろう。ミチルはそれが不安だった。
「ううむ、なるほど。では……」
「ちょっと待って、おじさん」
考えながらも口を開きかけたマグノリアを制して、ミチルはルークに向き直った。
「ルーク、ずっと言えなくてごめんね。えっと……今の話、どう思った?」
「……」
ルークはミチルの目をじっと見て、ぽつぽつと語り始める。
「ぼく、前から変だと、思ってた。十年くらい前……? 兄さん、急に家を出た。父さんは、急に教会、行かなくなった。でも、僕には何も教えてくれない。だから、聞いちゃいけない、思ってた」
「ルーク……すまん」
マグノリアは少し苦しそうな顔をしていた。
ミチルはそれも仕方ないと思っていた。十年前ならルークはまだ八歳。そんな子どもに、今日からウチは国をひっくり返す活動してやんよ! とは言えるはずがない。
「そろそろ話さなければならない、と思っていた。だが、お前が不憫で……つい、先延ばしをしてしまったんだ」
「父さん……」
「ああ、それに私達は怖かったのだ。お前のように優しい子に、私達のしている事を知られるのが。お前に嫌われることだけは、ルードも私も本当に恐ろしくて……」
「父さん、ぼくは、知ってたよ」
「うへ?」
しおらしく両手で顔をおさえて懺悔する父は、ルークの言葉で間抜けな声を出して顔を上げた。
「父さんが留守の時、よく兄さん、帰ってきた。詳しくは言わないけど、『帝国はぶっ潰す』とか、『魔教会を信じるな』とか、よく言ってた」
ほぼ言っちゃってんじゃん! ミチルはあの破天荒アニキならやりそうだと思って聞いていた。だからルークはアニキの仲間を知っていたのか、とも。
ルークが困ったように笑ってそう言うと、マグノリアは拳をわなわなさせて長男への恨み言を言う。
「あ……あのヤロウ! 私の可愛いルークにとんでもねえこと吹き込みやがって……!」
「兄さん、言ってた。父さんが話してくれるまで、知らないフリしてろって。父さんは兄さんと違って、ここに重たい責任ある。だから、ぼくに話す決心がつかないんだって」
「見透かされてるぅ!! もう、ヤダ! 頭が良すぎる息子、ヤダ!」
悶絶しながらジタバタするおじさんの姿は、非常に興味深い。というか、無様だ。
ミチルがドン引きしていると、ルークはまたミチルに向き直って微笑んだ。
「ミチル、ありがとう。ぼくを気遣ってくれて。ぼくを一番に考えてくれる、ミチル言うこと、ぼくは全部信じます」
「ルーくん……」
やだ、ちょっと、そんな愛溢れる微笑みされたらキュンとしちゃう♡
急にドキドキしてきたミチルの手を取って、ルークは少し落ち込んで言った。
「ぼく、教会のこと、全部信じてる、なかった。でも、ミチルがぼくの前に現れて、プルクラ言われて、呪いがとける、言われて舞い上がってしまった」
「ルーくん、そうだったの……」
「だから、昨日は、ミチルを危険な目に合わせた。本当にごめんなさい……」
「いいんだよぉ、そんなの! ルークの気持ちはよくわかったから!」
ミチルもつい手をぎゅっと握り返して、熱をこめて言ってしまった。
ルークのスイッチが入ってしまうことも知らずに。
「ミチル……愛して、います……」
「ルーク……」
瞳を潤ませて、愛に溢れた表情のルークが近づく。
え、ヤダ! ちょっと待って!
これって、キッスされちゃうんじゃない!?
「ミチル……」
「あ……」
ミチルがムードに押し負けそうになった、その時。
「ルークぅうう! パパもいれておくれぇええ!!」
嫉妬に泣くおじさんのおっきい顔!
「ギャァアア!」
ミチルはそのどさくさに紛れてルークから離れた。誤魔化すためにちょっと大袈裟に叫んで。
あー、今のはヤバかった。うっかり絆されるところだった!
「……まあ、冗談はさておき」
一転して冷静に座り直したマグノリアは、もしかしたら見透かしたのかもしれない。
未だ心を決めかねているミチルを。
「次は私の番だな」
マグノリアはゴホンと大きく咳払いをしてから、威厳を取り戻すかのように低い声音で語り始める。
「ルークの『狂化』の呪い。そう仕組まれた経緯を……」
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